長編

□運命の人
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彼女はあまり外の世界を知らないから、ブラザー達から聞かされるものに凄く興味を示していた。

おそ松ならパチンコや競馬。ろくでもない話しだったが、彼女はどうやるの?とか競馬の雰囲気ってどんな感じなのかと楽しそうだった。

チョロ松は今イチオシの地下アイドルにゃーちゃんについて熱弁すれば、引くことなく聞いてくれる彼女を余程気に入っていた。

一松は先ほど言っていた猫について曜日を決めようかとか、病院の中に入れては駄目だから庭で会おうとか…。こんな積極的な一松は初めて見た。

十四松は野球しよう!といつものテンションで、でも激しい運動が出来ないから野球観戦ならと彼女は受け入れる。

トド松はいつの間にかLI⚪E登録をしていて「何かあったら連絡してね!あ、別に用事が無くてもしてきていいから!」と末っ子恐ろしい…そして羨ましい。

小一時間話して、彼女は気づいた。


『あの…そういえば皆さん。何の仕事をしているんですか?』

「「「…」」」

『…?。あの…』

「俺ら働いてないの。つまりニートってやつ」

「おい!あの、誤解だから!今は就活中なんだ僕ら」

「何時かは働こうと思ってるんだよ、いつかは!」

「野球!?」

「野球じゃないよ十四松兄さん」

「…俺みたいなゴミ。働いても迷惑でしょ」

「一松暗い!暗すぎるって!」

「そのだな…」

『じゃあ皆さん働いてないんですか?』

「「「…はい」」」

「その通り!」

「なに元気良く答えてるんだよ!?」


彼女は軽蔑しただろうか…。


『…何だか勿体ないですね』

「勿体ない?」

『皆さん優しくていい人ですから、働いてもその良さが出るだろうなって…』

「ンン゛!(マジ良い子じゃん!もうこれ菩薩レベルでしょ!)」

(ああ!一松兄さんが召されかけてる!)

(兄さぁーーん!)


流石は俺の運命の人!花を咲かせ、皆を幸せな気分にさせる、まさに春の女神プリマヴェーラ!



『それに私自身ニートですよ?好きな時に本を読んで、ゴロゴロしているんですから』


…それは限られた自由での事だろう?

俺達がそれぞれの意思でニートしているのに対して、彼女に出来る事が少なすぎる。彼女の面倒の良さを見れば、人のためになる仕事に就こうと思ったに違いない。

いや…本当は、ずっと何か新しい事を始めたいと望んでいるかもしれない。


「ねえねえ真澄ちゃん!」

『なんですか十四松さん』

「これからもお見舞い来てもいいっすか?」

『ふふ、私からお願いしたいくらいですよ。是非来て下さい』

「じゃあ僕は今度にゃーちゃんのDVD持ってくるよ!あ、ここってレコーダーある?」

『ありますよ』

「じゃあAVも見放題じゃん!」

「「黙れバカ長男!!」」

「じょ、冗談だって!冗談!(半分は)」

『えーぶい?てどんなもの何ですか?』

「真澄。知らない方が良いことも世の中にはあるんだぜ?」

『………うぅ…気になります』

「なんなら!俺が実践し…」
「十四松!卍固め!」

「よいっしょーー!」
「あぁあああああああああ!!」

「バカの言うことは大半は聞かない方が身のためだよ」

「そうそ。一松兄さんの言うとおり」

『そ、そうですか…ι』


バカ騒ぎしすぎたのか、恐めのナースが来て怒られてしまった。真澄も少し疲れた様子で、今日の所は帰る事になった。


「またねー真澄ちゃん!」

『はい!』

「俺はしばらく会えないが…夢の中でまた会おう。最高の夢をやくそ「はい帰るよー」イッテ!?そっちは怪我してる方の腕だトッティ〜!」


無理やりトド松に怪我してる方の腕を引っ張られて椅子から立たされる。

情けない姿をこれ以上見せたくないのに、生理現象で涙が出てしまう。


『…カラ松さん!』

「イツツ…なんだ?」

『仲直り、出来て良かったですね!』

「!。ああ!真澄の栞のおかげだ!」


…この子が居なかったら、俺は心の中で痛みや苦しみを閉まって、いつものように振る舞うだけだった。心からブラザー達と向き合え無くなっていたかもしれない。

それが愛だと信じて。

でもこうして今、心から笑ってられるのは彼女が背中を押してくれたからだ。


『そうだ…これ私の携帯番号です。トド松さんに全部連絡を任せるのは大変でしょうから』

「えー!?別に大変じゃないのに…」

(あ、こいつ独占する気だったな)
(流石松野家の末っ子)
(油断ならねぇ…)
(トッティやるー!)

『来るとき連絡して欲しいです。検査で居ない事もありますので』

「わかった。次に会う時が楽しみだ!」

『ええ、私もです』

(あれ…何か俺ら邪魔っぽくない?)
(二人の世界みたいなものが!)
(リア充オーラ若干纏ってんじゃねぇよ)
(やっぱり殺そうよ)
(でも真澄ちゃん悲しむんじゃないかなー?)
(((……カラ松ばっかりズルい)))


電話番号が書かれた紙を大事にポケットに入れる。



手を振って俺達を見送る彼女は終始笑っていた。



















『…っは、…はー……笑って…られた、よね』

みぞおちから来る痛みが首の付け根まで締め付けるように呼吸も荒らす。

いつもの軽い発作だ。

安静にしていれば、5分位で収まるような軽い発作。カラ松さん達が帰る間際で良かった。


『…次も…会える』


それだけで、この痛みも昔より辛くはなかった。

次はどんな話が出来るだろうか?おそ松さんに今度、麻雀について教えてもらおう。遊びだっていってたから、皆さんとやってみたい。チョロ松さんのにゃーちゃんの話、その人の事が好きだからキラキラしていてDVDが楽しみ。一松さんが連れてくる猫におやつ用の餌用意しよう。十四松さんは見ていて元気なれるし、テレビの中の野球について詳しく解説して欲しいです。トド松さんは今時のお洒落さんっぽくて、流行りものとか疎い私にそういうの教えてくれるかも。


…カラ松さんは。

カラ松さんの事、もっと知りたい。私の初めての友達だから。




『神様はいるんですね。私にこんなにも出会いをプレゼントしてくれるなんて…生きてて良かった』


呼吸も楽になり、痛みも引いていった。


今日は驚きと、初めての事だらけで疲れてしまいました。夕食もあまり欲しいと思わないですね。

ああ…でも。


『唐揚げ…美味しかった』


友達がくれた唐揚げは、今まで一番美味しかったです。


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