夢の中の君を探して

□04
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「Oh……」
「本当に料理出来ちゃったよ」
「スープくらいなら切って煮込むだけだよ。野菜とか調味料少なかったから明日買いに行こうね」

全然料理してないのは冷蔵庫見て察した。ウインナーばっかりストックがあって、野菜と言えばキャベツともやし(炒めて食べるつもりだったのかな……)しかなかった。あとは卵とバター、ジャムの豊富さには糖尿病待ったなしの不摂生さが見られる。
辛うじて塩と胡椒、干し椎茸があってそれらを駆使してなんとか作れたものだ。

スープをカラ松がよそい、私は昼間のパンを皿に並べてジャムとバターを用意する。チョロ松も引き出しからスプーン3本とバターナイフを取って並べて椅子に座った。チョロ松はスープだけ頂くらしく、カラ松が持ってきた所で三人は椅子に座り、神父様が食べ物に祈りを捧げた後に「アーメン」と同時に声に出して食事がなされた。

「真澄。貴女は天才ですか」
「デリシャスだ!見ただけで此処まで出来るなんて、真澄は料理の申し子か!?」
「大げさだよ。カラ松様だって、覚えたらパッとできちゃうよ」
「ンン〜……他の事で手一杯だからな」
「不摂生してると、そのうち病気になるんだからね。きちんとしたご飯が食べれるなら食べなきゃ駄目だよ」
「…………すみません」
(食べられない辛さを知ってるだけに、この子の言葉は重い。たく、神父のくせに裏家業にばっか力入れ過ぎなんだよ)

おっと。また子供らしからぬ発言をしてしまった。
今の自分は幼女だ。
残念な事に、幼い少女なのだ。
例え中身が二十越えた大人だとしても、夢の中の設定に則ってそれなりに振る舞うべきだろう。

「ん?キュートな唇の横に星屑がついてるぜ」
「んむっ……」

いま私が食べていたパンの欠片が口端に付いていたらしい。カラ松は指先でそれを摘まみ、自分の口の中に運んでいった。
ううーん……見事な子供扱い。

「お前さ、そういうのは教えてあげればいいでしょ。神父たるもの、女の子に気安く触るなロリコン」
「だ・か・ら!幼女趣味なんて俺にはな〜い!子供を、可愛い妹を愛でる清き心に従って行動してるだけだ!」
「そうか。でもロリコンだろうとシスコンだろうと、今の行動はダメだから。男にホイホイついていっちゃう子に育ったらどうするの」

いや中身が(以下略)なので、知らない人に付いてくような事しませんが。

「むっ……それは駄目だな。しかし、神父だからこそ慈しみ、愛を与えるのも使命だ」
「度を越すなってことだっつーの」
「……どの辺までがオーケー?」
「正直、触れるのさえ禁止にしたい」
「そんなに!?」
「お前に触らせると魂が穢れそう」
「俺は神に使える者だぞ!穢れるわけがない」
「ロリコンの容疑が掛かってる時点でアウトなんだよ。このペド松」
「もっと酷くなった!だいたいお前も似たようなものだろ!」
「僕は女神だよ?触っても穢れるわけないでしょ。ということで、カラ松はあまり触れないこと」
「〜〜っやだやだやだ!頭なでなでしたいし、お手てギュッて繋ぎたい!これから家族として、兄として、いっぱい愛を注いで何が悪い!?」

何だか知らないが、言い争い始めた二人。
要はあれですよね?私が将来しっかりした子になればいいだけの話ですよね。大丈夫だって、中身(以下略)

ヒートアップしてきた二人に、面倒だなぁと思いながら声を掛ける。

「チョロマツ様。なにを心配してるか分からないけど、大丈夫だよ」
「……お前の為にもこれは譲れないのですよ」
「でも、カラ松様と暮らしていくのに、一々言ってたらキリないよ。私も嫌な事はイヤってはっきり言うから。それに、一応神父様なんだから変な事はしないよ」
「一応じゃないんだが……」
(……今の所はしっかりしてるし、そんなに心配しなくても平気かな)

上手くかは分からないが諌めると、チョロ松は私に再三注意して頷いた事により、今は様子見すると引き下がった。

そして、その様子見というのを崩れさせるような話題があるのを思い出す。

夕食を頂き、お風呂に入らせてもらい、傷の手当てはチョロ松がもう一度して、さあ良い子は寝ましょうとなった時だ。

「しまった……ベッドの手配を忘れていた!」

だろうとは思いました。
一つしかない寝台に狼狽えるカラ松に仕方ないなと溜め息を吐く。

「カラ松様。毛布を下さい。今日の所は多目的室の絨毯の上で寝ます」
「ダメに決まってるだろう!?」

うん。その返答も予想済みです。
だから言いたくはなかったけど、少し気恥ずかしい想いはあれど、あれを提案する。

「じゃあ……狭くなるけど、一緒に寝る?」
「……」

ピキンッと凍ったように停止したカラ松。それを見兼ねて、チョロ松は彼の頭を叩いて動かす切っ掛けを作り、私に目を落とした。

「ロリコンと一緒に寝台に入るとか、貴女の危機感はどこに落としてきたのですか」
「ロリコンじゃない!」
「チョロマツ様。カラ松様はロリコンじゃないし、酷い事をするような人には見えません。今日くらいは大丈夫だよ。……ま、カラ松様が一緒に寝たくないと言うなら、さっきも言った通りに床に寝ますが」
「嫌じゃない!よし、一緒に寝ようマイシスター!」
「…………仕方ないですね。それではカラ松。絶対に手を出すなよ?」
「出すわけない!何度言えばわかるんだ。俺は神に使えし清廉潔白なこの教会を任せれた神父……GREAT of カラ松だぞ!?」
「初めて聞いたよ。それじゃあ真澄。またね」
「お休みなさいチョロマツ様」
「はい。お休みなさい」
「あ、ちょ……」

十字架の中に消えてしまったと言うことは、あの泉に帰ったんだろう。

「ほら寝よう?」
「……チョロマツほどでは無いが、将来が不安になってしまうな」

これが大人のままの私なら違う方法を考えてたよ。でも私は子供!まだ恥じらうような年頃でもないし、現実でもあんたの隣で寝ているから問題ない!

よいしょとベッドにあがり、ポンポンと空いてるスペースを叩く。
それには諦めた様子でカラ松は十字架をサイドテーブルに置き、ランプだけ付けて室内の電気を消し、ベッドに入る。

大人と子供じゃ全然身体の大きさが違う。ぎこちない動きで腕を私の頭上に伸ばし、腕枕いるかと聞かれたが首を横に振る。すると、しゅんとした感じで布団の中に手を引っ込めた。

「絵本でもあれば読んであげれたんだが」
「いらない」
「……そうか」
「いつもより温かいから、すぐ眠くなる」
「………………真澄。じゃあ手を繋ごう」
「何で?」
「夢見が良くなるように、おまじないだ」
「(ここが夢なんだけど)……うん」

小さい私の手はすっぽりと大きな手に包まれる。

「大いなる父は君を見捨ててはいない。だから俺の所までやってきた」
「カラ松様の言う神様って誰?チョロマツ様は女神様だけど、カラ松の言ってる神様は違うよね」
「この世界を作った主を重んじて崇めている。具体的には君を天使候補とした神様と同一だろう」
「……なんで悪魔はいるのかな」
「人間の悪の心からこぼれ落ちたものが集まって生まれたり、天界から堕ちたものだったり、それぞれだ。大丈夫。これからは俺が守ってやるからな」
「ッ……」

守ってやるという言葉に心臓が嫌な感じに脈打った。
このままじゃ、前と同じ結論になってしまう。きっと彼は私を庇って、最悪……死ぬ。

守ってやるという言葉は今の小さな私には嬉しいのに、トラウマ染みた前の映像が頭を過って上手く喜べない。

「……顔色が少し悪い。怖かったなよな。もう大丈夫だから、安心して眠るといい」


……温かい。

偽りの情報がカラ松の体温を教えて、手から伝わって、小さな私はホッとして目を瞑る。

大丈夫。今度こそ。大丈夫……だいじょうぶ。

私は眠る前に呪文のようにその言葉を唱えた。

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