長編

□彼女は勇者様!(序章)
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まあ、そこのソファにでも座って。少々長くなる。
そうだな……私がこの集落に来たのは1ヶ月前の事だ。

この集落に、私の叔父がいるという祖母の話で来てみたのが始まりだ。
両親は幼い頃に魔物に殺され、唯一の身寄りだった祖母が昨年他界してから、ふと叔父だという人の存在を思い出して此方に足を運んだ。

最初は見事な景観に私も感動したよ。しかし、それにそぐわない瘴気が混じっていた。この集落に何が起きてるのか、この村の人に聞こうにも怯えて話してくれない。ただ、私の叔父の名を告げると、一人の老婆が一言「死んだ」と教えてくれた。

原因は何か?

村人の反応からこっそり自警団の様子を窺った。すると、自警団の奴らは魔物と戦う術がない人達を奴隷の如く働かせ、出来た作物を食い荒らし、搾取し……若い女は言いたくないほどの仕打ちを受けていた。そして、自警団に混じって盗賊団の連中もいたのを確認して、私は納得したよ。この瘴気の正体と村人の怯えに。

私はつい頭に来てしまい、自警団共々盗賊と一緒に追い払ってやった。まあ、悪い奴らを追い払った私は一応この集落の英雄って訳だ。

しかし問題があった。魔物から身を守る術を持たない集落の人々を、どうすれば守る事が出来るのか。私がずっと残って戦うにも体力面から考えて無理がある。早急に結界を作る必要があったが、この集落一帯を囲う結界にも時間がどうしても必要だった。

そうして一週間過ぎた時に、一松達が来たんだ。

一松達がこの集落に来た訳は、盗賊団の拠点がここにあるという噂を聞いてだった。この集落に来れたのだから、魔物と戦える人だと判断した私は経緯を話し、二人に協力を仰いだ。十四松はすぐに良い返事をくれて、一松も少しの間ならと了承し、私は結界を作る事に専念した。

え?この結界は高度な魔法で出来ているって?この魔法は魔術式でね。魔方陣と一部の魔物から取れる結晶石を媒体に作ったもので、決して難しいものじゃあないよ。まあ材料が手に入り難いものではある。あとは時間がかかるな……どうしても魔力を込めるのに一週間は掛かってしまう。

その一週間、一松達はこの集落を守ってみせた。最初は警戒していた村人も一松達に心を開き、友好な関係を築けたようだ。私も一松と十四松と仲良くなれた。結界が安定したあとも、もう少しだけ残ると言って集落の復興や魔物狩りを手伝ってくれたんだ。

でも、そろそろ首都のマツーノに戻ってこの事を報告すると、二人とのお別れが来た。そして、私からの友情の証に魔石を加工したブローチを送り、そして村人達と盛大に見送ったんだ。


……しかし二人が旅立って2日後に、私が渡した魔石の対であったモノが壊れた。
地図を開き、割れた場所を探知すると、首都とは反対の渓谷近くでだったんだ。何故そんなところに行ったのかは分からないが、私は武装し、少しの間留守にすると言ってそこに向かった。

魔力感知はあるが少し程度ばかりあるだけなので、結界を出てしまえばあとは勘のみ。渓谷に近づくほど魔物が強くなっていたが途中、見つけてしまったんだ。私が追い払った盗賊団と自警団だった者の骸が。魔物に殺られた傷が殆んどだが、致命傷にはならない人がやった痕も見つけた。

もしや一松達はこの盗賊団を見つけて戦闘になったのでは?そこに魔物が乱入し、このような結果を招いたとしたら…。

魔石が砕けた場所を見つけると、そこは一層魔物の傷跡が酷かった。木は抉れ、大地は削られ、どんな大型の魔物が居たんだと焦りを募らせた。

魔石の近くに血が落ちており、それを頼りに辿っていけば木の根に誰かが掘り起こし、隠すように葉で覆われた場所を見つけた。弱っていたが二人の魔力を感知し、そこに潜った。

「一松、十四松!」
「……あー。真澄の匂いがする〜…」
「天国からお迎えが……来たんだ」
「いや来てないから。まだ君たち生きてるから。とりあえず死ぬな」

見つけた私は治癒魔法を掛けて、外傷は何とかしたんだが……ちょっと厄介な事になってね。一松達が出会った魔物は毒を持っていたらしく、しかも魔瘴能力持ちで魔力を作れなくしてたんだ。魔力が枯渇しても人は死ぬ。

解毒剤を投与し、成人男性二人を引きずって魔物から逃げるのも、治癒魔法を随時掛けるのも、この集落に着くまでそれは大変だったよ。私もうっかり死ぬかと思った。

で、何とか着いて魔瘴を解除するため治癒魔法の一種を掛けてるとこなんだけど……

「質問はあるかな?」
「「お前が勇者か」」
「勇者?まさか。私が勇者なわけ無いだろう」

一通り聞いた話を総合して、二人は思ったのだ。この人が勇者だと。例え勇者じゃなくても、余程の実力を兼ね備えた人だ。魔王の討伐に協力してくれるならこれ程心強いものはないと思った。


「真澄様。お茶をお持ちしました」
「ん。ありがとう」


スッと風の魔法を使ってドアノブを下げて扉を開けてあげた真澄に、二人は目を丸くした。治癒魔法を使いながら風魔法を器用に使うなんて、かなりの修行が必要だ。

シスターが入って来て、二人の前に香りのよいハーブティーを出した。この集落名産のものだと真澄は笑い、美味しいぞと勧めた。その言葉に促されて二人は口を付けた。

「ん!美味しい!苦味が少なくて……ほのかに甘い」
「気に入っていただけて光栄だよ。良かったらエミリー特製のクッキーも食べてみな。この子の料理は何でも美味しい」
「エミリーって……シスターのこと?」
「はい。私の名はエミリーと申します。名を告げるのが遅くなり申し訳ありません」
「おお!これも美味いぞ!」
「ありがとうございます」

粗方の経緯を把握した二人はティータイムを楽しんだあと、気になっていたことを少しずつ聞いた。

「一松兄さん達はいつ起きるの?」
「そうだな……十四松の方が軽度で済んでいるから今日の夜にも目覚めるだろう。一松は少し時間が掛かるな」
「そうか…。真澄、弟達を救ってくれて本当に感謝している。ありがとう」
「一松達に恩があるのは私の方も同じだ。お互い様ってやつだな」
「真澄って何でこんなに高等技術がいる治癒魔法使えてんの?普通、治癒魔法って外傷やマヒ、解毒は出来るけど、魔瘴を癒す人なんて限られているんだよ」
「それは私の家系にあるな。祖母が治癒魔術師だったんだ。昔は王宮に仕えていたほどの実力の持ち主だったらしい」
「なるほど!」
「じゃあ、剣は誰が教えてくれたんだ?」
「地元の自警団の人達だ。いつも大人達に混ざって稽古してもらっていた。あとは魔物を狩っている内に自然とな」
「へぇー……あ、その仮面は?」
「これは祖母からの贈り物だ。目や鼻は急所になる。それを保護するために付けなさいとくれたものだ」

スラスラと答えてくれる真澄に、彼等は目配せをして1番聞きたいことを聞いてみた。

「……あー……その、真澄は女なのか?」
「…さあ?どっちだろうね」

初めて曖昧に返されて、二人は困惑した。もしかして男なのに女扱いされて怒ったのでは?という不安も出てくる。


「……そんなあからさまに不安がるな。冗談だよ。私は一応女だ」
「もう!ビックリさせないでよね。……て、一応ってなに?」
「うーん……私は性別への概念が薄くてな。男も女もないって感じだな。身体は一応女だが、戦いにおいては男みたいなもんだし、仮面と貧相な身体のせいで中性的だろう?」


そう言うと、二人の目は明らかに胸にいった。革で作られた鎧に覆われた胸は確かに貧相に見えるが、鎧のせいで正確には分からない。でも、確かに中性的ではあることがわかった。

「「……」」
「さて、君達の質問は終わりかな?」
「え!?あ、えっと……うん。とりあえずは」
(ハッ!仮にも女性の胸をマジマジ見るとは……騎士の風上にもおけないぞ!)
「じゃあ、私から質問いいだろうか?」

彼女の言葉に二人は頷いた。彼女は治癒魔法を一旦止めて、休憩だと言い二人の向かい側の一人用ソファに座ってエミリーに注いでもらったカップをもらい、一口飲んだ。

女性なんだと思うと、何だか仕草も女らしさが出ており、尚且つ良いところのお嬢様のような上品さも感じられた。


「今度は君達の話を聞こうか」

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