一人じゃないよ、大丈夫だよ

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『まずは、私を助けてくださりありがとうございます。あなた方には感謝してもしきれません』

「んなの気にすんなって!
それより、名前は?なんてーんだ?」

『名前は、綾夏。あやかといいます』

少女…もとい綾夏は、ペンと紙を使ってようやく「お話」ができるようになった。
綾夏の字は丁寧で優しい印象で、このふんわりした容姿にぴったりの字であった。

彼女は、基本どんな質問にも答えた。
年は15。好きな色も、季節も、異性のタイプも、紙に答えが記されていく。
クルー達のそんな質問攻めを遠目に見ていたゾロは舌打ちをした。
揃いも揃って、どこの奴かも分からないのとくだらないことを話しているのが気にくわなかった。

互いの自己紹介の時も、そして今も一向に口を開かないゾロを綾夏はじっと見つめていた。
彼がどんな人なのか知りたくて、たまたま近くにいたサンジに『あの人は?』と書いたメモを見せてゾロへ目配せをした。

「あんなのは放っておいていいよ。マリモが人に化けてるだけだから」

『まりも…』

「オイ俺はマリモじゃねぇぞこの野郎」

「あぁ?こんな可愛らしいレディに挨拶の一つも出来ねぇ奴が人間なわけねぇだろ」

「上等じゃねぇか…エロコック」

途端に喧嘩を始めた二人を見て狼狽える綾夏に、ルフィは「面白いだろ!!」と笑った。

『止めなくていいんですか?』

「いつもあんなだから、今さらだろ〜」

『いつも…』

呆然としていると、何やら真剣な顔をしたナミが綾夏に話を切り出した。

「ねえ。これから、どうしたい?
たまたま海に落ちてた貴女を助けたけど、私達は海賊。あまり良いイメージはないでしょ?ここにいても良いことなんかないし、なんならトラブルだらけよ。危ない目にも会うし、命だって危ないかもしれない。言っておくけど、命の保証はできないわ」

確かにその通りだ。
けれど、自分を助けてくれたこの人達に恩返しをしたかった。生まれてから人の役に一度も立てなかった自分だが、せめてなにかこの海賊団に役に立ちたかった。

『…なら、次の島に着くまで、私に雑用をさせてください』

「雑用?」

『掃除とか、お洗濯ですとか…。料理はサンジさんがコックとお聞きしましたので、そちらはできませんが…』

つらつらと書き連ねていく文の最後には、『一度でいいから、人の役に立ってみたいんです』と少し小さく書いてあった。

「…じゃあ、着いてきて」

「…?」

「これからここで暮らすんでしょ?
この船、便利なのが多いから色々教えてあげるわ」

『それじゃあ…』

「しばらくよろしくね、綾夏」

差し出された手を握って、綾夏は嬉しそうにはにかんだ。

ーーーーーー

「そういえば綾夏。あんたどこから来たの?落ちてきたときの格好とか、見慣れないものだったし…」

あれこれ説明を聞いて船を回っていた時。
不意にナミがそんなことを訊いた。

『え?あれ制服ですよ。学校の』

「制服…?海軍みたいな?」

その反応に、綾夏は嫌な予感がした。

『ナミさん…日本には、どうやって帰れますか?』

「え?に、にほん?どこよそれ。どの海の島なの?聞いたことないけど…」

嫌な予感が、的中した。
薄々感じてはいたのだ。日本人離れした顔立ちも名前も、見たことない道具も。
ここは、自分が知っている世界ではない。自分がいた世界じゃない。
違う世界に、飛ばされてしまった。

「ちょっと、綾夏?」なんて呼びかけてくるナミの声が段々遠のいた。
この船を降りる日までに、帰り方を見つけなければいけない。でなければ、この訳の分からない世界でこのまま…。

冷や汗が、背中を伝った。
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