短編

□白雪姫ではなく、魔女を頂こう
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「出来たー!」
「「出来ちゃったかぁ……」」
白雪姫の解毒剤が出来て嬉しそうな顔をする若き魔女の反面、小人達は遠い目をしていた。
早速、出来た薬をガラスの棺で眠る白雪姫まで急いで届けに行きます。白雪姫は森の動物達が見てくれたおかげで傷が一つもなく、美しい姿で眠っていました。
「白雪姫様。お待たせしました」
小瓶の薬を薄く開いた口に持っていき傾かせる。中身がなくなり、しばらくすると、白雪姫の目がパチリと開きました。
「……あんた誰?」
「真澄という名の薬売りです。白雪姫様、お加減は如何ですか?」
「別に何ともないけど……て、そうだった!」
「わっ!?」
勢いよく立ち上がった白雪姫に驚いて、尻餅をつく若き魔女。白雪姫は毒を盛られた事を思い出して怒っている様子でした。
「あんのクソババァ!人雇って毒盛りやがってぇ……いてまうぞコラァ!」
「あの白雪姫様?」
「あと、あなた!」
「は、はい!」
「優しい人アピールのつもり?」
「え?」
「貴女、私には負けるけど、見た目は良いわよね。それにしては着てる服が汚れてみすぼらしいわ。あ、お金が目的?」
「そんな!私は白雪姫様を助けたかっただけです!それに貴女がこの森に来た理由を知りたい、城に帰れるように力になりたいだけで……」
「うわぁ……いい子ちゃんのフリが上手なのね。尊敬するわ」
「「殺す(真澄ちゃんを悪く言うな!)」」
小人の殺意が高まった所で、新たな人物がこの修羅場へとやってくる。
「ラララー♪今度はキスしたくなる呪いのケーキ作っちゃった♡これでぇ、貴方の唇は私のも・の!なーんて…………え?」
今日もおめかしをした女王が、鏡に若き魔女の居場所を教えてもらいガラスの棺が置かれた花畑にやって来た。
しかし、そこには生き返った白雪姫と本当の姿の若き魔女。二人の美女が居て、女王は気が動転してケーキを白雪姫の顔面に投げつけました。
「へぶっ!!」
「な、なんで!?なんでお前が……というか誰!?私よりも美しい奴が二人なんて!」
「オイ……クソババァ。嫉妬して殺そうとすんじゃないわよ!本当に心の貧しい庶民よね!」
「うるさい!なんで生き返ってるのよ!ようやく……あの人を、真澄を私のものに出来ると思ったのに!」
(これは……)
「真澄ちゃん。ここを離れよ?」
「巻き添え食らうぞ〜」
白雪姫と女王様が掴み合いの喧嘩を始めてしまい、小人達の言葉に小さく頷いてその場を後にした若き魔女。
「……また引っ越しだなぁ」
「それならボクもお供しようかな!真澄ちゃんが居ない生活なんて嫌だもん」
「俺もお供する〜!真澄ちゃんの為ならちょっとくらい仕事しようかな」
「ちょっとかよ。……僕も真澄ちゃんに付いてくよ。そいつらよりも役に立つから困らせないよ」
「真澄の居ない世界なんて耐えられないぜ……アンダースタン?」
「みんな一緒!お引っ越し楽しみだね!」
「……うん。それもアリだね」
((僕らのお姫様が一番可愛い!))
女王のあの様子では色んな意味で狙われてしまうので、この国とは早い内におさらばだ。白雪姫の件は噂とは違い、とても強い人だと知った若き魔女は放って置くことにした。これは女の戦いでもあるが、大まかに親子喧嘩に位置する。家族の問題に首を突っ込むまいと彼女は自宅に帰り、必要な器具が入ったバックと薬籠箱を背負い、小人達に少しだけ手伝ってもらって慣れ親しみ始めたログハウスに別れを告げた。
「バーのマスターに鍵を返さなきゃ」
「じゃあ俺達は待ってるな」

******

「残念ですね……。薬売りさんが今日も居ないなんて」
「どうしよう……これ」
「開いてないんじゃ仕方ないですし、またこの国に来る事があればその時もう一度見てみましょう」
「……そうだな」
バーの前で男が二人。馬の手綱を持つ従者と、腕の中に猫を抱いた王子は肩を落とし、例の薬売りに会えなかったと残念がった。
じゃあ自国に帰ろうかと振り向くと、黒のローブを着てる線の細い女性らしきが歩いてきて、王子一行に気がついて近くまで寄ると足を止めた。
「……あの時の」
「え?」
「すみません。ちょっと此処で待っててくれませんか?マスターに鍵を返さなきゃいけないので」
(綺麗な声……でも、なんか……似てる?)
鍵を使って中に入っていく女性は待つという程でもなく、すぐに出てきて二人に声をかけました。
「こんにちは。猫さん、だいぶ怪我が治ってきたようですね」
「ここの薬売りさんと知り合いなんですか?」
「知り合いというか……同一人物です」
言い淀みましたが、彼女は素直に答えました。しかし二人は彼女の言葉が理解出来ず、首を傾げるのでした。彼女は周りを見て、人が目の前の二人しか居ない事を確認して目眩ましの呪いを唱えました。
「……は」
「騙したようで、ご免なさい。私は魔女なんです」
瞬きした時にはいつもの薬売りが目の前に居て、困ったような顔をして立っていました。これには絶句。若き魔女は目眩ましの呪いを解くと、ペコリと頭を下げました。
「私が魔女だって知ると、怖がって薬を買ってくれないので……仮の姿を使ってました。もちろん誓って悪さを働く為ではなく、魔女の薬はよく効くのでどうしても人の為に使いたかったの」
「……え、ごめん。じゃあ女の子の姿が本当の姿ってこと?」
「はい」
「あ、なるほど。だからハンカチが可愛いらしいものだったんですね」
「ハンカチ?」
「あ、これなんだけど……」
「私の……!拾って下さってありがとうございます」
「……っ!」
彼女が伸ばした手についビクついて、王子の手からハンカチが離れて、地面に落ちた。怖いから落としたのではなく、女の子に免疫がなかった彼はただ驚いただけだ。
でも彼女は少しだけフードの中で悲しげに顔をしかめると、地面に落ちたハンカチを取るためにしゃがみました。遅れて彼もしゃがんでハンカチを拾おうとします。
「「……え?」」
若き魔女の手の上から彼の手が合わさる。そして至近距離でお互いのフードの中が見えた時、王子は若き魔女の手を握りしめて言うのです。
「結婚して下さい!」
「へ?」
王子は世界で一番美しい女性の存在に気付いたのでした。
「猫しか友達居ないけど、不自由ない暮らしは約束するから!」
「で、でも……私は魔女で」
「別に悪い魔女じゃないんでしょ?」
「そうですけど……」
「大丈夫。僕の猫を治してくれたし、君を悪く言う奴は黙らせるから」
(こんな積極的な王子、見たことない!)
若き魔女は突然求婚されて戸惑うばかり。従者は従者で、積極的な王子の様子に戸惑い、でも漸く好いた人を自ら見つけたのだから、その人が魔女であろうと応援してあげたいと思いました。
「王子は優しい人ですよ。ただ、先ほどハンカチを落としたように女性に不慣れというか、免疫がないので。最初は苦労なされると思いますが」
「おい!余計な事を言うな!」
「まあ、王子が珍しく積極的なるほど貴女を手放したくないようですので、魔女だからとは考えず、王子の事を考えてやってくれませんか?」
「……王子様でしたの」
「う、うん……」
「ならば魔女の私と一緒になってはダメです。貴方が優しい人なのは分かりました。……しかし、貴方の王子としてのイメージを壊すわけには行きません」
遠回しの拒否に、大抵の人ならば察して身を引くのだろうか。しかしこの王子は絶世の美女を見て、諦めるという言葉は頭に無いらしい。
「元から猫しか友達がいない、暗い奴に見られてるから大丈夫」
(それって大丈夫なの?)
「王子。大事な言葉を言ってませんよ」
「あ、お、俺は!魔女でも良いから、君に一目惚れしたから……好きです。結婚してほしい、です!」
顔を真っ赤にして真剣に告白された若き魔女は、徐々に顔が熱くなっていくのを感じました。本当の姿を隠してひっそりと生きてきた彼女は、初めて男の人から愛の告白を受けたのです。
「……でも」
「そういえば。鍵返しに来たのは何でです?」
彼女がそれでも断ろうと口を開いた所で従者の横槍が入ります。本気の王子の告白、少しでも可能性を上げたかったのでした。
「えと……。この国に居られなくなる事情が出来て、引っ越す事になりました。……そうだ!実は私、森の小人さん達と一緒にお引っ越しするんです。小人さん達を置いてはいけないから、やっぱり─」
「その小人も一緒に住んでも良いって言ったら結婚してくれる?」
「いやあの……でも、いきなり結婚は」
「……わかった。そうだよね……いきなり結婚は困るよね。………まずは恋人から始めようか」
「せめて、お友達から始めませんか?」
「友達……。ああ。友達があったか……(外堀埋めやすくするために、なんか良い方法ないかなぁ)」
「住む場所は決めてあるのですか?」
「いえ。まだです」
「まだ、ですか」
従者はそれは良かったとばかりにニッコリ笑いました。
「では一松王子。彼女を城で薬剤師として雇い、小人達にも仕事を与えるのはどうでしょう?」
「!。……衣食住付き、給料も出すのでまずは『お友達』として来てくれる?」
「あ、それなら……」
「おい。紙」
「はい!」
王子はさらりと雇用の条件を幾つか書いて、サインと拇印してと若き魔女に差し出しました。若き魔女は心優しい魔女。そして白雪姫の解毒剤を作って寝不足の頭は、条件をよく読まずにサインして拇印を押しました。

条件はこうでした。
甲を一松、乙が契約者、丙を小人とする。
一つ、甲が乙に衣食住を提供する。
一つ、甲が乙に働きに見合った対価を支払う。
一つ、丙は甲と乙を主とする。ただし甲を最優先とする。
一つ、雇用期間は乙を1ヶ月、小人は気分次第で解雇する。


一つ、雇用期間が終わり次第、乙は甲を恋人と認可すること。


「──行こうか。真澄」
「は、はい!一松様」

こうして、若き魔女は一松王子の国に小人達と共に行き、猛アピールされる毎日を送る事になるのです。
もちろん小人達は一松王子を認める訳がなく、暫く一松王子VS小人達の戦いが行われたとか……。雇用期間が終わって、サインした紙を見せられた時、彼女は大層驚いたが、王子の猛アピールのおかげで喜んで恋人になり、のちにこの国の愛されるおしどり夫婦として末永く幸せに暮らしたとさ。

……え。白雪姫と女王はどうなったかって?

「えーん!私の自慢の顔に傷がぁ〜〜!」
「青アザだらけ……そんな……こんな顔になるなんて」
喧嘩の末、ボロボロになり、其々の顔にはアザや傷が出来て一生治らなそうなものまで出来てしまい、二人して城に引きこもってしまったとか。

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