■大人の裏マ■

□秋の香り
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「なんて素晴らしいのでしょう。」
王佐が泉で感嘆の声を上げる。
「ギュンター、子供みたいにはしゃぎすぎだぞ。」
「しかし、ヴォルフラム、先ほどから泉の底から 小さいオレンジ色のものたくさん湧いてきています。
それがこの香りの正体でしょう。」
確かに、泉の真ん中から周りに向かって オレンジ色の小さな星のようなものが無数に浮いている。
よく見るとそれは小さな花だ。
「そんなの見ればわかる。あ、」
オレンジ色の花が水と混ざるようにして渦のように激しく動く。
それは泉の周りに集まっているいやこの国中が待っていた魔王の帰還の瞬間でもあった。



「プファー、おい村田。」
バシャバシャ
「ごめんって。」
二人の双黒が泉から現れた。

「いきなり突き飛ばすことないだろう?」
「だからゴメンって。しょうがなかったんだよ。」

「あーあ、こんなにたくさん連れてきちゃった。」

オレンジ色の水面の真ん中で魔王陛下が立ち尽くす。
黒い髪や衣装にも無数の星のように花が張り付いている。

「ユーリ?どういうことだこれは?」
ヴォルフラムが一番に尋ねる。
「今日は公園の池のところから来たんだけどさ、村田に突き飛ばされたんだよ。
そうしたら、そこに植えられてたキンモクセイって木にぶつかりながら池にハマってしまって。」
「だって、蜂が渋谷の顔を狙ってたから。」
「猊下は向こうではお一人で陛下をお護りくださっているんですものね。おつかれさまです」
王佐は双黒の大賢者をねぎらう。
「いやいや、なんにもしてないよ、だって家も近所とはいえちょっとは離れているし、
学校は違うし、示し合わせないと中々会えてないんだよ。」
そう言って猊下と呼ばれた見た目少年が言う。

「そうなのか?ユーリ。猊下の都合が悪いなら、次からは僕も地球に行こうか?」
「うーん、まあ、別にヴォルフラムが地球に来てもいいんだけど、
俺の地球での生活にお前がくっついていても別に守ってもらわなくちゃいけない危険はないし。
お前が耐えきらないほどの暇を持て余すだけだ。
それに向こうはほら剣は下げられないから。」
「剣がなくとも、僕自身が盾になることはできる。」
「ヴォルフラム、そんな事は絶対させないから。」
なんだかんだ言って この婚約している二人は仲が良い。

「ユーリおかえり!」
「あ、グレタも来てたんだ。ただいま。」
ユーリの義理の娘が父親が濡れているのも構わず抱きつく。
「本当にユーリいい匂い。」
「そう? 気に入ってくれたんならこれ。」
そう言ってユーリが黒い上着のポケットから小さな小瓶を出す。
そこにはオレンジ色の花がいっぱいに詰められていた。
「グレタにあげようと思って詰めていたんだ。
そうしたらこう言うことになって。
でも、蓋をした後でよかった。」
少女がキラキラした瞳で瓶を見つめる前でユーリが蓋を回し開ける。
「薬が入ってた瓶なんだけどね。」
中から遠く離れた乾いた地球の空気が金木犀の香りとともに解放される。
「うわあ 本当いい匂い。」
少女のにこやかな表情を確認したユーリはもう一度小瓶の蓋をして
彼女の華奢な手に載せる。
「はい、今日のお土産。明日いっぱいまでは楽しめるかな?」
「ありがとう。でももっと長く香るようにできるかアニシナに相談しようっと。」
「そうだな。」
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