短編小説
□夢見ていた乙女ゲームに転生しました
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スールス目線。ー守るべき主ー
桜の蕾がほのかに色づいた春の日のこと。
「この通路を通れば、なんとかなると思う」
「いや、それはまだ甘いんじゃないか」
齢13になった遥と晃一朗は二人で遥の部屋に籠り、ある計画を練っていた。
二人は悪だくみが大好きで時よりこうして計画を練っては実行し、執事を困らせている。
スールスとソレイユは、今日もその延長線だろうと思い、二人の様子を眺めながら、くあっーと大きな牙を見せて欠伸をする。
「楽しみだね、金坂おじ様の驚いた顔」
「あぁ。こうやって毎回遥の面倒事に付き合わされる俺としては、いい加減懲りてほしいものだけどな」
二人は佳哉を奪っていった張本人にまた訪問しに行くつもりなのだ。
“また”に注目してほしい。そう、数えきれないほど、二人は金坂のもとを伺った。しかも、ただの訪問ではなく、全て制裁の件であるから質が悪い。
いきなり現れるのにも面倒になって、晃一朗に転移の術式から危険察知の術式に切り替えてもらったらしい。
私たちは、それを聞いてまたかとでも言いたげな顔をする。
「仕方ないよ。懲りないんだもん」
口を尖らせて言う主に、私…スールスは目線を主の隣にいる晃一朗に向け、一つ息を吐く。
不本意ではあるが、強力な護衛が付き添うので主に危険はないであろう。不本意ではあるが。
スールスは主の無自覚にまた、ため息をついた。
「では、行ってまいる」
笑顔で留守番の私たちに手を振る主。露草色の瞳を細め、赤い唇は弧を描く。そんな主の笑顔は凛とした花が咲くように鮮やかで、この先もたくさんの人を魅了するのであろう。
そんな天真爛漫、悪く言えばお転婆な主に振り回され、泣いた男の後始末をする私とソレイユの姿が目に浮かんだ。面倒だと思うと同時に、主の笑顔が見られるならと喜ぶ自分もいる。
案外、私はマゾなのかもしれないと焦ってしまった。
思えば、姫を主と認めたときも、自分がマゾかもしれないと焦った気がする。
☆
私には天命があった。そのためだけに生き、またそのためだけに死ぬ。天命を果たすことこそが精霊にとっての至高の幸福。
私と同年代の高位の精霊たちはみな精霊神の
お声をきき、天命に従っていた。が、私と赤い体の精霊は一度もお声をきいたことがなく、いつの間にか落ちこぼれと称されるようになっていた。
そんな悪口は、気高い私のプライドをいとも簡単に傷付けていった。
朝日が昇り、今日もまた無意味な祈りを捧げにいくのかと嫌気がさした。どうせ、私に天命はない。
「サボってしまおうか」
「駄目。俺と一緒で青いやつはまだきいてない」
頑固な私の幼馴染の赤いやつは無理矢理、私を精霊の始祖、世界樹の元へと連れて行った。
「風が違う」
私はポツリと呟いた。世界樹の領域に足を踏み入れた途端、違和感を感じたのだ。その正体は、風。
いつものように柔らかいものではなく、肌をかすめる暴風に魔法を練って、警戒する。だがそれは無駄だったようで。
威圧的な存在感を放つ人物が降り立ってきたのだ。その人があの精霊神なのだと私の第六感が告げる。
そこからは感極まって、よく覚えていないが、旨は
『お前たちに月の姫の守護を任せる』
というものだった。
初めての天命。私は高揚を隠すことができず、泉を、海を、川を走り回った。
長年夢見ていたことが叶ったのだから当然だろう。いや、むしろこれだけでおさまったことに驚いている。
それからは流れるように月日が過ぎていき、姫様を見つけたのは満月の夜だった。
まさしく月の姫と言っても過言ではない美しさに私は見惚れてしまった。
しかし、彼女は美しいだけではなかった。成長するごとに垣間見えた彼女の内面は、とんでもなく行動力があり、危険な所に自ら飛び込んでいくところ。
その時点ではまだ主とは認めていなかったが、ある事件で私たちは主がただの馬鹿ではないと実感し、忠誠を誓うようになった。
でもその話はまた今度。
☆
遠くなっていく主の背中を見ながら、私はふっと笑みを零して項垂れた。
ー忠誠を誓ったあの日から、すべては主のためにー…