dream 短

□病は恋の素
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名前が目覚めると、すっかり体調は良くなっていた。明るかった障子の向こうもすっかり暗くなっていたことから、だいぶ時間が経ったのだと察した。
まだ意識はぼんやりとしているが、さっきまでとても良い夢を見ていた気がする。内容は詳しく覚えていないが、半助が出てきたことは覚えていた。風邪のときにこんな夢を見られるなんて幸せだったなあと余韻に浸っていると、ふと自分の襟元に米粒がついているのに気づいた。朝から何も食べていないはずなのに…と記憶を辿っていくも、本当に食べた記憶がない。唯一あるとすれば、夢の中で半助にお粥を食べさせてもらったことくらいだ。
そのうち意識が覚醒していくにつれて、名前は我にかえった。もしかしてあれは夢ではなく現実だったんじゃないかと。風邪で意識が朦朧としていたこともあり確実にそうとは言えないが、もうそうにしか思えなくなってしまった。現に米粒という証拠まであるのだ。
(もし夢でなかったというなら、私は何てことをしてしまったんだ…。)
名前は自分のしでかした失態に後悔し、加えて明日はどんな顔で土井先生に会えばいいのだろうと顔を赤くしながら焦った。だんだんどうしようという気持ちから恥ずかしいという気持ちに変わり、遂には布団に顔を埋めてバクバクの心臓を抑えつけようと必死に深呼吸をした。今夜はきっと寝られないだろう、と名前は緩んだ口元でため息を吐いた。

一方その頃忍たまの母屋では、いびきをかいて寝ている山田伝蔵の横で半助がため息を吐いていた。ため息の理由は、今日の授業がまるで上手くいかなかったからだ。授業の最中も気が散り、乱太郎きり丸しんべえに心配されるほどだったのだ。チョークを何回も落としたり、同じ文字を2度書いたりもした。こんなに神経が乱れているなんて忍者に向いていないのではないかと不安に思ってしまった。
ため息の理由はそれだけではない。あの名前へお粥を持って行った際の出来事、詳しくは名前が眠り間際に寝言のように放った一言が、ため息の理由の大半を占めている。自分がこんなにも女に耐性がなかったとは思っていなかった。いや、女に対してというよりは、名前に対してかもしれない。
半助は昨晩のことを思い出した。あの後自室に戻ってから、名前の色香漂う雰囲気が頭にまとわりつき離れなかったことを。自分はもしかして名前を好いているのではないかということを。決して今まで名前を意識したことはないということはないのだが、核心に迫るだけのきっかけがなかった。だから今回のことで自分の心がハッキリするのなら…と、半助は名前が放った一言を何度も何度も頭の中で繰り返した。

『土井せん、せ…好き』

教師をやっているこの私をいとも簡単に心を掻き乱すのは名前なのかと確認するように。

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恋に慎重、奥手そうです。
尻に敷かれるタイプかな!?
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