短編集

□保健室での初体験☆
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「せーんせっ」

「ん…?あぁ、またお前か…。……宮月。」



足取りよく保健室に入ってきたこいつは宮月涼夜(みやつきりょうや)。

一見どこも悪そうに見えないが、いつも授業をほったらかしふらふら出歩いていて毎日といっていいほど怪我をして保健室通いをしている。



「そんな言いかたってなくないですか?先生ー。」

「はぁ……、毎日保健室に来るやつがあるかっ。ほら、怪我見せろ。」



ほーい、と軽く返事をすると宮月は俺の前にある椅子にドンッと座った。

そして制服のズボンを捲ると膝の辺りに擦り傷ができ、血がじんわりと滲んでいた。



「ったく、どうしてこんなに怪我ばかりするんだか。」

「んー、じゃあ今度先生も一緒にします?木登り!!」

「…しないっての。」



本当に、なんでいつもいつも怪我するかなぁ。正直、手当てをするのは嫌いじゃない。が、こう毎日毎日来られると流石に俺も心配になってくる。

まあ、困ってる動物を助けてるって噂もあるし、たまに引っ掻き傷みたいなのもあるし本当なんだろう。



「あんまり危険なことするなよ?俺だって心配してんだからな?」

「…はい。」



どうしたんだ?何か急に元気がなくなった気がする。そりゃあ動物はほっとけないかもしれないけど、自分の体も大切にした方がいい。



「ほら、終わったから教室戻れ。」

「…。」



宮月はふらふらしながら立ち上がった。しかし、すぐにふっと前に倒れてきたため、慌てて支えに入る。



「お前、大丈夫か?やっぱ少し休…んっ…!?」



何か首にぬるっとした生暖かい感触が伝う。それが宮月の舌だと気づいたのは数秒後だった。



「は?お前何し…っう……んんっ…。」

「先生。俺、先生のこと好きです。」

「っう…。」



好き、ねぇ。正直、よくいわれる。ここは男子校なわけで彼女も出来ず性欲が溜まってしまうのだろう。俺は他と比べれば美形な方だ。だから狙われやすくもある。

けど、肉体関係が欲しいなら他を当たってほしい。



「あ、のなぁ…、俺は生徒の性欲処理をするつもりはない。そういうのは、浅見にでも頼めっ…。」

「はあ…?」



浅見…は保健体育の教師だ。しかし変わったやつで、複数人の生徒と肉体関係を持っている。実際、気持ちよくしてくれれば誰でもいい、と本人が言っていたわけで生徒の性欲処理にも丁度いい相手らしい。



「別に俺は性欲処理したいわけじゃないんすけど…。つーか、生徒って俺も周りと同じレベルかよ…。」

「………。」



性欲処理じゃないなら、なんだ?色々聞きたいが、どんどん宮月の表情が暗く………というか、苛立ちと悲しそうな顔になるため、聞くに聞きにくい。



「俺は…先生、…葉谷幸さんが好きなんです。」

「…!?」



驚きと恥ずかしさで一気に顔に熱が集まる。いや、好きとはさっきも言われたのだけど、まさか名前で呼ばれるとは思わなかった…。

戸惑って、はぐらかそうとするが言葉が出てこない。なんていうか、宮月の視線が真剣で、鋭くて………俺…おかしいだろ…。



「先生、返事は…?」

「あ、いや…その………。」



どうするべきだ…?別に、宮月の事は嫌いじゃないし密かに来るの楽しみにしてたり…したけどっ……。正直、恋愛対象…かはよくわからない。



「あー……、先生、本当かわいいです。」

「へっ…?」



急に視界がぐるっと変わった。状況を理解するまでに、少し時間がかかった。そして、気づく。

俺、押し倒されてんじゃん……。

俺の上には宮月がいて、俺はベッドに押し倒されていた。どうしてこうなったんだ。



「答え、だしてくださいね?」

「んっ…!」



宮月は妖しく笑みを浮かべると、俺のモノに触れた。



「って、おいっ……!」



宮月は俺のに触れるのを止め、ワイシャツのボタンを一つ一つ外してきた。なんとか止めようと宮月の腕を掴むが力及ばず、虚しくもどんどん脱がされていく。

…たく、なんで教師なのに生徒に力負けしてるんだか。何か悲しくなってくる……。



「っ……宮月。お前、いい加減にしろよ。これ以上はシャレになんねぇ。」

「っ…。」



俺は教師で、宮月は俺の生徒だ。他の関係になっちゃいけない。それ以上でもそれ以下でもないんだ。例え、今日のことで宮月がここに来なくなろうが、関係ないんだ。



「そんなに、嫌ですか。」

「…嫌とかそういう問題じゃ無い。お前は生徒なんだ。こういう事をする関係じゃあない。」



俺はまっすぐ宮月を見て言ったが、宮月はふっと顔を横にそらした。下唇を噛み、ぐっと何かを堪えているようだった。



「そ、です……ね。…ごめ、な……ぃ…。」



そう一言残して、宮月は保健室を出ていった。最後の言葉は掠れていて全部は聞こえなかった。そして、出ていく寸前宮月の頬には涙が一粒、伝っていた。

反応からするに、本当だったのか…。けれど、宮月に対しての恋愛感情なんてあるとは思えなかった。
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