封神演義

□ここで封神して
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微睡みの中で誰かの声を聞いた。

それは、懐かしい声だった…。

ーまた無理をしおって…ー

過去に幾度となく言われたその言葉は

私の中にすっと消えていった。



パチパチと何かが燃えているような音でふっと目をさます。身体の自由は効かず、目だけを動かすと誰がやったのか、焚き火が小さな音をたてている。そして暗い夜空に浮かぶ、あの激戦以来の後ろ姿が目に入る。

遠く、遠くを見つめるその瞳は相変わらず近くにいても遠くにいるような錯覚を思わせる瞳だった。

伏「目が覚めたか」

『……ん』

伏「ん?何を拗ねておるのだ」

『…別に』

伏「お主のおかげで大地が甦ったよ」

『そう』

伏「何故あそこにいたのだ?」

『老子に頼まれた』

伏「………お前、そんなにわしと話したくないんかい」

『スープーと武吉君が血眼になって探してるよ』

伏「知っておるわ」

『顔くらい見せてあげれば』

伏「会うと面倒だからのう…」

久しぶりの再会だというのに会話が全く続かない。腕に包帯が巻かれている事から、彼が手当てしてくれたのだろうが、中々素直になれずお礼の一つも出てこない。

『……もう行けば』

伏「……そうか、そんなにわしと話すのが嫌ならば仕方ない。皆に元気でやれと伝えてくれ」

…行ってしまう。遠い彼が…もう手の届かない所へ、行ってしまう。仕方が…ないじゃないか。彼を留める事など、所詮私には出来ないのだ。

雲のような彼を掴む事など…誰にも出来はしない。

『…手当て、ありがと』

無愛想で不器用な自分には、悪態をつくように礼を言うのが精一杯だった。彼は振り向く事なく去って行った。

その背中を見つめながら、止まらない涙を…気付かれないようにそっと拭った。


それから数刻ほど経つが、私の身体は未だに動く気配がなかった。さっきの龍はどうやら毒を持っていたらしい。身体の中が燃えるように熱い。

『はぁ…はぁ…』

浅い呼吸が止まらない。視界は歪み、意識も朦朧としてくる。すると額にひんやりとした感覚がする事に気付いた。誰かの手がそっと額にあてられているみたいだ。

うっすらとした視界に懐かしい顔が再び覗いた。

伏「強情よのう…何故もっと素直になれんのだ」

『…はぁ…はぁ…』

伏「お前が行くなと一言いえばわしは…」

夢、なのかな…これ…夢なら…覚めなきゃいいのになあ…。夢なら…夢くらいなら…素直に、言える…かな…。

『…いか、ないで…』

伏「!」

『もう…置いて、いかない…で…』

伏「…高嶺」

『置いて、いくなら…ここで、封神して…』

伏「…もうよい。何処にも行かぬから、今は休め」

唇に柔らかな感触がした後、口の中に異物が押し込まれる。反射的に押しだそうとすると、暖かい何かが奥へと押し込める。その力に抗えず、ごくりと飲み込むと次は冷たい水が咥内へ流し込まれる。それをこくりと飲み干すと心地よい温もりに包まれて、私は再び目を閉じた。

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