■大人の裏マ■

□羽根付き
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このたび、俺さま 魔王陛下に「渋谷有利専用の骨飛族」が就任した。
本来お庭番がいればよかったんだけど、国一番のお庭番はグエンダル用だし、
生身の人を使うとヴォルフラムのヤキモチが半端ないので、俺専用のコッヒーをもらった。
コッヒーの右の一番下の少し短めの肋骨を外してもらっていて、それを俺の学ランのポケットに入れてある。
これで彼と連絡をするのだ。

俺専用とわかるように左の真ん中の肋骨に名札をぶら下げている。
地球の100円ショップで見つけたピンクのチューリップの名札。
安全ピンのところに紐を通して、コッヒーの肋骨に固定している。
名札の名前は
「まおうの」だ。もちろん文字は魔族語で。

こちらも夏が近づくと陽が長い?今日はGショックで5時ぐらいに出た晩飯を食ってもまだ明るいのだ。
寝るまでまだまだ時間がある。今日はヴォルフラムは里帰り中でグレタはアニシナのところだ。
テレビとかゲームがないこっちはこんな時辛い。暇って困る。
読書するにも、こっちの本はまだグレタが読める程度のものしか無理だから俺にはおもしろくないし。
でもこういう時は最近は俺用コッヒーに地球から持ってきて教えたトランプの相手になってもらっている。
今日は「うちわ」を賞品にポーカーだ。そろそろ暑くなるしね。
俺の手元の札は今、スリーカード状態だ。このまま上がるか、
フォーカードやフルハウスを狙おうか迷っていた。

クルックー

小さな羽根の音と共に白鳩便が来た。

「ん?どこから?」
ビーレフェルト領のヴァルトラーナからだ

…ユーリ陛下 、我が甥ヴォルフラムは昨夜から発疹を伴う熱病にかかり、
今しばらく血盟城に戻るのが遅くなると思われます。
ご迷惑おかけいたしますが宜しくお願い申し上げます。
まだ、病名もはっきりしなくて伝染するものかもしれないですから
うっかり、こちらに来ることのないよう、重ねてお願いいたします。

え?
ヴォルフラムが病気。
伝染病ぽいって

「コッヒーちょと待ってて。ギーゼラに他の情報を聞いてくる。」

部屋を出ようとしたその時にちょうどそのギーゼラがノックと共に来た。

「陛下?」
「ギーゼラ、ちょうどいい所に。今ヴァルトラーナなから白鳩便がきてね、
ビーレフェルトで流行っている病気て何なの?」
「あら、陛下早いですね。まだビーレフェルトの城の辺りだけの狭い地域ですが
ちょっと流行し始めたので、陛下は絶対この城から出てはいけないですよ。」
「そんな大変な病気なの?」
「命を落とすことはありませんが、少し厄介な後遺症が残る人もいるようです。」
「何て病気なの?」
「病状と広がり方から麻疹だろうと思われます。」

「ああ、はしか そっか。病名は分からないって書いてたのは?」
「症状や感性の拡がり方から、先程 麻疹と結論付けたばかりなのです。」
「そっか」
あれ?まてよ?おれ麻疹の予防注射、中坊の時にしたぞ。
お袋も付いてきていて、「小さい時に何回か予防注射して、
今回して、これでおじいさんになるまできっと大丈夫。」って言ってたな。

「安心してギーゼラ。俺、麻疹にはならないから。」
「そうなんですか?」
「三年前に何回目かの予防注射しているんだ。地球で。だから大丈夫。」
「地球は麻疹の予防接種あるのですね。それは良かったです。」

俺はよかったけど
「はしかって、何が大変なの?」
「まあ、高熱が続いて、発疹が口の中とかにもできて痛くて食事ができなかったりとか。」
まじで。そんなのにヴォルフラムとかビーレフェルトの人たちが苦しんでいるなんて。
「ギーゼラも治療の応援に行くんだろ?」
「はい。いま薬を積んでいるのですが、今夜には出発します。」
「そっか、ギーゼラも気をつけてね。」
ギュンターの娘は父親よりもしっかりしているから、安心だけど。
「ありがとうございます陛下。では
あ、ユーリ陛下、いいですか、
絶対出掛けちゃいけませんよ。」

鬼軍曹をチラつかせてくれたけど ギーゼラ、知っちゃったからには落ち着けないんだよ俺。
でも、ギーゼラに止められたってことはもちろん王佐や他の兄弟はわかっているよな。
こっそりヴォルフラムの様子を見に行けないかな。
って王の間のリビングスペースに行くとコッヒーが ポーカーを中断したポーズのまま固まっていた。
「いいよなー コッヒーは。羽根があるから、いつでも飛んでいけるもんな。」
そう呟くと骨が動き出す。
コッヒーがその長い腕で自分の肋骨を抱きしめるようにしてから、ブンと手を前に差し出した。
その手には薄皮の張った二つの羽根が。
「え?俺に貸してくれるの?それって俺が使えるの?」
俺を抱えてビーレフェルトまでは遠いみたいだけど、俺自身が飛んでいけるのなら絶対早いよな。
見るとコッヒーは歯をカチカチ鳴らしながらウンウンと頷いている。
その羽根をトランプが広がっているテーブルの上に置くと俺に服を脱ぐようにゼスチャーで話す。
よし。コッヒーの指図の通りに上半身脱ぐ。
そうしたら骨の手で部屋の端っこに壁に向かい合わせになるように追いやられて行く。
何だかわからないけれど、そのままコッヒーを待つ
ドスン
「うわ、コッヒー痛い痛いって。」
といきなり壁に胸を押し付けられて力まかせに激しい熱と痛みを伴って両肩甲骨のあたりにグリグリと衝撃がくる。
『我慢しろユーリ』
脳天の中にテレパシーが来た。
『眞王?』
『背中に集中して、骨飛族の羽根の根元を自分の骨に縫い付けるイメージで魔力を使うんだ。』
『う、わかった。』
そうだよな、しっかり固定しないと、あぶないよな。ってそんなことが俺にできるなんて知らなかったよ。

しばらくして、背中にリュックを背負ったような違和感が来た。
でもなんか、
おお、

バサリ

『移植成功だ。』
眞王のお墨付きが出た。

コッヒーがタオルで背中を拭いてくる。
あ、ちょっと出血している。
本当に移植って感じなんだね。
これ外すのも痛いのじゃ?
『慣れたら大したことはない。』
『眞王もやったことあるの?』
『何回かな。あんまりできなかった、戦争が終わらなかったから飛んでいると
下から槍や矢が飛んでくる時代だったからな。』
『そっか流石眞王。やっぱり魔王って羽根つけるときあったんだ。
でも、ありがとう。』
コッヒーもサンキュ。これでこっそりヴォルフラムのところに行ける。
羽根がなくなってほぼ骨地族になった俺のコッヒーがちょっと待てポーズをする。
ん?あ、そうか、いま上半身裸だ。
うーん羽根のついた体で着れる服って、あ、
そういやここに俺の学ラン 山ほどあるんだ。
「1着ぐらい潰してもいいよねー」
なんて鼻歌歌いながらさっき脱いだ上着をもう一度つかんで背中の部分を裾から裁ちばさみで切っていく
2列縦に平行に。
そんでそれを着てみる。
おお一応着れるけど裾にスリット入ったままだ。
うーん あそうだ
以前スタツアしたときにポケットに入ってたホチキスが あった引き出しに!
これでパチパチとスリットの裾を縫い付ける。手の届かない上の方は
コッヒーにやってもらった。

下着とか着てなくて、素肌に学ランの裏地の感触が何とも気持ち悪いけど、裸よりいいよ。

ちょっとテラスに出て飛ぶ練習を。

バサリ バサリ。

うん、いい感じ。でも俺ってばコッヒーより体重あるよねやっぱり。

『魔力で補助すると力はそんなにいらないぞ。』
『なるほど。』
「ねえ、コッヒー今晩俺の身代わりをしてて。 これ着て、布団に入ってて。」
っていつもの俺の青いパジャマをコッヒーに着せて布団に潜ってもらう。
羽根がないからすんなり着れる。
「お、似合ってんじゃね?」
小首を傾げて目の上の方の頭蓋骨を掻いている。
ひょっとして照れてる?

コッヒーが布団にもぐった。
『骨飛族がパジャマを着てベッドで寝る図はちょっと笑えないぞ。』
うーんまあ、遺跡のミイラっぽいけどね。
部屋の隅の果物かごにある甘くて、あんまり酸味のない果物を幾つかチョイスしてショルダーバッグに入れ袈裟懸けに担ぐ。
「んじゃ、お見舞いに行ってきます。」
『雲の下ぐらいの高いところを飛ぶようにしろ。あと陽がすっかり暮れてしまうと、道がわからなくなるからな。』
「あ、そっかこっちは街灯とかないしな。一応 地図とコンパス持っていこう。俺星読めないし。」

バサリ バサリ うーんいい感じ。お見舞いに行くのに、楽しんじゃうなんてごめんヴォルフラム。でも本当に清々しい感じだな。
あ、あっちの方にコウモリの群れが。コウモリと一緒なんてますます魔王っぽいあれ?コウモリって吸血鬼のペットだっけ。まいいか。
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