テディベア

□03.
1ページ/4ページ

.




_____________翌朝、食堂。

朝食も残すところ一番楽しみにしていたデザートのプッチンプリンのみ。プラスチックスプーンの包装を破りかけた時、「おはよお綾芽ちゃん」と宮が現れた。影山と綾芽の座る椅子の間に立ち、両ポケットに手を入れ上半身を綾芽に傾ける宮。

『…宮さん…おはようございます』

恐る恐るという表現がしっくりくる挨拶と無意識な上目遣いをする綾芽に、宮はいつも通りニコリと微笑みかえし、次の言葉を発した。

「監督さんが呼んでんで」

『わかりました。ありがとうございます…』

「…(人見知りもここまでくると病気の域だな)」


自分に対する態度と本当に360°違う綾芽の人見知り具合に影山はそう思ったが、改善を勧める気は無い。綾芽が人を苦手な理由が理由だからだ。

宮に礼を言った綾芽は、少し急いでプリンに手をつける。_____________すると、居なくなったと思った宮は綾芽の隣の席に座って、テーブルに肘をつく。


「俺も呼ばれとんねん。綾芽ちゃん呼んで来い言われて、ほな一緒行こー思て。_____________あ、ゆっくり食べや」

『そう、なんですか。…すいません』

「ええよ〜」


二日目の朝から予想外な事ばかり。しかもこの後恐らく宮と二人で監督の所へ行かなければならない。

『……』

綾芽はチラリと影山に視線をやる。
まさに”help”と目で訴える綾芽。しかし_____________「じゃあ先行くから、俺がいなくても頑張れよ」と言って綾芽の頭を一撫でし、綾芽の分のトレーも持って行ってしまった。呼び出しなら早く行け、という事だろうが、おかげで綾芽は涙目に。宮は「(”俺がいなくても”……ね)」と思いながら笑顔で影山を見送った。


『……すいません、お待たせしました』

「全然待ってへんやん。行こか」


_____________廊下を歩く二人。
緊張と不安で感無量の綾芽は宮の少し後ろを歩く。宮は「朝からなんの呼び出しやろな〜。しかも」と頭の後ろで手を組んでいる。そして_____________「俺ら二人だけって」と視線を綾芽に向けた。綾芽はビクリと肩を揺らして一瞬立ち止まる。

『っ…ですよね!…(びっくりした……)』

矢張り此処に集められる精鋭は皆個性的だ。しかも宮は他人を活かし自分も攻撃するスタイルが全支部で一番上手い実力者であり、同時に魅せるスタイルとルックスを持ち合わせファンが多い。綾芽の頭の中は”何でこうなった”と”帰りたい”で埋め尽くされる。


「ビックリしすぎやろ!ごめんやん!」

『すいません』

「なんで綾芽ちゃんも謝るん?」

『ビックリしちゃったので…』


決して近寄りすぎず、一定の距離を保つ綾芽。宮は、そんな小動物並みの危機察知能力を持ち合わせる綾芽に笑いながら「いやぁ綾芽ちゃんらしいな」と言った。

彼もまた、初対面では無い。




.
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ