SHORT STORY
□もう少し…
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何気ない一日だと思ってた。
大きな仕事の打ち合わせの後は大好きな甘いものを買う、という彼の人が居た時からの習慣は今でも続いている。いや、私がやめられないでいるだけ。
今日も今日とて打ち合わせの帰り道で気になるお店に入り、ケーキを買った。私が好きなチーズケーキ。
彼の人がいた頃はよく食べ比べとかしてたな─
そんなことを考えていると習慣とは恐ろしい…1人では到底食べ入れそうにない量を買ってしまった。
またやってしまった……これで何回目だろうか
ぼうっとしながら歩いていると反対側から歩いてきている人に目をやる。
──見間違えるはずがない。だって……彼の人は私が…何年も何年も探し続けてきた人だから─
周りの人の目なんか気にしていられなかった。ここで行かなきゃもう2度と会えない気がして─
『…零くんっ!!』
腕を掴みながら半ば叫ぶようにその名を呼ぶ。
その人は驚いたように目を見開いてからにこりと微笑み──残酷な言葉を言った。
「……どちら様ですか?その、“零”という人は知りませんし、僕の名前は
─安室透です。」
『え、あむろ…とおる……?』
「…えぇ」
『そんな…人違い?』
そのまま腰が抜けたようにずるずるとその場にしゃがみこんでしまう。
零くんじゃなかった…?
嘘、私が見間違えるはずがない。
だってこんなにも…こんなにも会いたかったんだもの
ねぇ、零くんなんでしょ?
笑いながら
─「柚は俺を見間違うのか?」─
ううん。見間違えたりなんかしないよ
─「だったら自信持てよ…お前は俺の…………
彼女なんだから」─
苦笑しながらでも少し照れたように頬を赤らめながら……
貴方の一言で私の心は不安が嘘のように消えるのに……今は貴方の言葉で不安しか残らない。
だから、
だからその貼り付けたような笑みを私に向けないで─
また昔みたいに笑ってよ─
“僕”だなんて言わないで──
もう1度……私の名を呼んで────