夢の中の君を探して

□怪盗編
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少し古いけど立派な洋館。前回の夢で出てきた(ちょっとトラウマ)な屋敷よりは二回り小さいけど、結構な人が住めそうなその建物が奥まった場所に建てられていて違和感しかない。しかも門が閉まっていて外観は2階部分しか見えず、古いと思った要因はフェンスや門に絡まる蔦の葉の様子でそう思った。

人は住んでるのだろうか?と考えていたら子供らしき声がして、好奇心に勝てず、丁度私の背と同じくらいのフェンスから精一杯背伸びして中を覗いた。
二人の10歳くらいの男の子と、それより少し小さいくらいの男の子が仲良さげに花壇の花に水をあげていた。兄弟なのかと二人の顔を見たが、どうも似てない。人が居たことにフェンスから一旦離れて、門の前に立って何か表札は無いかと見れば蔦の葉に隠れているプレートを見つける。

「……太陽園?」

園と言うことは普通幼稚園を連想させるが、あんなに大きな子供がいるとなると此処は孤児院ではないか?という考えに至る。

「誰かいるのー?」

小さく呟いたつもりだったけど、子供達には聞こえていたらしく門の扉が開いて顔を出した。

「お姉ちゃん誰?」
「ご、ごめんね。散歩してたら此処に来ちゃってて…」
「姉ちゃん迷子?」
「迷子じゃない。何となくこの建物が気になって見てただけ」
「ふーん…なぁなぁ、お前っていま暇?」
「(…相手は子供だもんね。タメ口は仕方ないか)まあ、今日は暇だね」
「料理得意?」
「まあ、それなりには…」
「やった!今日のご飯はマシになるぞ!」
「やったね!」

私の預り知らない所で話が進んでいき、二人の子供に両腕を引っ張られて敷地に踏み入った。待て待て!と足を踏ん張り、何故君達の家に招かれているのか聞いた。

「兄ちゃんのご飯美味しくないんだよね。不味いまではいかないけど、美味しくはない」
「お兄ちゃん、料理上手くない癖に格好付けたものばっかり挑戦するから、最終的に失敗する事の方が多いんだ」
「ああ。それでご飯作ってくれって事か」
「ダメか?」
「ダメです。あのね、先ず知らない人を家に招く時点でダメだよ」
「姉ちゃん、危ない人?」
「違うけど…君達の言う危ない人だったらどうするの?自分を守る為にも、迂闊にこういった事は止めた方がいい」
「うっ……ごめんなさい」
「でも危なくないんだろ?だったら別にいーじゃん!それにさっき会ったから俺達知り合いだろ」
「名前を知らないのに、知り合いも何も…」
「あ、忘れてた。俺は司(つかさ)!」
「僕は和真(かずま)だよ」
「いや自己紹介すれば知り合いというわけでは……はぁ。真澄だよ」

二人の勢いに負けて、渋々自分の名前を教える。一番生意気そうな司くんが「これで知り合いだな!」と快活な笑顔で言うものだから、諦めて知り合いという事になりました。
じゃあ知り合いになったし、ご飯作ってくれよと言うが、二人のお兄さんにそれは申し訳ないんじゃないかと思った。だって「ご飯が不味いからさっき知り合った人を連れて来ました」なんて言われてみろ。兄としてのプライドと私という怪しい女に軍配が上がってしまった事実に、彼は余程ショックを受けるんじゃないだろうか。そして快くキッチンを貸してくれそうもないだろう。

それを言ったらじゃあ説得しよう!と、二人の諦めの無さに私が折れた。


「あれー?司兄ちゃんその人だれ?」

家のリビングらしき場所に案内されると、二人以外にも子供が五人(男の子二人に女の子三人)も居て、その五人も顔の造形が似ていない所を見ると、やっぱり孤児院なのだと確信する。そして誰しもが私を興味深そうに見てくるので怖がらせないように笑顔で軽く自己紹介する。

「真澄だよ。さっきこの家の前に居たところ、この二人に招かれてしまってね」
「もう、司!知らない人をすぐに家に入れるの危ないでしょ!」
「だって真澄のやつ、いい人そうだったし…兄ちゃんの飯はそろそろ嫌だったから」
「お兄ちゃんも知らない人を入れちゃダメだよって言ってたでしょ!約束破るなんて最低!」
「チッ…亜里沙(ありさ)は口煩いよな」
「はあ!?」

気の強い女の子は亜里沙ちゃんというらしい。司くんとあまり年齢が離れていないようで対等に話している。
しかし…しっかりしている子だ。その子の言い分にその通りだと頷きつつ、このままでは私のせいで険悪な仲になったらと思い、止めに入った。

「亜里沙ちゃんだっけ…ごめんね。私は帰るから、二人を責めないでやってくれないかな?」
「え……あ、別に……お姉さん、お仕事は?」
「警察だよ。ほら」

警察手帳を見せてみると、周りからカッコいい!やスゲー!などの声が上がる。亜里沙ちゃんは私が警察だと知ると、さっきまで警戒してたのが嘘のように、目をキラキラさせて私を見るようになった。

「お姉さん警察だったんだ!じゃあ、司の審美眼は冴えてたって事ね」
「難しい言葉をよく知ってるね…だけど亜里沙ちゃんの言う通り、危ない人もこの世にいるのだから知らない人をほいほい招かない。いいね?」
「「はーい!」」

警察という職業は子供達に安心を与える響きだった。こんなにも早く受け入れられると逆に戸惑うが…まあ悪い気はしない。

「お前達どうした?何を騒いで…!?」
「あ!お兄ちゃん!」

リビングに入ってきた人物は私を見て固まった。ついでに言うと、私もその人を見て固まった。

「兄ちゃん、コイツ真澄って言うんだ。昼飯作ってくれるって!」
「……」
「お兄ちゃん?」
「あ……いや待ってくれ。何でこの人が昼飯を?というか、なんで家に?」

彼の言動はもっともだ。だけど一つ(心の中で)言わせてくれ。

お前かよカラ松ぅぅうううううう!
司くん達が言うお兄ちゃんがカラ松!?というか何その眼帯!とうとう厨二病発症したの!?イッタイよねぇー‼

孤児院のお兄さんの正体がカラ松でした。いやターゲットを早くも見つけ出せたから良いんだけど、何?今回は孤児院編突入ですか?

「あの…」
「あ、すみません。実は散歩してたらたまたま此処に着いてしまいまして。司くんと和真くんが私を発見して声を掛けた所から何やかんやあり家に招かれてました」
「…司、和真。約束しただろう?知らない人を入れたらダメだと」
「真澄はもう知らない奴じゃねぇーもん。もう友達だし!」

いつ友達になった?
そうは思っても口には出さず。眼帯カラ松も子供の言う事に困り顔だ。

「すみません。この子達がご迷惑を…」

敬語のカラ松って、何か違和感あるな。見た目の割りには常識人ぽいその対応に、更なる違和感が拭えない。

「迷惑という程ではありませんよ。それより、ご飯を作って欲しいと司くん達に頼まれたのですが…えっと…」
「松野カラ松です。この孤児院を経営している者です」
「私は鈴城真澄です。それでカラ松さん…ご飯の事なのですが、やはり此れこそご迷惑ですよね?」

言葉の端に『まさか余所者である私にご飯作れとは言わないよね?』というプレッシャーをかけておく。すると彼も流石にそれは申し訳ないと、表面的には優しく断った。

うん。一応初対面だもんね、私達。
だけども彼のそんな言葉に反論するのは司くんだ。いや、彼だけじゃなくて和真くんも、なんと亜里沙ちゃんもいい顔はしてなくて、釣られて他の子達も口々にカラ松のご飯について言葉を溢す。

「兄ちゃんの飯は美味しくないからヤダ!」
「え」
「僕も…ちょっと、流石に…」
「え!?」
「……確かにカラ松お兄ちゃんのご飯美味しくないよね」
「うんうん」
「そうだよねぇー」
「…………」
「あの…みんな?流石にお兄さんが可哀想だと思うよ」

子供達の容赦ない言葉の刃に、カラ松の矜持が傷付けられた音を聞いた気がした。プライドはもう粉々だろう。

「……フッ。ボーイズ&ガールズ?俺のスペシャルフードがお気に召さないと?」
「「うん」」
「……そうか」

良かった。ちゃんとカラ松だった。
でも静かに涙を流し始めたので、鞄の中からハンカチを取りだし彼の目元を拭って上げる。その行動にビックリしたのか固まった彼は、目を見開いたまま私を凝視した。その顔が少し間抜けでいつもの次男だから少し笑ってしまう。

「笑った方が貴方には似合いますよ」

涙も止まったし、ハンカチを鞄に戻そうと手を降ろすつもりだったのだが、カラ松にその手を掴まれた。

「…見つけた」
「はい?」
「俺のフォルトゥーナ。君を待っていたんだ!この世の荒んだ凍てつく地に舞い降りた君は何と慈悲深いのか!」
「フォル…え、なに?」
「あーあ。また兄ちゃんのアレが発症したよ」
「痛いよね…それで彼女作れないんだもん」

子供達のこそこそと話してる内容は私には聞こえていた。だけども目の前の彼は聞こえてないようで…意味不明なカラ松語を話しており、いまいちこの状況が掴めない。

「あの」
「んー?なんだいハニー」
「ハニーって誰の事です」
「君の事に決まってるだろう!」
「すみませんが、私は初対面の人と付き合うような女ではありませんので、他を当たって下さい」
「Oh my god!焦りすぎて肝心な事を忘れてたぜ。真澄、俺と付き合わないか?」
「もう一度言いますね。私は初対面で付き合うような女ではないので、他を当たって下さい」
「……え、フラれた?」

やっと私の言葉が彼に届いたようで、そっと掴まれていた手を離した。子供達も言わんこっちゃないと言った感じに溜め息を吐いている。

「フッ。だが初対面でなければノープロブレム!先ずはお互いに知ってこうじゃないか!」
「なあ真澄。オムライス作れる?テレビで見るふわふわトロトロなやつ」
「切るやつのは難しいけど、開いた状態のなら出来るよ」
「マジで!?じゃあそれ作ってよ!」
「オムライス!オムライス!」

何やら前回と同じようにカラ松が口説いてきたが、持ち前の痛さを発揮しているので私としてもスルーしやすい。子供達のオムライスコールの中、また静かに涙を流すカラ松だったが…またあの茶番を繰り返す気はないので拭う事はしなかった。

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