夢の中の君を探して

□怪盗編
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しばらく博士の家に泊まるため、一度アパートに戻ってスーツからそのまま寝ても支障のない上パーカーに下ジャージ(一松スタイル)に着替え、必要な物を詰めたバックを持ち、再びデカパン博士のラボへ。
一度アパートに戻る前に五人にはジャンケンして頂き、負けた一人がカラ松の夢に行く手筈だった。それなのに戻って来てみたら神妙な顔した五人が待っていた。

現在手錠に繋がれているのはチョロ松だ。しかし私が行く前に見た負けた人は一松だったはずで、しかも今目の前で手錠を外した所だった。

「何でチョロ松?一松はもう終わったの」
「それがさぁ…全員試したけど、カラ松の夢に入れないんだわ」
「…は?」
「最後に僕が試したけど…真澄の言った通りにドアはあった。でも、どれも開かなかったよ。そのうち地面にぽっかり穴が空いて、落ちて…目を覚ましたというわけ」

それはアレか。カラ松の夢の中に入れる人って私だけとか?
そんなバカな!と、他人の夢に入れる装置を作ったデカパン博士に問うと、波長が合わない人間を弾きだしてしまっているのだろうとの事。まだまだ改善点が多い装置ゆえに、高性能ではないのでそういった事が起きているらしい。

そんなバカな…。六つ子なんだから私よりも波長が合うんじゃないの?

「いやぁ、残念だな!カラ松兄さん助けられるの真澄しか居ないんじゃね。ホント、残念だよ!」

トド松のいかにも「やった!面倒なの全部押し付けれた!」という笑顔に、ドライモンスターめと呆れてしまう。

30分で一つの夢が終わったから、仮にドアが20個として計算すると合計10時間。長めに見ても、休憩を挟みながらやれば私の有給休暇中にはカラ松を連れ戻せそうだ。

……うん。頑張れ私。こいつらを宛にしようとする事自体愚問だったのだ。
でも全員がカラ松の夢に入ろうと試してくれただけ、カラ松は救われている。

「じゃあ交代で真澄を見張るという事でいいね?」
「みんな家に帰るんじゃないの?」

チョロ松が当然のように言い出すので、何を言ってるんだろうと不思議な想いで聞き返した。

「カラ松兄さんも心配っちゃあ心配だけど…真澄の方が心配なんだよ、僕らは」
「そうそ。ま、やれる事なんて見てるくらいしかねーけどな。お前が泣くなんて中々ないし、お兄ちゃん達は心配なんですよ」
「泣いたら拭いてあげんね!バッチコーーイ‼」
「……まあ、そんなわけで。クソ松殺して早く帰って来い」
「殺してどうすんの!?もうバッドエンドは嫌なんだけど!」

私なんてあまり心配されないと思ってたけど、幼馴染なりにちゃんと心配してくれているようで…その励ましに自然と口角を上げる。起きた時にデカパン博士だけじゃなくて、誰か一人でも居てくれると心強いものだ。

「……ありがとうね。私、頑張るよ」
「おう!ちゃちゃっと片付けてこい」

おそ松は鼻の下を擦りながら少し照れくさそうにしていた。

今回はちゃんと自分で布団を被り、手錠を掛ける。スイッチを押して眠る前に五人と頷き合い、隣のカラ松を見たあと、静かに目を閉じた。



─…


「さて。今度はどの扉にするかな」

また真っ白な空間に幾つもの扉がある此処に来た。前回行った扉はどうなってるか確認すると《close》というプレートがかけられていた。試しにドアノブを回してみるが、ガチャガチャと空回りする音だけが響いた。

それじゃあ時計回りにと右隣の扉を見れば、真っ黒な扉にギラギラした青い薔薇と手紙らしき装飾がされた《ザ・カラ松》らしいやつだった。しかも真っ黒かと思えば細かいラメが施されており、これまたイタい。

「…バッドエンドではありませんように」

ドアノブを掴んで深呼吸。一回目がああなのだったから緊張するし、今度はどんな世界観なのか、私は何者になっているのかと色々覚悟するにはこの深呼吸という動作が必要だった。

落ち着いた所でゆっくりと回し、中へと足を進めた。















「…ん。……んん?」

カーテンの隙間から差し込む光りによって私は目を開けた。今回は誰も居らず尚且つベッドで寝ている状態からのスタート。勿論起きた部屋に見覚えなんてなくて、飛び起きた私は先ずカーテンを開けて外を確認した。

「…良かった。現代に似ている場所だ」

今回も現代的な世界観のようで安心した。高さからして5階くらいあるのでアパート又はマンション住まいらしい。

早速自分に関する情報集めとして、机周りやバック等を物色していく。机からは新聞の記事をスクラップして貼った自作のノートや警察に関する参考書。あとは一般的な文房具類が入っており、バックからは警察手帳やスケジュール帳を発見。苗字は違うが名前は同じのようで、警察手帳にある写真は髪が短いけれども、私と同じ容姿をした女の子が写っていた。通りで首がスースーすると思った。
クローゼットを覗けばスーツばかりで、現実の私と遜色ない地味さ。ただ此方の私はモノクロばかり好んでいるようで、男の子みたいに女としての洒落っ気が一切ない。まあこれも些細な差であり、現実の私もトド松に文句付けられるくらいには洒落た服を着てないので寧ろ気負いなく済むというもの。

ふと時計を確認すると、まだ6時を指しているのが分かった。

「此所の私って…今日、仕事あるのかな」

バックからスケジュール帳を取りだし見てみると、今日は《非番》と書かれているので休日らしい。これはラッキーだと思い、探索しに行くために服を着替えた。外に探索しに行く前に、夢とはいえ何かしら食べてからでないと身体が持たないかもしれないと思い、自室を出て見ると一人暮らしにしては広いリビングと対面キッチンがあって驚く。
まさか私以外に誰かと住んでるのかもと、その痕跡を探すために洗面所を覗いて歯ブラシの数を確認したが一人分しかなかった。

……ここの私は高給取りなんだろうか。それとも親が金持ちなのか。いろんな憶測が出てくるが所詮は夢。まあ別に気にしなくてもいいだろうとキッチンにある冷蔵庫を覗いて適当に作って食べたのであった。

テレビでニュースを見ながら現実とあまり変わらない朝を過ごして、8時になったところで出掛けるかと貴重品や警察手帳等を入れたバックを持ち、靴を履いて家の鍵をしっかり掛けたことを確認したら未知の世界へと冒険に出た。


結果から言うと、本当に現実世界と同じである。私の家の近くには大きな公園があって、周りはどうやら住宅街のようだった。来た道を忘れないように、携帯アプリにあるマップに自宅は登録してあるので、この風景を楽しみながらしばらく進むと大通りに出る。そこの歩道がレンガに出来ていて、お洒落な店が建ち並ぶ《ぷちヨーロッパ》みたいな場所で(夢だなぁ…)とこの世界が夢であると確認出来た瞬間であった。

まだ8時を過ぎたところなので店は閉まってる所が多く、開いてるのはモーニングを楽しめる食事処だけ。
ある程度散策していると、赤塚警察署という前を通る所で誰かに話し掛けられ足を止めた。

「真澄さん!非番なのにどうしたんですか?」

″さん″ということは後輩なのだろうか。明るい茶髪をポニーテールにした可愛らしい女の子に不信に思われぬよう、とりあえず話を合わせようと笑顔で対応する。

「散歩だよ。今日は目が早く覚めちゃって、何となくブラブラしてたら此処に来てたんだ」
「うわぁ…前から思ってたんですけど、真澄さんワーカーホリックですよね。無意識で此処に来ちゃうとかヤバイです」
「いや、たまたまだよ?それに只の散歩だから」

ここの私はドが付く真面目らしい。只の散歩だと言うのに、目の前の女の子は「非番らしく、今日は警察署内に入っちゃダメですよ」と釘を刺されて、私は『…はい』と答えるしかなかった。

その子と別れて、明日の勤務先と顔見知りを知れた事だし、何とかなりそうだと胸を撫で下ろした。安心と共にまた悠々と歩き出し、人の波から外れた小道を通っていると、気になる建物を発見したのだった。

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