黒バス短編
□ラストゲームのその前に
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兄からの電話を切ってからしばしば。私は未曾有の危機に晒されている。
全神経、細胞が叫んでいる。いますぐ家(ここ)から逃げろと!!
大体なんなのいきなり。合宿に行ったと思ったらその日の夜に合宿所に来いだなんて。お兄ちゃんにしては珍しく切羽詰まってたみたいだけど。
…大方夕飯を作るのがカントクさんだったとかそんな理由でしょ。なんでもご飯にサプリメントが入ってるとか、丸ごとレモンの蜂蜜漬けとか…伝説はしばしば耳にする。
私にはこの休み中にこの神保町で買ってきた大量の古書を読み漁るという大仕事があるんだからねっ!
お父さんとお母さんは二人で旅行、兄は合宿。このパラダイスに好きなことをしまくる私の計画を頓挫させてなるものか。
…そうと決まればこんな所にいつまでもいるわけにはいかない。薄手のパーカーと財布を掴んでそっと家のドアに鍵をかける。
このまま門から出れば鉢合わせる可能性が高いため、家の裏側にまわり塀をよじ登る。裏の家の塀伝いに歩いて、塀から飛び降りる際に聞こえる筈のない声が聞こえてしまった。
赤「確保」
『!』
飛び降りる着地点では既に赤司先輩が両手を拡げて待っていた。
私はそのまま重力に従い、赤司先輩の腕にすっぽり収まってしまった。
緑「…本当に裏から出てきたのだよ」
紫「さっすが赤ちん〜」
『な、なな…何でっ』
赤「退路を立つのは戦略の基本だよ。久しぶりだね高嶺」
呆気なく御用となった私はそのまま赤司先輩に抱えられて自宅へと戻らされた。
黒「猫ですか君は」
赤「身のこなしは猫そのものだったね」
『…………』
家に連れ戻された私は二大腹黒魔王のもとに献上されてしまった。冷や汗が止まらない。
黒「あぶない事をするのは感心しませんよ」
緑「…だがこ慣れていたのだよ」
『……というかなんですかこの面子は』
みんな確か違う高校に進学したと聞いた。なのに元帝光中の面々ががんくび揃えているとは何事か。
見かねた黄瀬先輩がざっくりと理由を説明してくれた。確かに数日前のストバスのライブ中継は気分を害した。あれと試合するのか…。
『そっか…お兄ちゃん頑張れっ!』
黒「………何誤魔化そうとしてるんです」
『………』
黄「頼むよ高嶺っちー!俺達の為にご飯作って!」
青「お前が作らねえと俺達死ぬぞ!いいのか!」
『お葬式には行ってあげます』
紫「えーどうしてもダメー?俺高嶺ちんのお菓子食べたいー」
緑「もし引き受けてくれるのなら、俺のラッキーアイテムの古書をやるのだよ」
ぴくりと肩を震わせる。緑間先輩の持つ古書は、もう絶版で非常に入手困難な品の一つだった。
『…ば、買収されてなるものか』
黒「(…もう一押しですかね)」
赤「…家の書斎にその手の本は山ほどあるよ。もし高嶺が引き受けてくれるのなら好きなときに行って好きなだけ読んでいいよ」
『……………………………くそっ』
私の返事に気を良くしたのか、元帝光中の先輩達は大いに喜んだ。
結局買収された私…意志弱い。
黒「丁度良かったです。家に一人で置いとくのも心配でしたから」
赤「わからないでもないな」
『………いくつだよ私。もう高校生だよ』
黒「何言ってるんです、だから余計に心配なんじゃないですか」
『親より過保護!』
黄「けど、高嶺っちなら納得っス!」
赤「そうだな、変な虫がつく年頃でもあるし」
緑「子供とも大人とも言えない今頃が一番危ないのだよ」
紫「だよねー」
『…何時の間にか兄が増殖している件について』
青「…そんだけ好かれてんだろ」
『お兄ちゃんは一人で充分です…』
こんなにいたら、きっと外出もできない。だけど結局は、何だかんだで兄には勝てない妹なのだ。
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