dream 短

□流るる髪の梳かしあい
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ひとまず髪の全体に櫛を通して満足した名前は、もういいよと声をかけ、半助の背中に顔を埋めた。むさ苦しいほど半助の匂いがする。
深く深呼吸していると、ふっと半助の腕が伸びてきて名前の頭をわしゃわしゃと撫でたかと思うと
「名前の髪も傷んでるじゃないか!私が梳かしてあげよう」
と、手の中の櫛を取って今度は半助が名前の髪を梳かしはじめた。
半助の梳かし方は、少し荒くて時々痛いと思うこともあったが、毛先の絡まりや髪をすくうときは丁寧に丁寧に梳かしていったのだった。好きな人に髪を触られるのは何だかむずがゆくてゾクゾクする。
「せっかく綺麗な髪なんだからちゃんと梳かしなさい」
半助はまるで昼間のときの教師の口調で話した。しかし本当は、櫛を入れるたび真っ直ぐになる美しい黒髪に、その隙間から覗く白いうなじに今にでも噛みつきたくなる衝動に駆られていた。恋人の黒髪を自らの手で美しくするなんて、なんて情熱的なのだろうと。
「先生?」
名前の声で半助はハッと我に帰る。きっと目の前のものに気を取られ手が止まっていたのだろう。半助はオホンッとわざとらしい咳払いをした後、櫛を机の上に置いた。
「さあ、終わったぞ」
「ありがとうございます」
と名前は微笑んだ。もちろん初めにこの部屋に来た時よりツヤツヤと輝いた髪は、普段の手裏剣を投げたり裏山を走ったりする勇ましいくのたまの姿とは裏腹に、女という存在を意識させた。
半助は、まだこの小さな少女が時を重ね、いずれ大人の女性へと変貌していく姿を想像した。それは大変魅力的で、今にでも心の箍が外れてしまいそうだったが、何とか理性を持ちこたえさせた。
そんな半助をよそ名前は半助の瞳の奥の熱を感じ取り、腕を回して抱きついた。そして耳元でこう呟いた。
「土井先生の髪を梳かしていいのは私だけだからね」
半助はこの幼さゆえの可愛らしい独占欲に、少しだけ今のままでいいと思った。

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あとがき
土井先生は絶対独占欲強いと思う。
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