長編

□運命の人
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「……危なかった!!!!」


病院を出て外の新鮮な空気を吸いたくてマスクを外した。大きく息を吸って、吐いてを繰り返して、先程の事を思い出せば今にもアレが元気になってしまいそうで怖い。


「本当に寝てくれて良かった…あのままだと、我慢が出来ずにするところだったぜ」


熱に浮かされた潤んだ瞳と、繋がれた手。甘えてくる可愛い好きな女の子にされれば、理性というのはすぐにヒビが入る。

しかし男カラ松。この神の試練を見事打ち勝ったぞ!手は出しても口はしなかった!よく我慢した!!


「あれー?カラ松兄さん何してるのー?」
「十四松か。いや、何……俺は神からの挑戦状を」
「え!?なんて!?」
「……フッ。何でもない」


すると十四松は俺の来た道を見て、察したのか袖を口に当てて首を傾げた。


「真澄ちゃんに会って来たんだ!トド松がしばらく会えないって言ってたのに!」
「……ちょっと心配でな」
「真澄ちゃんの事愛してんね、カラ松兄さん」
「もちろんだとも。俺と真澄は出会うべくして出会ったまさにデスティニー!運命の人だからな」
「そっかー!運命の人なんだ!じゃあ、僕も真澄ちゃん大好きだから運命の人?」
「ノンノンじゅうしまぁ〜つ?運命の人はこう……ビビッと来るんだ!お互いのシンパシーを感じて、恋に堕ちる…そしてたどり着く先はそう!愛の楽園なのさ!」
「ん〜…よく分かんないけど、カラ松兄さんはすごーく真澄ちゃんが好きってわかった!」
「フッ。そうか」
「でも真澄ちゃんは友達としてカラ松兄さんが好きなんだよね?恋してないよ?」


弟からの言葉のストレートが俺に決まった瞬間だった。気づいていただけに、改めて言われるとショックが大きい。


「真澄ちゃんカラ松兄さんのこと意識してないよね」
「アウツ!」
「この前だって友達宣言されてたよね」
「ガハッ!」
「どうして運命の人っていえるの?ねぇ、なんで?」
「もうやめてぇ〜!俺が悪かった十四松!だから傷を広げないでくれ!」


わかった!という弟の笑顔に悪意を感じる。身体に刺さった矢を抜いて、いつもの調子に戻り、十四松と共に家へと帰る事になった。今日はマミーがおやつにどら焼きを買ってくると言っていたのだ。真澄が居てほしいと言うなら喜んでそっちを優先するが、約束してしまった以上どら焼きを逃す手はない。


「……そうだ!僕ね、真澄ちゃん好きだけど、友達として好きなんだよー」
「え!?そうなのか!?」


だってこの前……と、悪夢にも近い記憶をフル再生して信じられないという目で十四松を見た。
俺は忘れてないぞ。お前の口が『ザンネン』と動いた事を!

十四松は何かを考えるようにいつもの笑顔は閉まって、袖を口に当てて言う。


「んー……何かね、好きなんだけど……抱っこした時に、僕ドキドキしなかったんだぁー。」
「そうなのか…」
「可愛いし、良い子だよ。でもドキドキしなかった!カラ松兄さんは!?」
「俺は……する、な」
「でしょー?だから僕は真澄ちゃんはお友達なんだなって思う!」

屈託ない笑顔で答える十四松にそうなんだ…と、本気でそう思ってるんだなと感じた。


「真澄ちゃんはね……危なっかしい妹だよね!目を離した隙に転びそうになったり、ペットボトルの蓋が固くて開けれなかったり、違う意味でドキドキする」
「ああ……確かに危なっかしいな。そのくせ我慢するから俺も気が気じゃない」
「カラ松兄さんは発作起きたところ見たことあんのー?」
「ん?あるぞ。最初は誤魔化そうとしてたんだが、見てしまった後は隠さないように約束をした。彼女は我慢が好きらしいからな」
「僕は今のところないなー……やっぱり我慢してるのかな」
「……どうだろうな。たまたま十四松の時はなっていなかった事もあるだろう」


今は俺だけが知っていて、彼女の痛みや苦しみを分かち合える唯一の存在になれるなら…。そう思う独占欲が強い自分が囁いた。

"もう少し皆の前では我慢してもらおう"

それをソッと心の奥にしまいこみ、少し前を歩く十四松を見た。
すまないなブラザー、こんな兄で。でも、彼女は俺を救ってくれた特別な人なんだ。

誰にも渡したくない。


「何か言った〜?」
「フッ……ギルトガイな俺を許してくれと言っただけさ」
「着いた!ただいマーッスル!」
「……ただいま帰ったぜ!」


どら焼きー!と叫んで我先にと走って行った十四松。居間を開けると皆が揃っていて、母さんからのどら焼きを待っていた。

この場所で、笑顔で、俺は言う。


「ただいま愛しのブラザー達!」


彼女からくれた居場所にいつかは招待するから、今は少しだけ独占させて下さいと思うのだった。



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