黒バス短編
□もどかしい君との距離
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部活が終わり、赤司君と彼女の家に向かう途中の湯島天神で僕は足を止めた。もしかしたら、まだいるかもしれない。
赤「…黒子?」
黒「赤司君、少し寄ってもいいですか?」
赤「…湯島天神?」
疑問符を顔に浮かべる赤司君を連れて、湯島天神の赤い大きな鳥居をくぐり、神楽殿へと足を進めた。そこには予想通り簡易的な衣装を来て御神楽の練習をしている高嶺さんの姿があった。
『あれ?ごめんテツヤ君、もうそんな時間だったんだね』
黒「いえ、大丈夫です」
『……なんで赤司君がいるの?』
赤「突然すまない、少し話があるんだがいいかい?」
『…少し待ってて、着替えてくるから』
黒「練習はもういいんですか?」
『もうそろそろあがろうと思ってたから』
彼女はそう言うと踵を返して神楽殿の奥へと消えた。赤司君とそれを待っていると、数分としない内に高嶺さんは着替えて僕らの元へやってきた。
『待たせてごめんね』
赤「いや、全然待っていないよ」
赤司君はキラキラと王子様のような完璧な笑顔で高嶺さんを出迎えた。それに対して、彼女の顔はひきつっている。
黒「……なんかデートの決まり文句の様ですね」
僕の余計な一言に彼女の表情は更に面白いくらいに歪んだ。
『……それで、赤司君は何の用なのかな?』
赤「ああ、実は来週バスケ部で合宿の予定をたてているのだけど、食事担当の係を探していたんだ…真白の料理スキルは黒子と青峰のお墨付きらしいから、もし都合が良ければ是非頼みたいと思ってね」
『…………えっと、なんで私?バスケ部なら他にもやってくれそうな女子がいるのでは?』
黒「桃井さんの事を言っているなら、彼女は料理が不得意です」
『……じゃあ他の女子とか』
赤「ミーハーは沢山いるがその中から探すのはまた手間が掛かるし、真白は黒子の従姉妹だからその心配がない、尚且つ料理の腕も確かだ。現状君ほどうってつけはいない」
だから頼めないか?と赤司君は高嶺さんに畳み掛けるが、彼女の表情は難色を示していた。
『あー…ご飯くらいいいよって言ってあげたい所なんだけど… 』
黒「もうそろそろですよね、お祭り」
『…そうなんだよね』
赤「…さっきも思ったんだが、真白が祭で神楽を舞うのか?」
『…まあ、成り行きで』
黒「かれこれ5年は舞ってますね」
『代わりが見つかるまでって約束だったんだけどね』
赤「へえ…俺も何度か見たことがあったけど…あれは真白だったのか」
黒「お年寄りから子供までとても人気な御神楽なんですよ」
『…そんな大したモノじゃないよ』
謙遜が嫌味に聞こえないのは、彼女自身が本当にそう思っているからだ。でも人気があるのは確かで、巷では彼女は少し有名だった。
彼女の舞いを見る為だけに遠方からくるお客さんも少なくないらしい。商店街のお爺さんが鼻高々に言っていたのはもう随分前の話だ。
実際彼女の舞いを毎年見ている僕も年々上達しているのは知っているし、従兄弟としても鼻が高い。
詰まるところ、彼女は商店街の人気者なのだ。
赤「練習に支障が出ないようこちらも配慮するよ、頼んでる身だしね」
『ん〜……けどなあ…』
黒「お願いします、高嶺さん…」
彼女の舞いは毎年完璧だ、見てる側からは。彼女曰く、反省点が毎年ある様だが、僕にはそれが分からない。
彼女が押しに弱い事を熟知しているし、本当に困っている僕のお願いは今まで一度たりとも無下にされた事はない。
『………わかった』
僕と赤司君はにやりと顔を見合わせて、彼女の承諾を得たのだった。
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