■大人の裏マ■

□ユーリ陛下のおもてなし
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自分で眞魔国へ通えるようになって、滞在時間を定期的にしたり、執務の量と時間も予定を立てたりできるようになってきた俺 渋谷有利は
直轄地の下町に小さな家を用意してもらって週2日ぐらいの割合でそこで過ごすようになった。
やっぱり産まれながらの庶民の俺としては何ヶ月経っても、あのだだっ広い寝室では落ち着けない。
身の丈にあった暮らしが、地球に帰られない時も少しは魔力の回復に役立つようだ。
何度も地球と往復して少しずつ地球にしかないようなものを持ち込んだ。
でも 地球でバイトをする時間がなくてあっちのお金がないので、本当はソーラーシステムにしてゲームとかテレビ(DVDしかムリだけど)とかって
初めは見ていた夢もあったんだけどそれはあきらめた。
「余りやり過ぎると地球に帰らなくなるよ。」って村田にも言われたから。

小さな家とはいえ二階建てで、一階が厩になっていて今回は愛馬のアオで来た。
階段を上がってちょっとデッキみたいになっているところに玄関がある。
2LDKで一応お風呂も作ってもらった。風呂好きだからこれは譲れない。
ムシロみたいなのがこちらにも存在しているので、ヨザックとダガスコスにお願いして用意してもらった畳もどきの和室が一つある。
もちろんこの家は土足厳禁だ。


《こんなイメージのお家です》



夕方 階段を上がってくる足跡がして、ドアのノックと同時に呼ばれた。
「陛 あ、いや 渋谷さーん」
「おう ダガスコス いま陛下って言いかけた?」
「すみません どうしても言いにくくて」
「シブヤってのが発音しにくいんじゃないんでしょ?」
「はい あ いえ、恐れ多くて言いにくいんです」
ダガスコスはお隣さんだ。まあそういう物件をグエンダルが選んでくれたらしい。
ヨザックの隣とかも候補にあったけど他国へ諜報任務に行った時は留守になるので、
俺の警護にはならないということだったらしい。
ナナタン・ミコタン・リリット・ラッチー・ダガスコスには奥さんと子供さんがいるのだが、
いつも血盟城勤務のために何日も家を空けていたりしていた。
しかし俺が隣に滞在している時だけは、ダガスコスも自宅で過ごしているので
俺が隣にいるのを奥さんは喜んでくれているようだ。
「ところでなに?」
「うちの家内から差し入れであります」
「こら 言葉遣い! 同僚と話すみたいにしてくれよ。」
「はあ それが 余計緊張して、難しいですね。」
俺がちゃんとした敬語を使うのは元々苦手で(これでも中学の野球部でしごかれたはずだが)
逆に普段敬語を使う奴が砕けて話すのも難しいんだな。
「あ、ピクルス ちょうどよかった 。」
「それから これ」
「あ、パンか。バターが効いていて美味しいんだよね。奥さんにお礼言いに行きたいんだけど。」
「それには及びません。むしろこれらはささやかですが日頃の陛下への感謝の気持ちなんですよ。」
眞魔国のスーパースター 渋谷有利陛下はお隣さんに入居してきたとき丁寧に甘いものを持って挨拶に行った。
(ダガスコスは隣の空き家にユーリが入居するなんて知られなかったから腰を抜かしかけた)
その時も身分をはっきり言わなくて、簡単にダガスコスの上司と言っただけだったのだが、
たぐいまれな見目麗しい双黒を隠さなかった(くつろぎに来ているのに変装はしたくなかったそうだ)のですぐにバレて、
大流行りした旅芸人の人気の立役者にもクールだった嫁が すっかりメロメロになっていた。
もちろんそんなことは有利本人には知られたくなかったし、たびたびやってくる陛下の側近の貴族の方々に知られたら
それこそ家族で彼方に飛ばされるとおもうと、
陛下と嫁の対面はできるだけ避けたいダガスコスであった。

「いい匂いですね」
「ああ、俺が作れる料理ってまだこれだけなんだよ。ダガスコスもたべる?」
「いえ、さっき嫁の作った飯を食べたばっかりでお腹いっぱいで。」
「そっか、じゃあ今度ご馳走するね」
ありがたき幸せと言うか、勿体ないというのか迷った挙句
「では 私はこれで」というのが精一杯だったダガスコスは
「うん ありがとう。じゃあ明日たのんだよ。」
にっこり笑って小首を傾けたあまりにも可愛い陛下の仕草で憤死寸前の震える膝を堪えながら帰った。
明日 血盟城へ帰る時はダガスコスも護衛に加わる。当然だけど。

有利はいつでも感謝の気持ちを表す。
その下々への気遣いがまた国民の支持率アップになっていると知らないのは有利本人だけだ。
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