HQ短編

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全国で5本の指に入るエースへトスを上げる、その指先に視線を奪われた。



幼馴染の白福雪絵に強要されて、私は梟谷学園の男子バレー部マネージャーになった。雪絵姉のわがままはいつもの事で、私が帰宅部に徹すると分かっていたらしい彼女の策略により、まんまとバレー部のマネージャーに据えられてしまった私は、それでもなんやかんや上手い事やっていた。


慣れないマネージャー業も雪絵姉と雀田先輩が細かく丁寧に教えてくれた事もあり、今では滞りなくスムーズに作業出来ている。


気さくな先輩達に可愛がられて、次第に部活を楽しみに思う自分がいた。最初は嫌々でも、今ではバレー部のマネージャーに推してくれた雪絵姉に感謝するくらい毎日充実した日々を送っている。


インターハイは惜しくも全国進出には至らなかった。けど、だからといっていつまでも引きずっているわけにはいかない。一番辛い筈の先輩達が頑張っているのに、自分がそれを気にするのはなんだか烏滸がましい気さえした。


今は涙を飲んで春高に向けて新たなスタートをきった、夏合宿中だ。今年は去年まではいなかった宮城の烏野という学校を交えての合宿になるらしい。烏野の噂を音駒の黒尾さんから聞いたらしい木兎先輩は、烏野が到着するのを今か今かと待ち望んでいる。

「どんな奴らが来るんだろーな!ワクワクするなっ!」

「木兎さん、そんなんで注意散漫になって怪我なんてしないでくださいね」

ハイテンション主将に対してローテンション副主将がうちのスタイルらしい。木兎先輩にさらっと突っ込む赤葦先輩は、さながら子供を注意するお母さんのようだった。

「…今何か失礼な事考えたでしょ」

『…まさかそんな』

赤葦先輩は怒らせるな、というのがうちのスタイルでもある…。

烏野が到着し、練習試合が始まった。だけど何か決定力の欠ける烏野は、到着してからまだ勝ち星はあげていない。期待はずれだったのか気持ちがっかりしていた木兎先輩に三年の先輩方がフォローを入れている、そんな時。

烏野のジャージを着た大きい人と小さい人が遅れてやってきた。

それからの烏野はまるで違うチームのように変わった。むしろ、こっちが正しい姿なのだと思わされた。技術力のあるセッターに運動神経が優れた囮。目まぐるしく変わるその姿に瞠目した。

「高嶺〜烏野に気になる子でもできたの?」

洗濯中の私にニヤニヤした雪絵姉がそう言ってきた。

『気になる子っていうか…烏野って面白いチームだなって思ったけど…?』

「それだけ〜?」

『うん?なあに、雪絵姉…』

尚も食い下がる雪絵姉に、何が言いたいの?と聞くとニヤニヤしながら続けた。

「お姉さんは心配してるだけだよ」

『心配?』

「高嶺が烏野ばっかり気にしてるのを気にしてる子が、ね」

『?…よくわかんないよ』

若いっていいね〜と言いながら、雪絵姉は食堂の方へ消えて行った。…なんだったんだろう。



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