黒バス短編

□その項にキス
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※赤司吸血鬼設定 軽く流血表現有り


『…あ、』

部活に行く前に担任に日直だからと大量のプリント整理を押し付けられた。

五枚に纏めてホッチキスでとめるだけの簡単な作業。クラスメイトの分だけだから、すぐに終わると思って部活に少し遅れる旨を同じクラスの黄瀬君に伝言してもらった。

最後の一組をホッチキスで纏めるその時、誤って紙で左手の人差し指の腹をスパッと切ってしまった。

皮だけ切れたのかと思いきや、次第にジンジン痛みだし、ぷくりと赤い珠が人差し指に1〜2粒浮き出てきた。

絆創膏切らしてたんだよなあ、でもこれくらいならすぐ乾くか。

そう思い至った私は、特に何の処置も施さないまま出来上がったプリントの束を職員室の担任の机上に置いて部活へ向かった。

桃「あ、早かったね高嶺ちゃん!」

『ごめんね桃ちゃん、後何やればいい?』

桃「今休憩終わった所だよ!」

『じゃあ空いたボトル洗ってくるね』

桃「ありがとー!」

カゴに入った空きボトルを持って体育館から出ようとすると、黒子君がじーっとこちらを見ていた。

『どうしたの?黒子君…』

黒「真白さん、もしかして何処か怪我していませんか?」

『うん?さっき紙でちょっと指切ったけど…よくわかったね?』

そう言うと、黒子君は少し困ったように笑って気を付けて下さいね、と言って練習に戻った。

さっきのは、一体何だったんだろう。不思議に思いながら空きボトルを水道で洗っていると、折角乾いたのに水で濡れたせいか傷口が開き、再びじわりと滲む赤。

やっぱり今日だけでも絆創膏張った方がいいかもしれない。そう思い直した私は、洗ったボトルに再びドリンクを作って入れ、桃ちゃんに渡すと部室にある救急箱を探した。

キョロキョロと辺りを見渡すと、ロッカーの上に目的の物があった。誰だ、あんな高い所に置いた奴…。心の中で悪態をつきながら椅子を持ってきて足場にする。

だけど残念な事にこの部屋には足にキャスターのついている椅子しか見当たらなかった。

少し気を抜くと椅子が揺れる。こんな所を主将にでも見られたら怒られそうだ、と思いながらも救急箱に手を伸ばした。

その時ガチャリと部室のドアが開き、ビックリして足を滑らせてしまった。

救急箱を持ったまま椅子からダイブというシュールな体験をやってのけた私は、その現状の引き金となった招かれざる客を見やった。

するとそこには私が危惧していた所の主将様がフリーズして立っていた。

赤「…大丈夫か?」

『…大丈夫です』

…かなり恥ずかしい現場を見られたな。

赤「一応聞くけど、何をしていたんだ?」

私はこの現状に至るまでの経緯を懇切丁寧に主将様に説明したのだった。

赤「…怒られると分かっていてやるのは感心しないな」

『…じゃあ上に物を置かないか脚立を常時置いて下さい…』

赤「…うん、考慮しておこう」

どうやら釈明の余地はあるらしい。機嫌があまり悪そうでないのがせめてもの救いだった。私は救急箱から絆創膏を取り出して人差し指に巻き付ける。使用記録に名前と枚数を書いて救急箱にしまうと、誰でも手が届きそうな棚に置いた。

赤「そっちは治療しないのか?」

そっち?赤司君が指差す先を辿ると、さっきのダイブのせいなのか、右膝が盛大に大怪我をしていた。

『………』

赤「…もしかして今気付いたのか?」

コクンと頷くと、赤司君はクスクスと笑いだす。

『……そんなに笑わなくても』

赤「…すまない、貸して」

今日は本当に機嫌がいいらしい。どうやら主将様直々に手当てしてくれようとしている。

『や、流石に悪いから。それに練習戻らなくちゃじゃない?』

赤「今はレギュラー以外が練習試合してるから大丈夫だ」

赤司君は救急箱から消毒液やガーゼを取り出すと、テキパキと準備をし始めた。私を椅子に座らせると、赤司君は床に膝をついて私の右膝の前に座る。

右膝から足れる血を、赤司君はしばらく見つめている。もうかれこれ2〜3分は動いていない。もしかして血液恐怖性とかだったり?と思って赤司君を見ると、彼の宝石のような赤い瞳が怪しく光っている事に気がついた。

恍惚と血を見つめる赤司君は、未だに動かない。なんだろう、血が好き…とか?

『…あの、赤司君?』

いい加減声を掛けると、まるで背中を押されたかのように赤司君は自然な動作で脛まで垂れた血をぺろりと舐めとった。

あまりの衝撃に一瞬何をされたか分からなかった私は、硬直したまま赤司君を見つめる。

赤「…ん、あまい」

…あまい?血が?彼の行動の真意が分からず、未だピクリとも動けずにただ赤司君を見つめる。

赤「匂いからして美味しそうとは思ったけど…予想以上だな…癖になりそうだ」

『あ…かし、くん…』

その瞳は既に、捕食者の目だった。

赤「…真白は察しがいいからもう気がついているんじゃないのか?」

『な、に…』

赤「…この状況さ」

ギラギラした瞳を私に向ける赤司君が言いたい事…血を美味しいという彼、赤く怪しげに光るルビーの瞳。それらを総合して浮かび上がるのは空想の筈の生物。

『…分からない』

赤「……」

『……もし私の考えた通りだったとして、一般人(私)にそれをバラすのはリスクが高すぎると思う』

赤「…へえ」

『…例えば血を吸った後口封じで私を殺すとしてもこの情報化社会から人一人消すのは骨が折れるし…。私を殺すメリットよりもデメリットの方が大きくなる』

赤「確かに」

『理想的なのは相手に知られずに血を吸うか、相手を強制的に従わせて……』

そこまで言って漸く赤司君の考えている事に気付いたが、時既に遅し…だ。

赤「…本当に、真白は察しが良くて助かるよ」

赤「出来れば手荒な真似はしたくないんだ…ただ定期的に血を提供してくれないか?」


こうして、私と赤司君の奇妙な関係が始まったのだった…。


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