SHORT STORY
□日常
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「ねぇ臨也くん……暑いわ溶けそう」
「はぁ…もう少し頑張りなよ……ていうか俺にくっついてるからより暑いんじゃない?」
「……いいの。離れたくないもの」
そういう私に彼は呆れたようにため息を吐いた。
普段家からあまり出ることのない私だが、今日は臨也くんの…いや、私たちの依頼人との打ち合わせのためしぶしぶ着いてきたのだ。
そのため私は全く乗り気ではない。…決して……臨也くんとデートだ、なんて浮かれてなんかいない。断じて違う……こんなに暑いだなんて聞いていない。
そんな時、贔屓にしているチョコレート屋の新作、という文字が目に入った。
絡めている腕を軽く引きながら
「…私あのチョコ食べたい」
「……打ち合わせが終わったら買ってあげるよ」
「私は今がいい」
「全く君は…我が儘だなぁ」
そんなことを言いながらもお店に向かってくれる彼は優しいと改めて思う。今回の仕事…少しは頑張ろうかな、という気にさせられないでもない。暑い中呼び出してきた相手のことは恨むが頑張ってあげないでもない。
とまあ上からなことを考えていると
「どれがいいの?」
「え、」
「ほら、新作だって1つじゃないだろ?この中のどれがいいんだ?」
「え、えっと…こっこれ、がいい…」
「了解」
「はい、これで今日は頑張りなよ?」
「もちろん!…えへへ……ありがと…」
きゅっと買ってもらったチョコレートを胸に抱く。
そしてすぐに臨也の腕に自分の腕を絡めて
「えへへ……嬉しいなぁ」
そう言うと本日何度目か分からないため息を吐かれたが気にしない。
そのまま依頼人の話を聞いて仕事内容を確認する。
基本私はあまりこういった話をしないし聞かないため何がなんだか分からなかったが、先ほど買ってもらったこともあるので何とか頑張って聞いていた。
そんな私を知ってか知らずか
「柚…話分かった?大丈夫?」
……心配なさらずとも全く以てわからなかったわだなんて言えるはずもなく…………
「え、えぇ…なんとなく……」
「そう?」
まあどうせ彼は私が分かっていないことを分かっているはずだからあまり気にしていないが…依頼人の手前格好をつけたいのもまた事実。
そうこうしている内に打ち合わせは終わったらしい。
一刻も早く帰りたい……
「帰ろう?」
「んーそうだね…本当は寄りたい所があるんだけど今日は柚頑張ったしね?……話は相変わらず聞いてなかったみたいだけど」
「…うっ……そういう貴方は相変わらず痛いところ突いてくるわね」
「それはお互い様だろ?」
と言い彼は笑う
そんな彼を見てつられて私も笑う
こんな幸せな日々が続けばいいのに……
私は貴方みたいに人間全てを愛せないから…………
私は貴方だけがいてくれればそれだけで……
ねぇそんな私の気持ちを貴方は知っているのかしら
知らないでしょうね
私は貴方以外を愛せないなんて───