長編

□松ピクミン
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この春、大学生になり一人暮らしのアパートに引っ越して来て早くも1ヶ月になった。高校の時からお世話になっているカフェでバイトして、給料が出た今日。始めたばかりの一人暮らし故の殺風景な部屋に、雑貨を増やそうと町に出た。

実家からそんなに離れていない隣町。だから地理に問題はなく、すいすいと人の波を掻き分けて良いものはないかと辺りの店を覗き込む。
だけどパッとしない……。面白そうな目を癒してくれそうな物なんてなくて、趣味はスポーツばっかりだから女らしい趣味というのを持ち合わせていない私にとって難題だった。
そんな私が何で買い物に出掛けたのか?
別に殺風景でも気にしないつもりだった。だけど親から初めて離れて暮らす一人暮らしは堪えた。
私は寂しくなったのだ。そんな私を癒してくれる丁度いいアイテムが欲しい……そう思って人形とか見てたのだが、あまり成果はなかった。

「ホエホエ……困ったダス」

中年のおじさんが途方に暮れたようにベンチに座っているのを見つける。デカいパンツに白衣というなんとも怪しい格好。これは警察を呼ぶかと携帯に手を伸ばしかけたが、もしかしたら深い事情があり、ホームレスならばそれは可哀想な事だと止めた。
じゃあ今私がする事は何か? 一つは見なかった事にして癒しアイテムを探しに行くこと。二つ目はおじさんの話を聞いてみること。普通なら一つ目が正解。だけど癒しアイテムなんて今の今まで見つけられなかったわけだし、ここは二つ目の話を聞く選択も悪くはなかった。

「何か困ってるんですか?」
「ホエ? チミは……誰ダス?」
「姉崎です。大学に通ってます。おじさん、何か困ってるんですか?ため息ばっかり吐いてましたよ」
「実はダスなぁ……そうダス!チミ、植物を育てて見ないダスか?」
「植物?」

そう言って自身のパンツの中に手を突っ込み(この時点で変態とか逃げなかった私はすごい)そこから出された透明な袋には6粒のカラフルな種?が入っていた。
あと臭いッ!近づけないで欲しい!

「ワスはデカパン。一応科学者としてその界隈じゃ有名なんダスよ。それでこの種なんダスが、ある実験で出来たがこれを育てられる最適な人が見つからなくて……そこでチミに任せたいんダス」
「……私が最適な人に当てはまると?」
「若い女の子にしか育てられない植物何ダス。さっきから声を掛けても誰一人女の子が足を止めてくれず、もうどうしようかと……」

そりゃそうだ。私だって一瞬警察に通報しようと思ったのだ。よく逮捕されなかったなと感心すら覚える。
さて、この自称科学者は謎の種を育てて欲しいと言った。胡散臭い話しではあるが、私の町に出た目的である癒しアイテムになるかもしれないと思うと、ちょっとだけ育ててみたいという気になる。
その好奇心に育て方を聞いてみると、普通に土に植えて適度な光と水をやるだけ。何故若い女の子じゃないとダメなのか聞いたら、毎日その植物に話し掛けてあげる事で成長速度が増すのだとデータが出ているらしい。逆に男が話し掛けたら種の状態に戻り、今まで花を咲かせる事が出来なかったらしい。

「……面白そう」
「絵日記とか気付いた事とか書いてワスに渡してくれるなら給料を出す。出来れば一粒ずつ育てて欲しいダスな」
「お金出るんですか!? やります!」

お金も出て寂しさを紛らわしてくれる物も手に入って、相手は研究データが手に入る。お互いWinーWinの関係だ。
デカパン博士の研究所の場所を教えて貰い、私はハンカチで種が入った袋を包み(直接触るのには抵抗があった)ホームセンターで菜園に必要なプランターと肥料の入った土を買って軽い足取りで1DKの私が住むアパートに帰ってきた。

「こうして植物育てるの、小学校以来かも」

さっそくプランターに土を詰め、カラフルな6色を見て何が育つのかとワクワクする。赤、青、緑、紫、黄、ピンク……一つずつ育てて欲しいと言った彼の言葉を思い出して、どの色から始めようかと悩む。

「……緑、かな」

緑は安全な気がする。見た目的に。この色が何を示すのか分からないし、危険はないとは思うけど最初は目にも優しいこの色から育てよう。
そうと決まったら指で軽く土に穴を開け、そこに緑の種を埋めた。水をやり、日当たりの良いダイニングの窓枠に置いた。話し掛けてあげなさいという事で、何を話そうかなと思いつつリモコンを操作してテレビをつける。夕方のこの時間はニュースと子供向け教育番組と料理くらい。バラエティーやってないからニュースを見ていると、地下アイドルの特集がやっており、五人組の迷彩をモチーフにしたアイドルや超巨乳ユニット、美脚を売りにした女の子達など出ている。

「……あ、橋本にゃーだ」

ピンクの髪に緑のメッシュで制服っぽい衣装に猫耳猫尻尾着用の上に語尾に「〜にゃ」が付くアイドル。

「橋本にゃー可愛いよね。友達はぶりっ子の典型的パターンで好きになれないとか言ってたけど、やっぱり可愛い」

顔もアイドルなだけあって可愛いし、「にゃんにゃん♪」てポーズ決めながらキャラに徹するその心に敬服する。私には出来ない芸当だ。本人に会えたらマジ尊敬してますって言いたいもん。私がやってもスベって恥ずか死ぬだけだ。

橋本にゃーについて独り言を溢していた私だったが、橋本にゃーより気になっていたプランターに目をやる。

──────何か発芽していた。

「うぇええええ!? もう!? もう発芽!?」

ピコピコと心なしか動いている双葉を凝視し、つんつんと手で葉の表面を突いてみる。

ピク、ピクピクッ……

「う、動いてる……よね」

見た目は普通の双葉。普通の植物だ。だけども触る又は話し掛けると反応があり、ただの植物ではない事を示している。

「……名前、つけようかな」

愛着が湧いた瞬間である。あの変な科学者は面白いものを作ったものだ。それに反応がある双葉は可愛し、みていて癒されるものがあった。

「千草はどうかな?」

ピコピコと動くが、喜んでるのか嫌がってるのかイマイチ分からない。でも悪くはないと思うんだ。

「よろしくね。千草」

またピコピコと動く可愛い植物に、私は今後の大学生活が楽しくなりそうだと笑った。



《千草の観察日記1》

最初は緑の種を植えました。
名前は千草と命名。1日目にして早くも発芽しました。見た目は普通の植物で、話し掛けると成長が早いというのは本当らしい。このままいけば1週間後には花が咲いていそうです。
それから話し掛けると反応がある。上下にピコピコと動きました。

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