夢の中の君を探して

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悪魔には階級がある。上級、中級、下級と大まかに三階級となっている。

上級悪魔にはあのサタンやベルゼブブといった有名所が存在しているらしく、大抵は悪魔信仰者によって召還された時に現れるらしい。自ら動く事は少ないが、たまに暇だとかで出てくるらしいので注意が必要。なんとも迷惑な悪魔だ。ただし、制約があるのか彼等の誘惑に勝てたら何もなく帰ってくれるらしい。

中級悪魔は上級悪魔より力は弱いが、契約者を求めて自ら行動するので要注意。死後に魂をもらうという事で生きてるうちは何かと助けてくれる。一件、これだけならまあ良いかと血の契約をする者が結構多いが、実は代償がある。助ける度に悪魔から人間に対して要求されるのだ。気まぐれな悪魔のことだからその日の気分で決まった事はないが、大抵は寿命を縮めようとして3年分の生命力を奪ったりするらしい。怖い。

そして下級悪魔。人に取りついて心を弱らせて凶暴化または死に追い込ませる。影響力が極端に低いが質が悪い。また、それ以外にも夢に入り込む夢魔も下級悪魔に属するらしい。

「細かい部類はまたあとで。昼ご飯の時間だから、そろそろカラ松も帰ってくる」

多目的室にあった黒板で現世の授業さながらの教鞭を振るったチョロ松。まだ基礎中の基礎だから頭に入ったけど、これはカラ松にノートと鉛筆を貰う必要がある。

「何か分からないところあった?」
「ううん。チョロマツ様の分かりやすかった」
「それは良かった」
「あ、そういえばね。わたし聞きたい事あったの」
「なに?」
「守護天使って、みんなに付いてるものなの?それにしては悪魔召還とか血の契約とか、悪魔に取りつかれたりとかする人がいるってことは…」
「守護天使は人間が成人するまでは付いてるものなんだ。だいたい18歳で、その頃になると心も体も育っていると判断されて役目を終える。けどその前に離れてしまう場合は悪魔との戦いに負けたか、あるいは……ま、これは無いか」
「じゃあ、私を守ってた天使は…」
「おそらく悪魔に負けてしまったんだろうね。天使候補の君だから結構強い天使を派遣したとは思うけど」


天使候補らしい私を守る為に、死んでしまった。いや消滅なのか。そう思うと胸が痛くなる。

「チョロマツ様は見えたのに、なんで見えなかったんだろう?」
「見えないようにしたんだよ。前にも言った通りに、子供は僕達の存在が見えてしまう事が多い。それを守護天使が見えないように細工するのも仕事なんだ」

そうだったんだ……。
夢だから都合良く生き残れたけど、これからは私の努力次第で最悪な結末も待ってるかと思うと憂鬱だ。

頭が痛いなぁとか考えてると、キッチンにある勝手口から私の呼ぶ声が聴こえて、カラ松が帰ってきたのを知る。


「マイスウィート!何処にいるんだ〜?」

……出にくいし、イタいよカラ松。

「お帰りなさい、カラマツ様」
「おお!ただいま帰った、ぞッ!?」
「はい、くっつかない。変な癖がついたら困るでしょ」
「変な癖って……親愛を体現するハグは素晴らしい文化だぞ」
「同姓ならまだしも異性はダメ。不純です」
「不純!?」

もうこの下りも慣れてくる。またギャーギャー騒いでる二人に、ため息がでそうになった。

でも子供を抱き締めるのに、ロリコンではない限り不純とは言い過ぎだとは思いもする。
しかし、このカラ松がロリコンじゃないとも言い切れないのが悔しい所である。

…………だけど。だけど、なんだよね。

小さな私は親から愛されなかった。だから凄くムズムズするというか、本当はギュッと抱き締めて欲しい欲求とかがある。それでも中身がアレな私が言い出せる筈もなく、二人のやり取りをボーッと見つめるだけだった。

「どうしたマイシスター。そんな寂しそうな顔をして」

心配そうに顔を覗き込むカラ松。そして慣れたように頭を撫でてくる。それにちょっとだけ不安感は薄れて、手の重みと温かさに少しだけ目を細めた。

「……カラマツ様の手、温かくて好き」
「ッ!?」

夢の中で体温を感じるなんて本当に変な話だけど、でも、幼馴染と丸で変わらないその手にどこか安心を覚えた。

「チョロマツゥ〜……」
「………………はぁ。もういいよ別に」
「神に祝福を!」
「わっ、」


大人の大きな身体に、すっぽりと私の身体は包まれた。安心するものがあるけど、少しだけ恥ずかしい。


「んん〜〜!可愛いぞマイシスター!可憐な花を両手いっぱいに抱き締められるとはなんと幸福か!」
「ちょ……と、くるしい」
「おっと、苦しかったか。フッ、ギルトガイな俺を許してくれマイエンジェル」

ここも変わらない。この夢も、カラ松は優しくて温かい。

「カラマツ様……いろんな意味でイタいです」
「え!?そんなに苦しかったか!?それとも背中の怪我が痛む?気を付けていたつもりが舞い上がりすぎて……ああ神よ!私は本当に罪深い信徒です。また傷つけてしまい、大事な子を悩ませるとはうんたらかんたら……」
「はいストップ!抱きしめながら祈るなロリコン。離れて離れてー」
「あ、ちょ、チョロマツ!」

ロリコンじゃない!と叫びながらもチョロ松に引き剥がされて、女神様は私を軽く抱き寄せた。
何となくだが森林の香りみたいな……木の香り?かな。湿布の匂いであまり感じなかったものが、近くなってから新たな情報を与える。


「チョロマツだって抱き締めてるじゃないか!」
「僕は《女神》だからね」
「うぐぐ……!」


口じゃ勝てなかったようだ。
何処か誇らしげなチョロ松は、私を軽々抱っこして更にカラ松を挑発するような行動をとる。するとカラ松はバッと両手を広げて「さあ飛び込んでおいで!たくさんの愛を与えよう」と言い、チョロマツに脳天めがけてチョップされたのだった。

******

昼御飯も豊富になった食材と調味料にわくわくしながら、唐揚げは夕飯にして、子供が作っても変じゃないものをとベーコンエッグと玉ねぎスープ、サラダとロールパンで頂いた。簡単なものだったが、カラ松は本当に美味しそうに食べていて、日々のパンのみの生活に飽きていたんだなと察する。

それにしても、小さな私はよくパンだけで、ここまで成長出来たと思う。そしてよく生きてこれたなとさえ思った。与えられた記憶を思い返すと、7歳くらいの見た目ではあるが、実は10歳だったと判明。
自分の事だけども、可哀想だな……私。本当に偉いよ私。
もっともっと小さい頃はお米を食べさせてもらえてたから、この食事は何年ぶりになるのか。
……4、5年くらいか?

ああ何か米が非常に恋しくなってきた。買ってきてもらったのだから夕飯のために炊かないと。

「ああ、そう言えばカラマツ。真澄にも一般教養くらいは教えてやれよ」
「お、そうだな。真澄は幼いわりに賢いから、少々早いが大丈夫だろう」
「ある程度の読み書きはバッチリなんだもんね?」
「ほう……流石はマイシスター。これは教え概があるな!」

カラ松がニコニコと機嫌が良さそうにしている傍ら、私は一体何歳だと思われているか気になった。自分でも実年齢より2歳下に見えたくらいだ。

「そんなに早くないよ?私、もう10歳だから」
「「……え?」」

嘘だろ?みたいな目で見てきたが本当なので、とりあえず「どうかしたの?」とあざとく首を傾げてみる。

「……6歳だと思ってた」
「僕もだよ」

私の考えていた年よりも下に見られてたようだ。

「それは理解が早いのも頷ける……のか?」
「まあ10歳なら言葉をしっかり理解してても不思議じゃないし、読み書きも習っていたなら出来るかなぁ」
「んー……でも、やはり賢いのには違いない!俺のリトルレディは最強にキュートでクールなスペシャルガールだ!神に祝福され兄となった俺もこれほど幸福なうんたらかんたら─」

「……チョロマツ様」
「うん。無視しようね真澄。これも大人の対応と言うものだよ」
「ん?二人ともどうかしたか?」

大人の対応かはともかく、本当に此処のカラ松はイタいというか面倒臭いので、あしらい方は雑でも良いなと私は思った。此方が反応しなくともカラ松は楽しそうだからだ。

「よし。明日から勉強を始めような」
「よろしくお願いします」




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