たんぺん!
□君の名を
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あれから数日が経った。なんとなく戻りづらくなった私は、点々と街をさ迷い歩いている。
こうして目的もなく歩いていると、沸々と余計な事が沸き上がってくる。
あぁ…今、誰かの神器でなくて本当によかった。こんな思考では、確実に主をヤスませてしまう。
私の前の主は、とても弱い神だった。知名度も低く、毘沙門天様や恵比寿様のように蘇ったりしない弱い神様。
人が大好きで、愛してて、人と寄り添いたくて…なのに愛する人に裏切られた神様。
自分で願ったくせに…
なのに、人は勝手に忘れていく。
人の願いから生まれる神は、人の願い無しでは存在出来ない。
忘れられた神は弱く脆く、消えていった。
私は何も出来なかった。弱っていく神を消すまいと、私なりに努力したけど…だけど結局ダメだった。
あの小さな女神は…最後に私の名を消して私の目の前から消えてなくなった。
もっと役に立ちたかった。あの時どうしてもっと…そんな気持ちから私は数百年、ずっと動く事が出来ないでいる。
彼女のために鍛え上げた魂は、いつしか祝の器(はふりのうつわ)と言われるようになっていて…
だけど、主を失った私にとってはもう、どうでもいいことで。
彼女だったから、二心なき忠誠を誓った。
彼女でなければ、ただの凶器に他ならない。
何処かの家の屋根から街を見下ろすと、微妙に時化てきた。
『…はぁ。ここもそろそろ潮時、かな。』
楽しかったのに。夜ト神や雪音くん、壱岐さんと小福様、大黒さんと兆麻さん…毘沙門様も優しかった…。でも、何故か私の周りは時化てくる。
小福様とは関係なく、恐らく私を狙う妖のせいだろう。祝の器であるのに主のいない私は、神には劣るが高級食材のようなものだ。
今日は何処でやり過ごそうか、考えるのも段々億劫になってきて、ついに何処ぞの屋根に腰を下ろした。心の中だけで、唯一無二の主だった方の名を叫びながら…
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