HQ短編

□缶の熱
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この春から東京の大学へ通うことになった。両親のいない私は、色々考えた結果東京の大学へ行くことに決めたのだ。



決して浮かれて上京した訳ではなく、将来の選択肢も広がるし、何よりうるさい親戚を黙らせる為に多少名の知れた大学を選択せざるをえなかったのもある。



入学式やら新歓やら、色々面倒がやっと一段落した頃、私と同じように上京して東京の大学に通っている月島くんからLINEがきた。



日にちと時間と場所だけのLINE。簡潔過ぎる月島くんのLINEを見て、相変わらずだなあと笑みがもれる。



取り合えず了解の連絡を送るとまさかの既読スルー。おいおい月島くん、君って奴は…。心の中で苦笑いしてその日はお風呂に入って早々に寝た。


月島くんは一体何の用だろうと考えながら眠りについたせいか、高校生の時の夢をみた。


仕事を覚える為に潔子先輩の後を着いてまわった時の事や春校の時の事など、鮮明に思い出したそれは、私の胸をじわりと熱くさせた。



ー数日後ー


月島くんとの約束の日、私はあまりはしゃぎすぎない服装で待ち合わせ場所に向かった。5分前に着いた私は、人ごみの中に月島くんを探す。


その後、約束の時間を15分過ぎても月島くんは現れなかった。どうしよう、何かあったのかな…連絡、くらいしてくるよね流石に…事故とかに巻き込まれたとか!?



「ちょっといー?」


『っ!はい…』


月島くんの身の心配をしていると、知らない男の人が3人程で声を掛けてきた。



「君ちっちゃくてかわいーよね!俺たち今暇してるんだけどさー、よかったら一緒に遊ばない?」



『…え、あ、いえ…人を待ってるので…』


「もしかして友達?じゃあさ、友達も一緒でいいから俺等と遊ぼーよ!すっげー楽しいところ知ってるからさー」


男の人の一人がぐっと私の手首を力強く掴んできた。ど、どうしよう!月島くんの安否確認もまだなのに!



『っあの、離してくだ…「ヘイヘイヘーイ!お兄さんたち〜!」っ!』


「それって、俺達も連れていってもらえんのかねぇ〜?」



男の人達をぐるりと囲うように、月島くんと何故か黒尾さんと木兎さんと赤葦さんが立っていた。高伸長の彼らが見下ろすと、知らない男の人達は逃げるように去っていった。


『はぁ…ありがとうございます助かりました!』


「ったく!木兎がおせぇから高嶺ちゃんが危うく誘拐される所だったじゃねぇか!」


「だぁって!気持ちいいスパイク打ってから上がりたいじゃんか!ってか高嶺ちゃんちっとも育ってねぇー!」


『んなっ!これでもちょっとは伸びたんですけど!!…でもよかった、月島くんに何かあったのかと思って心配してたんだよ』


「今まさに連れていかれそうになってた奴が何言ってんの?」


『う…っだって、月島くん時間に遅れた事なかったのに今日は遅かったし連絡もないから…』


「それは僕のせいじゃなくてこの人達が遅いからだよ」


「ツッキーだって燃えてたじゃん!」



そういえば、何処に行くとか誰が来るとか全く聞いてなかったな…。元気すぎる木兎さんと黒尾さん…に突っ込みをいれる月島くん。そんな3人のやり取りを見ていると、トントンと肩に震動が。


「手、大丈夫?少し赤いみたいだけど」


『赤葦さんお久しぶりです!大丈夫ですよ、これくらい』


歩き出した3人の後を赤葦さんとゆっくり歩く。なんだか本当に高校生に戻ったみたい。



そういえば高校生の時…私赤葦さんの事気になってたなぁ…。確かな想いとは言えなかったから伝えようと思った事はないけど。合宿とかでたまに会うだけだったのに…気がつくと目で追ってたっけ…。


そんな事をおくびにも出さずに平然と赤葦さんと歩く…様に見えてたらいいな。



『今日はどういう集まりなんですか?』


「あれ…聞いてないの?今日は上京してきた月島と久世さんの歓迎会をするらしいよ」


『えっ!私達の為にわざわざ!?』


「集まる為の口実じゃない?そんなに気負わなくて大丈夫だよ」


『そうだったんですね…私、日付と時間と場所しか知らされてなかったから』


「それは…月島らしいというか、なんというか」



月島くんのずぼらさというか無気力に苦笑いした赤葦さんは前を歩く月島くんを見てまた笑った。赤葦さんってこんなに笑う人だったっけ…。


赤葦さんの優しい微笑みに、私は目が離せなかった。



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