テディベア

□02.
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風呂上がりの綾芽は
偶然後から入って来た合宿メンバーの女子二人と一言二言交わし、一人で上がった。
普段一緒に居られない幼馴染の影山と四六時中一緒にいたいのは山々だが、公の場でそうはいかないのが事実。


『(コーヒー牛乳買っていこっと。飛雄は牛乳かな)』

男女の浴場エリアから出て、売店エリアへ。人が寄ってない自販機で二本の飲み物を買う。

そして部屋に戻ろうとした時。綾芽の目の前に男子が三人立った。

「真白さんスゲー強いよね」

「髪サラサラじゃん!」

『あ…そんなことないです』

「そんな事あるって!めっちゃ可愛いし、モテるっしょ?」

『いや……えっと…(うー……)』

「じゃあ影山と付き合ってんの?」

『飛雄は幼馴染です……』


一向に退く気がない三人は、影山が綾芽の彼氏じゃないと分かった瞬間一気にテンションが上がる。
綾芽は今日が初対面の彼等に困っていた。断る勇気がない。そして影山が偶然通ったりもしない。どうしたものか。

_____________そんな時。


「じゃあさじゃあさ_________「おい」」

「!…佐久早!」

『…』


偶然売店を通った佐久早が囲まれる綾芽の隣に立ち、三人を見下し「困ってんの見て分かんないの?」_____________落ち着いた口調でそう言った。

その台詞は脅す積りも、勿論殺気のようなものも一切含んでいない筈なのに、三人をビビらせるには十分だった。三人は其々謝って早々に失せた。


「……大丈夫?」

『はい……ありがとうございます』


ほんの少し目を合わせて礼を言った綾芽。佐久早は目を逸らされた後、綾芽の左手に視線をやった。先日の合同の仕事中、綾芽が大型異能動物の爪に引き裂かれた場所だ。


「この前(の仕事)の怪我は治ったの?」

『治癒の能力者の人に、あの二日後診せに行ったので、今は完治してます。…あの……佐久早さん、あの時はご迷惑おかけしました』

「え〜…別に迷惑かかってないけど…何で二日後?」

『なんか、忙しかったみたいで…痛み止め沢山呑みました』

「はァ??馬鹿なの?身体に悪いだろ。あの傷そんな理由で放置したの?」

『……えっと』


知らず知らずのうちに、先ほどの夕食の時同様綾芽に上半身が詰め寄っていた佐久早は、「……痕でも残ったらどうすんだよ」と苛立ちを含んだ声で言った。

『………、』

綾芽はその怒りが、治癒の異能力者集団に対してでは無く自分に対してだと思ってしまっているので、もうすでに半泣き状態だ。


「…悪い。
俺はお前に言ってない。治癒の方に言ってる」


そしてそれに気づいた佐久早。そういえばこういうヤツだったと思い出す。


『……よかった』


心底安心したように、いつもの愛想笑いじゃなく。
力なく笑う_____________そんな彼女に佐久早は「…うん」マスクの奥で安心した。



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