dream 短

□病は恋の素
3ページ/4ページ

半助は名前の背中に手をやって起き上がるのを手伝った。
まともに女の体を触るのなんていつぶりだろうと、変態すれすれのことを考えながらゆっくりと名前を起こした。
薄ら火照った顔と、焦点の合わないトロントした瞳。既に心臓がドクドクと鳴っていたが、目の前にいるのは病人なんだと半助は自分に言い聞かせた。
箸の上に一口分のせたお粥を名前の口へ運んでいくだけで指が震える。まるで小さい子供の世話をしているような、はたまた名前を我がものにしたような不思議な気分に陥ってしまいそうだった。
名前の唇が箸をとらえるたびに、その感触が箸を伝って半助の指先に伝わる。それがどうしようもなくむず痒かった。
元はと言えば、私が昨日障子を開けてプリントの整理をしていたから名前に風邪を引かせてしまったのだ。そのせめてもの罪滅ぼしにと、何度も何度も名前の口へお粥を運んだ。

やがてお粥を全て食べきり、食欲はあるのだと分かって半助はホッとした。そしてお粥のお盆を持って部屋から出て行こうとすると、何かが腕を掴んだ。この部屋で腕を掴むものと言えば…と視線を下げると、案の定名前だった。
「もっと側にいてください…」
そう言う名前に、半助はこの時ばかりは何事かと思った。一瞬訳が分からなくなったが、病人というのは人肌恋しくなるのだと思い出して納得しようとした。しかしあの名前がこんなにも人が変わったようになるなんて、風邪に感謝したらいいのか悪いのか。もう色々と吹っ切れた半助は少しの迷いを捨てきり、
「分かりました。でも名字先生が眠るまでですよ」
と言うと名前は満足げに布団の中に入った。
自分はどういう体勢でいたらいいのだろうと思ったが、きり丸を看病する時と同じようにした。それは同じ布団には入らないものの側で添い寝してやることだった。
それからしばらくすると名前は子供のように大人しく薄眼を開けてぼんやりしていたが、眠くなってきたのかうとうとしだした。そんな名前を見て半助は、子供をあやすように
「寝なさい。ここにいるから」
と優しく声をかけた。こんなことを言っておきながら名前が完治した時どう顔を合わせればいいのだろうと半助はため息をついた。それと同時に名前は一言だけ眠ってしまった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ