黒バス短編

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素晴らしい秋晴れのある日の事。叔父さんに無理矢理お使いを頼まれて、渋々駅ビルへとやってきた私。

ホームセンターのコーナーで頼まれていた工具一式を購入して、私しか乗っていないエレベーターで一人占めのこの空間を満喫している時の事だった。

私の目的の階より三つも上でエレベーターが止まった。それは呼び出しによってエレベーター内を一人占めする優越感の終わりを私に知らせていた。開いた扉からぞろぞろと乗ってきたのは体躯のいい6人の男。

その中の一人には見覚えがあったが、面倒な為素知らぬフリをしながらイヤホンから流れる音楽に耳を傾けていると、そのうちの一人が声をかけてきた。

青「あ?真白じゃねーか」

『…………』

誰?という顔をうっかりしてしまったらしい。渋々イヤホンを外していると、その男はたちまち不機嫌そうな顔をして恨み言を言い始めた。

青「…お前、もう9月だぞ…流石にクラスメイトくらい覚えろよ」

『………あぁ分かった、確か…青、青…』

黒「青峰君ですよ真白さん」

『あー…黒子君』

まるで今気付きましたと言わんばかりの私の反応が態とらしかったようだ。猿芝居だと見透かした黒子君は痛いくらいの視線を送ってきた。

青「なんでテツは分かるのに俺は分かんねえんだよ!!」

黄「残念っスね青峰っち!」

よくよく彼らを見てみると、帝光中と書かれたジャージを揃って着ている。

『…同じ学校だったんだ』

私の言葉に黒子君以外の全員が驚愕の眼差しを私に向けた。

緑「同じ学校どころか同じ学年なのだよ!」

『あらまあ』

黄「オレの事も知らないんスか!?」

『…何で自分だけは認知されてると思ってるのか謎』

紫「バスケ部だよ知らないのー?」

『知らない』

青「…どんだけ興味ねえんだよ」

『んー…?』

黒「真白さんはそういう人です」

黄「黒子っち詳しいっスね」

黒「去年同じクラスでした」

やたらとカラフルな色彩が目に眩しい彼等は、確かに校内の女子の噂の的であるバスケ部集団に他ならなかった。その手の話にとんと興味がない私は、彼等を特別視も注目もしていなかった。

ただただ目に煩い彼等の色彩を視界にいれるのも疲れてきたので、会話はおしまいと言わんばかりにエレベーターの操作パネルに身体の向きを直すと突如ガコンというイヤな音と共にエレベーター内の電気がふっと真っ暗になった。

黄「ちょ、ちょっとなんスかいきなり!?」

青「うおっ、いてっ!おい黄瀬動くな!」

黒「ちょ、暴れないで下さい!」

急に真っ暗になった事により動揺する彼等を鎮めたのは凛と通る鶴の一声だった。

赤「お前達騒ぐな。もうすぐ非常電源が入るだろう、じっとしていろ」

その言葉にピタリと騒ぐのをやめた彼等は急に借りてきた猫の様に大人しくなった。

だが、この状態が五分と続くと流石に痺れを切らしたのか再びソワソワと落ち着きのない様が暗闇の中、雰囲気や衣擦れの音で想像出来た。

青「おいまだかよっ!」

黄「携帯も圏外っス」

緑「止まったまま非常電源も入らないのだよ…」

赤「………真白さん、だったかな?悪いんだけど操作パネルに警備会社へ連絡できるボタンがあるだろう?押して連絡してくれないか?」

『…わかった』

携帯のライトを点灯してパネルを照らす。電話のマークのボタンを押してコール音が鳴り響く。………………響き過ぎじゃないだろうか、かれこれ3分は鳴らしているというのに。どうやら電話口の相手は待てども待てども一向に出る様子がないらしい。

『出ないみたい』

黄「そんなぁ!!」

青「俺達…このまま気付かれずに…」

緑「やめろ青峰」

紫「もおー腹減ったしー!!」

赤「落ち着けお前達」

混乱する場の中で、ただ一人静かな黒子君と携帯のライトの仄かな光の中でカチリと目が合った。……なんかイヤな予感。

黒「真白さん」

『……………何』

黒「お願いします、真白さん」

しばし黒子君と見つめ合い…睨みあってみたが彼は折れる気が毛頭ないらしい。私と黒子君のやり取りの意味が分からない面々は、不思議な顔をして私と黒子君を交互に見ている。

『…………文句は一切受け付けないからね』

私は黒子君と真後ろにいた赤い髪の人にケータイのライトをパネルと手元に照らしてもらい、さっき購入したばかりの工具セットの中からドライバーと特殊工具を取り出してテキパキとパネルの外装を外した。

緑「………」

黄「手際良いっスね」

『昔ハワイで親父に習ったんだ』

黒「コ○ンですか君は」

『どちらかというと新○君では…?』

黒「挙げ足をとらないで下さい」

緑「……結局同一人物なのだよ」

軽口を叩きながらカバーをどんどん外してパネルを分解していくと、大分古いタイプのエレベーターだということが分かった。

赤「どうだ?」

『…うん、大分古いねこのエレベーター』

緊急停止ボタンのカバーを外し終えると、おそらくネズミか何かが電線をかじって漏電してしまったのだろう。

緊急停止ボタンを一度ONにしてからニッパーでコードのビニール部分を剥がし、絶縁プラグを装着してから緊急停止ボタンに繋ぎ直す。プラグを外すと電気が通ったようで、エレベーター内を蛍光灯がパッと照らしだした。

紫「あ、ついたー」

黄「よかったっス〜」

ケータイを確認すると、買い物に来てから二時間程経ってしまっている。そろそろ心配性な叔父から鬼電が来そうで怖い。

『……さっきも言ったけど、文句は一切受け付けないからね』

私の言葉に疑問をもった全員が私を訝しげに見つめる。そんな彼らにニヒルに笑うと、私は躊躇いなく緊急停止ボタンを押した。
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