たんぺん!

□孤独の葛藤
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「なぁなぁ!久世って俺達と同い年なのに雪男と一緒で祓魔師なんだろ!?」



シュラさんの誘いで奥村君とお兄さんの燐さんと四人で遅めの夕飯をつついていると、燐さんが唐突にそう言った。



『そう、ですね』



「兄さん!失礼だろいきなり…」



『大丈夫だよ奥村君』



すげーすげー!と続ける燐さんに苦笑してしまった。噂には聞いていたけど、彼がサタンの落胤(らくいん)か…。想像と大分違った。



『私は騎士(ナイト)と手騎士(テイマー)の称号(マイスター)をもってるの』



「二つも持ってるのかぁ。すげーな!」



屈託なく笑う彼とは逆に、奥村君はその表情に影をおとした。



「…そろそろ帰るかぁ」



たんまりとビールを飲み干したシュラさんによって、この食事会は幕を閉じた。
















数日後、候補生(エクスワイア)を連れて簡単な任務へ駆り出された私は、彼等の引率の奥村君と現場にやって来た。



同い年だというのに初々しい彼等が、どこか羨ましく感じた。



私は主に後方支援。今回の任務は候補生である彼等に任されたものだから、彼等にやってもらわねば意味がない。



前に出過ぎず、候補生達の身を守る事が私の任務。奥村君もそのようにしていたのだが、どうやら威勢のいい兄のお守りに付きっきりのようだ。



「兄さん!前に出過ぎだ‼」



「うるせぇ!俺が倒せば皆を守れるだろう!?」



遠目で兄弟喧嘩を確認した私はやれやれと肩をおとした。普段は冷静で大人びている奥村君も、兄につられて年相応の振る舞いだ。



「っしえみさん!!」



奥村君が血相を変えて叫んだ。



気が付くと候補生の女の子、杜山しえみの背後に悪魔がいて彼女を今にも襲おうとしている。場は混乱し、もう候補生達だけでは手のつけようがないと判断した。




私はとっさに詠唱(アリア)を唱えて候補生達と奥村君の周りに結界を張り、使役する悪魔を呼び出した。



『出でよ、レヴィアタン‼』



海の怪魚である悪魔、レヴィアタンを呼び出した私は水で周囲に蔓延って(はびこって)いた悪魔を一掃した。



レヴィアタンの水によってずぶ濡れになった私は、コートが張り付いていささかの気持ち悪さを感じた。



「しえみっ!しえみ!」



悪魔に襲われた事で気絶した杜山しえみに燐さんが心配そうに駆け寄った。



彼女は怪我一つ負っていない。私がちゃんと守ったから。



「お前っ!凄い祓魔師なんだろ!?なんでちゃんとしえみを守ってくれなかったんだ‼」



燐さんの台詞に候補生達が私を一斉に見た。…どういうこと?私が悪いの?



『…お言葉ですが、今回の任務は…』




「何言ってるんだ兄さん!今回の任務は候補生に与えられたものだ!兄さんが独断専行した挙げ句に仲間を危険に晒したんだろ!?その尻拭いを久世さんがしてくれたんじゃないか!それに、前にも言ったが祓魔師は一人では戦えない!いい加減、考え方を改めろ‼」




奥村君の怒涛のお説教に、候補生達は縮み上がってしまった。確かにその通りだけど、何もそこまでいわなくても…。



『…奥村君、もういいよ』



そのくらいにしてやって。そう言うと、奥村君はハッとして周りを見渡した。



私は奥村君の肩を数度軽く叩くと、杜山しえみを抱き抱えて日本支部への鍵を使い、医務室へ急いだ。







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