長編

□運命の人
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悪化することなく、無事に風邪を乗り越えてようやく松野さん家に行く日が来ました。


「よし。じゃあ行こうか!」
「はい!」


カラ松さんも風邪を引くことなくまた見舞いに来てくれて、これから松野さん家に案内して下さります。

風邪が移らなくて本当に良かったです。

前回の反省を生かしてマフラーを巻いて、鞄の中に手袋も入れました。それからカラ松さんから頂いたチュニックを着てみて、トド松さんのアドバイスで今日はパンツスタイルにしてみました。


「その……似合ってるぞ」
「本当ですか!カラ松さんから頂いたこの服、すごく気に入ってるから嬉しいです!」
「そ、そうか…!(可愛いすぎる!)」


気に入っているのに、似合ってなかったら……と不安だったけど、その心配はカラ松さんが払拭してくれた。気持ちが晴れやかになり、世界がとても綺麗に見えてくる。

松野さん家にお邪魔する前に、道中に見つけた和菓子屋に寄らせてもらい、12個入りの最中とお饅頭を一箱ずつ購入する。その際にカラ松さんが自然に荷物を持ってくれるから、また気持ちが浮上して、私は甘やかされているなぁとその優しさに笑みを溢した。
カラ松さんはほぼ毎日会いに来てくれるから、彼女さんは居ないとは思うんですけど……何でこんなに優しい人が彼女を作れないのかわかりません。

もし出来たら一番に祝ってあげたいな…。


「ここが俺のマイスイートホームだ!」


表札に"松"と書かれた木造の立派な一軒家がそこに建っていた。玄関の横にベンチとカラフルなパラソルが差してあって、茶屋みたいな雰囲気があり面白い。


「連れてきたぜ」
「あの、お邪魔します!」
「お、来た来た!いらっしゃい〜」


居間らしき所からおそ松さんが顔を出し、次々に皆さんが出てきて挨拶してくれる。


「真澄ちゃん、いらっしゃい。久しぶりね」
「お久しぶりです松代さん。あのこちら、皆さんで食べて下さい」
「まあ!ありがとうね」


カラ松さんが松代さんに手渡し、早くお上がりなさいという言葉に靴を脱ぎ、揃えて置いた。居間に通されると、カラ松さん達のお父さんらしき人物がちゃぶ台の前で座っており、気づいた私は頭を下げた。あちらも何やら緊張した面持ちで、私の方も緊張してくる。まずは座ろうとおそ松さんに手を引かれて、その人の正面に座らせてもらい、改めてまた頭を下げた。

「は、初めまして。姉崎真澄と申します。いつもカラ松さん達にはお世話になっています」
「よく来たね真澄ちゃん!私は松野松造だ。息子達から話をよく聞いてるよ。今日はゆっくりしていきなさい」
「……はい!ありがとうございます!」


松造さんは最初顔を強張らせていたけど、挨拶をする頃にはその人特有の柔らかな笑みで私と話して下さった。途中から固い挨拶はそこまでにして、何か話そうよ!というトド松さんに、それもそうだなと皆さんが頷き、いざ何を話そうかとなると悩んでしまう。

そこにお茶を人数分淹れて持ってきた松代さんにお礼を言い、私の手土産を茶請けにまずは一服。緊張も解れて、落ち着いた。


「真澄ちゃん。カラ松の事はどう思ってるの?」
「ブッ!!」
「ギャァアアア!?カラ松兄さん何すんの!」
「か、母さん!?何を…」
「カラ松さんは私の一番大事な友達です!」
「「「……」」」
「……ふぅ。そうなのね」
「カラ松……」
(知ってた……そんな事くらい知ってたさ……)


憐れみの視線を両親から受け、兄弟から当然だと言うようなニヤニヤとした笑みをもらった彼は、背中にどんよりと影を背負った。


「まあいいわ。何か内のニート達が迷惑かけてないかしら?」
「こんな時くらいニート呼びは止めて!?」
「迷惑なんて……むしろ此方の方が掛けてますよ。それに、いつも楽しく過ごさせてくれて感謝してるくらいです」
「「「真澄ちゃん…!!!」」」
「ふふ。そうなのね」
「いやー、しかし。真澄ちゃんみたいな可愛い娘がいるなんて、君のお父さんは幸せ者だよ」
「……そうでしょうか」
「そうだとも!私も娘が欲しいんだが……真澄ちゃんが息子達の誰かと結婚してくれたらなぁ」
「父さんまで何を言ってんの!?」


"結婚"

その言葉は女の子だったら一度は憧れるものであった。でも私には来ない縁遠いもので、それこそ相手に迷惑をかけてしまう。それに今だけでも十分満足してるし、大事な友達も出来て、家にも行けて……それだけで幸せだ。


「真澄ちゃん!父さんが言ったこと気にしなくていいからね!?本当に真に受けないで」
「え?はい……でも皆さん素敵な方達ですから、結婚した人は幸せですね」
「……それ本気で言ってる?」
「はい。だって皆さん優しいですから、きっと大切にしてくれると思います」
(ああ何でこんなに良い子なの!?もう普通に好き!可愛い!)
(闇が…浄化されてしまうぅ…)
(トト子ちゃんか真澄ちゃん…んー悩むなぁ。今のところカラ松兄さんが一番だし、望み薄いんだよね)
(んんん?何か胸がキュンてきたな……これが妹萌えってやつ?)
(結婚…ウェディングドレス…白いチャペルでの愛の誓い……ハネムーンは何処が良いだろうか)
「照れますなー!」


それぞれ結婚という言葉や彼女の言ったことに、いろんな思惑があれど、真澄は一切その気はない。ただ率直に思ったことを口に出して言っただけであり、第三者としての目線でしかなかった。


「……面接しましょう」
「「「…はぁ!?」」」
「面接?」
「え、いきなり何なの母さん!また扶養選抜は嫌だよ!?」
「いい機会だから、真澄ちゃんがあんた達の事をどう見てるか、その上で此方も考えさせてもらうわ」
「何を!?何を考えるっていうの!?」
「お前達をもう一度よく考える機会になるな」
「父さんまでも!?」
「えー……またやんのぉ?」
「おそ松。不参加なら扶養しないわよ」
「よっしゃ!やるぞお前ら!」
「強制!?」
「まーた母さん達の変なスイッチ入っちゃったねー。ま、真澄ちゃんから僕の事をどう思ってるか聞けるわけだし、いいけどね」
「今回は遠投80メートルいけるよ!」
「……死ぬ(褒められても、ダメ出しされても死ぬ。無理だって)」
「フッ。リベンジといこうじゃないか」


よく分からない事に巻き込まれ、机とホワイトボードがセッティングされるのを呆然と彼女は見ているだけだった。



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