■大人の裏マ■

□羽根付き
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ビーレフェルト領へ続く街道の15メートルぐらい上を飛んでいると
、馬に乗ったコンラッド発見。弟のところに行くんだな。
幸い人気の少ない地域だったしもうこの高さならコンラッドに捕まることはないし
連れ戻されることもないだろうって控えめに叫んでみる。
「おーいコンラッドー。ヴォルフラムのとこ行くのかー?」
「え?
うわ 陛下!?
…びっくりした。」
本当に驚いて上を見上げている。
あはは、コンラッドのびっくり顔始めて見たような気がする。
「陛下?ギーゼラに止められませんでした?ヴォルフラムの所に行ってはいけないと。」
木の梢ギリギリぐらいの高さまで高度を下げる。
「そういうコンラッドも移るんじゃないの?」
「俺は昔流行している時にやりました。ヴァルトラーナもその時に罹っているはず。」
「そっか、んじゃ免疫ついているんだね。よかった。」
「よかったじゃないですよ陛下は?」
「俺 予防注射しているんだよあっちで。だから大丈夫。」
実のところこっちの はしか と あっちの 麻疹 が同じものかどうかわかんないけどね。
「それは良かったですけど…、それにしてもその羽根…。」
「どう?俺のコッヒーに借りてきたんだけど、
ちょっと眞王にもアドバイスしてもらってね、バッチリ移植したんだ。いい感じだよ。」
「すごい 禍々しくて カッコいいですね。 バットマンみたい。」
「ありがとう。一直線でいけるから先に行っとくねー。」

また高度を上げて一直線にヴォルフラムの近くを目指す。気がつけば夕日が下から欠けていく。
早く行かなくちゃ。陽がすっかり落ちるまでにはビーレフェルトのお城を見つけなくちゃ。
って焦っていると ようやく 探していたフォルムが見えてきた。
陽は完全に落ちて暗くなってきたけど、城と城下町の明かりが俺を励ましてくれる。
よし、これでもうあとは近づくだけだ。
高く高く飛んで、あとはグライダーのように滑空していくとその間は力がいらないし早いってわかった。
それをちょっと繰り返して明かりのついているビーレフェルト城の上に到着した。
ヴォルフラムの部屋のテラスにそうっと着陸する。
そういえば慌てていたから俺裸足のままだった。
テラスのタイルを踏んで始めて気がついた。そうか、空飛ぶのって靴いらないじゃん。いろいろ発見があるなー。

はーあ はーあ ふうー

初めての飛翔がいきなりの長距離だからか、結構消耗している。呼吸が整うまでテラスでとどまる。
でも体力が消耗しているだけで、眞王のアドバイス通りにはせず、魔力は温存していた。

窓から室内を覗くと、看護する人は何処かに行ったのか、ヴォルフラムがベッドで一人で眠っていた。
病気の時に一人ってちょっと寂しいよな。
キィ
そーっと起こさないようにテラスの戸を開ける。でも羽根があるのでいつもより大きく開ける。そしてペタペタとヴォルフラムの元へ近寄っていく。

ヴォルフラムは赤い顔でグエンダルみたいに少し眉間にしわを刻んで ああ、苦しそうだ。
白くて綺麗だった首筋に痛々しい発疹が一面に出ている。唇も少し赤い。口の中も痛むってギーゼラが言ってたっけ。
この城付きの癒しの係のひとの治療術では治らないのかな?
上掛けに投げ出されている左手をそうっと両手で取る。
「アッチー。これは大変だ。」
少しでも楽になればと、ヴォルフラムの熱を下げていく。
こっちの手がすごく熱くなってきた。羽根で緩やかに風を起こす。
手を握ったまま片手をずらしてヴォルフラムの額を触る。湯気が出そうだな。

そうだ、水、熱には水だな。口痛いかもしれないけど。
視線を巡らすと水の入ったポットとグラスをテーブルに見つけた。
ポットをもって少し魔力で中の水を冷やす。日頃のギュンターの特訓のおかげで、かなり水をいろいろ操れるようになっていた。
グラスに注いで少し飲んでみる。よし、このぐらい冷えたらいいか。
そのままもう少し冷たい水を口に含んでヴォルフラムに近寄る。
滅多にしない俺からのキスをする。寝ているから平気さ。
触れた瞬間、ヴォルフラムの顔が少し歪む。
わ、ゴメン痛いか。
唇に癒しの魔力をのっけて再チャレンジ。
ゴクリ
お、飲んだ。よしもう一回。
また口に水を含む。
ゴクリゴクリ

何が効いているのかわからないけど、ヴォルフラムの熱っぽかった呼吸が少し穏やかになっている。よかった。
少し安心してそのままヴォルフラムの手を握りながら頬から首筋の赤い発疹が広がっているところにそうっともう一つの手を置く。そこからも熱を取っていく。
しばらくして、金色のまつげが震えて緑の瞳が開く。いつもより潤んでいるのでちょっとドッキリする。
発疹出ているのにこんなに綺麗なやつって。
「ユーリ。」
声がかすれている。
まだ口の中が痛いのかな。
「うん、来たよ。どう?もう少し水飲む?水も痛い?」
「さっきの冷たい水は気持ちよかった。」
「そう、んじゃもう一回。あ、目を瞑っててよね。」
「ふふ、ユーリってば、…へなちょこなんだから。」
「うるさい。」
でも気を取り直してもう一度水を口に入れて ヴォルフラムにキスをする。
「もう一回欲しい。」
「うん。」
リクエストに答えてもう一度。

あんなに熱かったヴォルフラムの唇もちょっと緩くなってきている。
そのまま、普段だったらぜったにしないけど、俺から舌を入れてヴォルフラムの口の中を探る。
もちろん癒しのための魔力を注ぐためだ、もちろん!

すると突然ヴォルフラムがカッと両目を見開いて、俺の両肩に手をおいて突っ張る。
俺からくっついて行ったのに拒否られたみたいでちょっとショックを感じる。
でも、それっていつも俺がこいつにしていたこと。

「ユーリ、 なんてことだ。」
ヴォルフラムがガバッと身を起こしてベッドに座ろうとする。
「おい急に起きたら。」
ふらついている背中を支えに行こうとしたらまた払われた。
「ユーリ、此処に来てはいけないと叔父上に白鳩便を朝にお願いしたのだが、届かなかったのか?」
「来たよ。」
「僕は伝染病なのだぞ、こんな、接吻なんかされたら へなちょこなユーリなんかすぐに移してしまう。
ああ、どうしたら。ユーリ、すまない。」
高熱で赤かったヴォルフラムの顔が青ざめていく。

「ちょ、ちょっと ヴォルフラムさん。混乱しすぎ。」
思わず背中の羽根でパタパタと風を送ってやる。
「え?あ?
…なんだそれは?」
「ああ。これ?羽根?」今気づくか?ってああ、病気だしな。
「羽根…だな。」
「人にくっついているの初めて見た?」
「ああ、ユーリ、どういうことだ?」
「俺のコッヒーにちょっと借りて移植したんだ。また、外して返すんだけどな。」
「そんなことができたのか。」
「ほら、眞王がコンラッドの腕くっつけたみたいな、あれより簡単みたいだけど、眞王にもちょっと教えてもらってね。」
「ユーリ…。」
「そう、ヴァルトラーナからの白鳩便を見て飛んできたんだ。」
「でも、だってユーリ陛下にこんな病気を移したなんて…事になったら、僕…。」
うーん、まだ峠を越えただけだから?いつもの わがままプーが、頭を抱えてオロオロしちゃってなんか可愛いかも。
「辛いのに俺の心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよヴォルフラム。
その病気ってギーゼラが言うには はしか っていうんだって。
おれは 麻疹 にはならないよ。地球で予防注射しているから、かからないんだ。」
「よぼう ちゅう しゃ…。」
「うん、そう。だから、だから俺の事は大丈夫だから安心して自分が治ることをイメージするんだ。
ほらもう少し横になっとけよ。」
そう言いながらまたヴォルフラムに近寄って、布団に横たわるのを補助してから頬を撫でる。
よかった。もう微熱ぐらいに熱は治まってきている。
「そうか、それはよかった。それで僕のためにそんな姿になって飛んできてくれたんだ。」
「うん、飛ぶって凄いよ。コンラッドの馬をさっと抜かしだんだもん。」
「コンラートの馬を?それは凄いな。」
「本当はスタツアのほうが早いんだろうけど、そっちは魔力がいるからね。」

すっかり俺の後ろのテラスの風景は真っ暗になったというのに、ヴォルフラムがまぶしそうな顔をする。
「ユーリ、ユーリに骨飛族なんかの羽根があったら、こんなに禍々しくて美しいなんて。」
それさっきコンラッドにもいわれたな。
「そう?似合う?」
そう言ってくるっと回ってみせる。
「おとぎの国の主人公のようだ。」
「そうかな?」
「よし、元気になったら僕がお話にしよう。きっとアニシナの物語より人気が出るぞ。」
「挿絵まで自分で書いて?」
「もちろん。」
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