長編

□運命の人
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俺達だけなら血にまみれた舞台となっただろう麻雀。しかし今回は違う。


「はい!座って座って!」
「真澄ちゃん、寒くないかな?何だったら僕の半纏使う?」
「大丈夫ですチョロ松さん。ストーブに近い所に座らせてくれましたし、炬燵暖かいので」
「そ、そっか……寒かったら言うんだよ」
「あー…やっぱり女の子がいるだけで空気違うわ」
「今日は真澄ちゃんに麻雀を教える事が目的なんだから、楽しくやろうね兄さん達!」


そう!真澄がいるのだ!
おそ松と話していたというのが悔しい所だが、以前から言っていた麻雀について教えるという事になり、前の訪問とは違う気楽に遊ぼう的な感じで来てくれたのだ。

炬燵の上にセッティングされた麻雀卓を見て、今は積まれていないバラバラの牌の山を不思議そうに眺めている。


「んじゃ、最初の三人は誰がやる?」
「そこはジャンケンでしょ」
「勝った人でいいか?」
「いいっすよー!」


俺はどうもこの《じゃんけん》が苦手というか…弱い。

「はい。じゃあ先ずは僕とおそ松兄さんとトド松ね」
「カラ松お前、最初に負けるとかホント勝負事弱いねぇ」


彼女から見て時計周りにチョロ松、トド松、おそ松と炬燵に入っていく。ならば待ってる間は彼女の後ろで俺が教えようと、これは天啓だったのだと自然と陣取る。
一松と十四松は……何故か俺の横に並び、一緒になって彼女の後ろに陣を置いた。

「まずはお手本を見せようよ。みんなオープンにしてさ」
「持ち牌を見せながらってやつか。いいんでない?」
「えっとね。まずは裏返したままで牌と呼ばれるコレを混ぜるんだ」


三人がじゃらじゃらと鳴らしながら牌を洗っていく(洗牌)。その様子をジーっと見つめる彼女の肩を軽く叩いて、やってごらんと指差す。頷いたあと、恐る恐る混ぜていく手が一人増えていた。

「ある程度混ぜたあと、牌の絵柄を見ないように裏返したまま自分の所に二個ずつ重ねた17列作るんだ」
「わかりました」

17列しっかり並んで、サイコロを彼女の手へと渡される。本来なら席を決めるためにもサイコロを振るのだが、そこは省略。あとは起家(チーチャ)…親を決める為に最初だけローカルルールで振るのは一回の出た目だけにして、彼女にサイコロを振ってもらう事にした。振った人を1として左回りに数えていく。

「……あ。5、ですね」
「じゃあ真澄ちゃんが親だね」

真澄の右手側の角に《東》と書かれたプレートを置き、またサイコロを振る。今度のサイコロは何処の位置から取るのかを決める為のもの。賽が投げられて、そこから4枚ずつ順々に取っていき、持ち手12枚になったら1枚ずつ取って13枚にする。柄と数字を揃えて立てるが今回はオープン。

「これは何で表にするんですか?」
「これはドラ表示牌と言ってね。これで役が作れたら点数が増えるんだよ」
「ほぅ…」
「じゃあ…ここから1枚ずつ取っていくんだけど、基本は絵柄が一緒の連続した数字か同じ数字を三枚ずつ作って、役を誰よりも早く完成させるゲームでね」
「とりあえず親からスタートだから1枚引いてみ」
「は、はい!」


彼女の現在の牌は[《萬子》三五六八《筒子》558《索子》22689・中]で、引いたのが[東]だ。

「それで真澄ちゃんが要らないない、揃う確率が低そうなものを1枚場に捨てるんだ」
「えっと、じゃあ……この丸い9個の」
「それ筒子(ピンズ)って言うんだよ!」

彼女に覚えなければならない牌の名前を教え、習ったことを辿々しく声に出しながら覚えようとする姿勢に、グッと来るものがある。
可愛い箱庭のプリンセス。君の為に俺が知る限りのものを教えよう。

「それで捨てた牌が次の人が貰いたかったら同じ柄ならポン、連続したものはチーと言ってもらうんだ」
「なるほど……チョロ松さんの説明わかりやすいので、だいぶルールが分かってきました」
「えー?僕は?」
「勿論トド松さんも分かりやすいです!」
「ほんとにー?良かった!」

……俺の出番、まだだろうか。

全部チョロ松やトド松が上手く説明してくれるから、俺の出番がなかなか来ない。しかし本当のゲームが始まれば俺の手が必要になっくるはず。焦る時ではない。

「お、ツモじゃん」
「ツモ?」
「自分が引き当てたやつで上がりなのがツモ。ツモと言って上がってね」


《萬子》三三五六七《筒子》555《索子》234678・中中で断ヤオ。親でツモだから5800点という高得点だ。

「よっし!じゃあ実際に勝負と行こうじゃねぇか!」

おそ松の声により本番がスタート。負けた人が抜けてチェンジしていく、いつものスタンスでやろうという話を承諾し、牌を混ぜる。サイコロはさっき真澄が振ったやつを適用して、山を作って始まる。


───始まったはずだった。


「……カラ松さん。この場合、どれを捨てればいいですか?」
「……え?」

彼女が親だから先に牌を1枚取る。なんの変鉄もない事だ。

「そ、それは!」
「……まま、まさか」
「天和……だと!?」
「「「は!?」」」
「え?てんほー?」

天和……それは神が授けし強運を示す采配。33万分の1しか出来ない役、親の和了の形が完成していることをいう。

「ま、まじで!?」
「信じられない…」
「真澄ちゃん、牌を見せてくれる?」
「えっと、さっきみたいに倒して見せるんですよね」

間違いなく天和だと分かった三人も愕然。四暗刻の役満48,000点?嘘だろぉ…。

「あの…」

何も言えなくなった俺達に、不安そうな顔をする彼女がいて、慌てて悪いことじゃないと伝える。むしろ神に愛されているとさえ思われる。

ただ……強運を使い果たしたということで、すぐに死んでしまうという説があるが。
冗談でも真澄に言ってみろ。冗談じゃ許されないほど、この場の空気は凍りつくだろうな。


「今のは無し…て事でいいか?」
「私はそれで構いません」
「最初が天和とかじゃ面白くないしね」


また一からやり直して彼女からスタート。ヒヤヒヤした1局だった。



────
───
──



「ツモ……です」
「……」

あれから一時間経った。東1局5本場…彼女は親から降りず、まだ勝ち続けている。アドバイスする俺の言葉を素直に吸収して、推測するようになった彼女も勿論凄いのだがツモ率が多く、フリテン等のミスもしない。おそ松がリーチを掛けても、初心者故に警戒が薄いからマイペースに揃える様はプロの領域。というか先程から好牌ばかりで、ここで運を使い果たしたらどうしようかと思うほどだ。


「……あー‼勝てない‼」
「強すぎる…!」
「ご、ごめんなさい」
「いや謝らなくても大丈夫だから。そう……大丈夫、だから」
「一回メンバーチェンジしないか?」
「そうだね」

一人ずつ抜けて行く筈が、オールチェンジ。しかし、この後も真澄の勢いは止まらず、国士無双出された時に、俺達は真っ白な灰になっていた。



「……あれだ。何か勝った時の褒美がないから俺達は勝てないんだ」
「「「褒美?」」」


休憩ついでに母さんが買ってきたケーキ(真澄が居るからだろう。ちょっとお高いケーキ)をちゃぶ台で食べていると、おそ松が突然言い出した。

褒美……確かにやる気になるかもしれないが、ものによっては現状は変えられないだろう。しかも彼女の実力なんだから「褒美がないから勝てない」とかじゃない。

それでも躍起になってきたおそ松に、止める声よりも溜め息の方がでてしまう面々。


「真澄ちゃ〜ん!俺が勝ったらハグしてくんなーい?」
「「「はあ!?」」」
「いいですよ」
「「「えぇええ!?」」」

マジで?まじか?と、みんなの目には欲望が渦巻く。俺は違うぞ…真澄を守る為のナイトである俺が、必ず勝って魔の手から救うんだ!決して邪な感情など…など………多少はあるかもしれないが、勝つのはオレだ!

やけにあっさりとハグすると答えたのは、あの父親にしてこの子あり。武史さんのスキンシップのせいだろう。


そして、俺達は勝っても負けても一人ずつ交代していくというルールのもと、またジャンケンして…結局は俺が一番最初に負ける。

くっ…勝利のVサインを作るこの手が憎い。


第1回東風戦は一松、十四松、チョロ松。最初の親は十四松で始まったが、テンパイしてツモって最後には彼女が勝った。

第2回東風戦は十四松とおそ松が交代し、案の定おそ松は点数が無くなって飛び、堅実に打っていた彼女がまたもや一位。

第3回東風戦は飛んだおそ松が交代してトド松。一松の捨て牌で彼女がロンして終わった。いつもなら卓を返してキレる一松も、申し訳なさそうな顔をする真澄には「仕方ないよ。これが勝負だからね」と優しい。卓がえしの一松は返上か?

そして、やっと第4回東風戦。待たせたなカラ松ガールズ。俺の出番だぜ!

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