番外編

□鵺の復活した日
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『…………はぁ…』



うだるような暑さが襲う朝、今日はどんよりとした雲が浮世絵町の上空を陣取っている。




ざあざあと、当たりの強い雨音…湿気のこもった部屋…嫌な夢…全てが私を陰鬱とさせた。



私は嫌な気分を押し込めて普段着に着替え、朝から忙しい台所へ顔を出した。



『おはようございます』



「あら高嶺ちゃん!おはよう」



若菜様は今日も元気だ。鼻唄を歌いながら朝食の小鉢の和え物を作っていた。



「…高嶺ちゃん?どうかしたの?顔色が悪いみたい…」



『えっ!そんなことありません!大丈夫ですよ…』



「そう?」



無理しないでいつでも言ってね!と優しい言葉を頂戴し、朝食の準備にとりかかった。























朝食が終わり、縁側で休んでいる毛倡妓さんと首無さんにお茶を持っていった時のことだった。



「いや〜な天気ねぇ」


「梅雨はもうとっくに終わってるのにな…」



「そういえば、今日よね…去年鵺が羽衣狐から産まれた日って…」



「あぁ…あれから一年経つんだな」



二人の邪魔をしてはいけないと、そろそろ腰を浮かそうとしていた時だった。



「そういえば高嶺ちゃんを奴良組で預かるようになって一年経つわねぇ!」



「そういえば…ん?高嶺嬢の誕生日っていつやったっけ?」


「あら…?そういえば…

若の時は盛大にやったもんだけど高嶺ちゃんの誕生日っていつだったの…?」



二人にはてな顔を向けられて、しばし固まる…。なんて答えようか、考えていた時だった…。



「あれ?みんな休憩?」



「「若!」」


リクオくんがタイミング悪くやって来てしまった。



「今高嶺嬢の誕生日はいつかって話をしていたところです」



「高嶺の誕生日…?そういえば、ボクも知らないや…」



三人の注目の的になってしまった。



『…いつ…だったかなぁ…?ハハハ』



これは苦しいな…。


『そ、そんなことより、今日の夕飯は何がいいですか?』



苦しい話題変えだった。けど、他に上手い事が言えずに、自分のコミュニケーション能力の低さを呪った。



「何?"そんなこと"って…」



その時、リクオくんが静かに言った。



『リクオくん…?』



「高嶺が産まれた大切な日を知りたいと思うのは、"そんなこと"なの?」



『あ…』



失言、だった…。



「いくら自分の事でも、高嶺を卑下するのは許さないよ」



鋭いリクオくんの目が、私をつらぬいた。



『っ…ごめんなさい…私っ…!』



「っ高嶺ちゃん!!」




気がつくと、私は奴良家から逃げるように駆け出していた。




土砂降りの雨の中、何処へ向かっているのかも分からずに…。











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