長編

□運命の人
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母さんと父さんには困ったものだ。二人から祝福される事には俺も嬉しく思うが、ここで彼女に距離を取られてしまっては元も子もない。

ただ…あの面接のお陰で、彼女に俺の姿はナイスミドルに映っているということを確認出来たのはグッジョブ。


「ここがカラ松さん達の育ったお部屋……」


キョロキョロと物珍しそうに俺達の部屋を見回す彼女にソファーに座ろうと手招きする。長年愛用している緑のそれに腰を降ろしたのだが、気づけば俺達の隙間というのは拳1つ分も無くて、ギシリと使われ過ぎたスプリングの音にハッとした。

(何で一緒に座ってしまったんだろうか!)

ほぼ無意識的に座ってしまって、この距離を保つには俺の未熟な精神では耐えられない。


「あ、の……真澄」
「おそ松さん達、上がってきませんね」
「へあ!?そ、そうだな!下で何をしてるのやら…」


もしかして俺に気を使って来ないつもりか?
……………いや、ブラザーには悪いが、とてもそうは思えない。おおかた母さん達に引き止められているんじゃないだろうか。

でも、今はブラザー達の存在が恋しい。

ヘルプだブラザー!俺は彼女の前では紳士でありたいんだ!

太ももで手を出さないように、両手をぎゅぅと握りしめる。顔が赤くなってしまうのは止められなくとも、手だけは出さんぞ!


「そういえば、1つの布団で皆さん寝ているんですよね?」
「あ、ああ…」
「暖かいんでしょうね……今は冬だからちょっと寒いし、羨ましいです」
「……見てみるか?」
「見たいです!」


タイミング良くソファーから離れる口実が出来て、丸められた敷き布団をいつもの場所に引っ張り出してくる。コロコロ広げると、彼女は小さく驚きの声を上げたあと、寝転がってもいいかと聞いてきたので了承する。嬉々としてコロンと寝そべった。

とても楽しげに端から端へと寝返りを何回かしたあと、広いですねと穏やかに笑っている。

……何だろうあの可愛い生き物は。俺のミューズに違いない。


「カラ松さんはどの位置で寝てるんですか?」
「左から2番目だ」
「じゃあ枕を置いたらこの辺ですね」


コロリと俺がいつも寝ている場所に寝転がって無邪気に笑う彼女は、俺をどうしたいのだろうか。立ったままの俺は彼女のその可愛らしい行動を見下ろしながら、その布団で今夜寝られるのだろうかと心配になった。


「……何してるの」
「一松さん!いま皆さんのお布団を体験させてもらってます!こんなに大きいお布団は今後体験出来ないと思いまして」
「……そうなんだ」
「一松、他の皆はどうしたんだ?何で上がって来ない」
「……どっかの抜け駆け野郎が今んところ最有力候補なもんで、母さん達の株あげに皆躍起になってる」
(ぬ、抜け駆け野郎……)
「最有力候補?」
「真澄ちゃんは気にしなくていいよ。……まあその内来るんじゃない?」
「そうですか?あ!一松さんはどの位置で寝てるんですか」
「俺?……左の一番端っこ」
「(…本当は仲良しさんなんですね)ふふっ。じゃあ此処ですか」


またコロリと回って一松の場所に寝転がりクスクスと笑う様に、一松の方を見れば顔を赤くさせてガン見している。

わかるぜブラザー…。可愛い過ぎてどうすればいいか分からなくなるよな。


「カラ松さん。一松さん」
「何だい?」


寝転ぶのを止めたかと思えば布団の中央に移動して、自分の両隣をポンポンと数回叩く。

「一緒に寝転んでくれませんか?」
「……は?」
「真澄。もう一回言ってくれ」
「えっと、一緒に寝転んでくれませんか?」


Oh……神は次々と俺に試練を突きつけるのが好きらしいな。ここで俺にある選択は素直に彼女の隣に寝転ぶしかないのだが、流石に俺一人では決められない。一松の方を見ると顔を限界まで赤くして、いろいろと爆発しそうな位には引き吊っている。正直無理そうだ。

お互いに硬直していると、彼女は「あ、一松さんの猫ちゃんが来てますよ!」と窓の方に興味が移り、そそくさと一松が窓を開けてやって中へと招いた。

フッ…一松のフレンドは空気が読める、俺らの救世主(メシア)だな。


「はい。こいつ真澄ちゃんと遊びたがってるから……猫じゃらしも貸してあげる」
「ふふ。そうなんですか。お借りしますね」


布団から一松が居るソファーの方に移動して、猫じゃらしでエスにゃんの相手をし始めた。

今だけは(さっさと布団を片付けるぞ)というシンパシーを感じて、互いに協力しあい布団を片付けるミッションは成功した。

何だか勿体ない気もしたが、それは追々で手順をしっかり踏めば良いことだ。


「おお!反応早いね。これはどうかな?」
「にゃ!んにゃ!」
「やりますね……では、これは?」
「にぃ!」
「……っ(おお…神よ)」
「……」


何だろうあの可愛い生き物は(2回目)。一松フレンドが彼女の魅力を引き立てていて、生き生きとしているこの光景を今すぐに写真に納めたい。


(トド松!トド松!こちらクールガイことカラ松だ!至急2階に来てくれ。繰り返す、至急来てくれ頼む!俺はこの光景を見逃さないようにするので精一杯なんだ!トッティ〜〜〜!!!!)

心の中でカラ松はトド松を呼び、一松は召されかけていた。


「……あれ二人だけ?真澄ちゃんは?」
「あ、ここです!チョロ松さん遅かったですね」
「ああ何だ。一松の猫と遊んでた……て、オイ!?一松白目向いてんぞ!」
「……チョロ松か」
「カラ松お前に至っては鼻血出てるけど!?しかも何だよ、俺が来ちゃ悪いような言い方は!」
「す、すまない。別にお前が来て悪いことはなかったんだが…」
「カラ松さん先ずは鼻血を止めましょう!ティッシュ、ティッシュを…!」


真澄が持ってきていた鞄からポケットティッシュを出して、数枚の薄いシルクベールを俺の鼻に当てる。

カラ松ガール……俺の汚い欲望が溢れてしまったそれを、そうも簡単に触れてしまうのか。


(……尊いぜ)
「カラ松?……おいお前まで召されちゃってどうしたんだ!?」
「カラ松さん!?」


good-bye……俺の人生は薔薇色だった。


(完)
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