長編

□彼女は勇者様!(序章)
5ページ/9ページ




バターンッ!!!!


「いい匂いすんね!」
「「十四松(兄さん)!!!?」」


食事を一通り終えた頃に、真澄の予測通りに十四松は起きてきた。しかし十四松が担ぎ上げているものを見て、また違った奇声をあげた。

「イチマァーーツ!?」
「ちょ、一松兄さん降ろしてあげて!」
「十四松。身体の調子はどうだ」
「治っタイムリー!迷惑おかけしましグンナイ!からの…ボゥエ!!」
「そうか。元気そうで良かった。とりあえず一松を下ろしなさい」
「アイ!!」
「うっ!?」
「「ああぁああああ!!?」」
「うん。私の言い方が悪かったな」

担ぎ上げていた一松はそのまま手を離した十四松によって、かなりの高さから落下。うめき声を上げて予定よりも早いお目覚めとなった。

「イッテェ……何?身体怠いし背中痛い」
「おお一松!起きたのか!」
「……あーヤバい。クソ松の幻覚が見える。おれ死んだのかな…」
「ノンノンいちまぁ〜つ?俺は幻でも夢でもないぜ?」
「一松兄さんおはよう!」
「背中イッタそう…」
「一松痛かったね。いま治癒魔法かけるよ」
「あ…真澄、十四松、トド松。……て事は生きてるのか」
「え………俺は?」


落下した一松の背中に手を当てたあと、光が優しく包み込む。背中の痛みが収まったのを確認した彼女は、一松の背中と膝に手を差し入れ軽々と姫抱きにした。姫抱きにされた本人は女にされているのと、皆に見られているという羞恥にかられて顔を真っ赤にするが、思うようにいかない身体に大人しくしたままソファまで連れて行かれ、優しく下ろされた事によりもう好きにして!という心境だ。周りもカッコいい…という目で彼女を見ていた。


「一松。意識はハッキリしているね?」
「(ハッキリしてるから恥ずかしいんだよ!)………ん。」
「十四松の方は無事に魔瘴が解けたんだが、お前はまだなんだ。明日の昼頃まで少し辛いと思う」
「…ねえ。真澄また寝てないんじゃない?」
「徹夜には慣れている。私の自己満足だから、お前が気にすることはないよ」
「…うん(スパダリ過ぎてもう俺死んでもいいんじゃないかな。なんなんだよコイツ。お人好しで馬鹿なんじゃないかな、もう好き!)」


スーパーダーリン。略してスパダリ。彼女は最早、どの男よりも男前で格好良かった。
しかし、目覚めてしまうとお腹が空くもので、一松が眠るには何かお腹に入れなければなかった。十四松の方はエミリーが空気を読んで用意が出来ているため、すでに食べはじめて「うんめー!」と叫んでいる。

「食べれるか?」
「あー…お粥とか、果物辺りなら」
「ならモモをお持ち致しますわ」
「頼んだ」
「一松兄さん食べれないの!?」
「うるさい十四松…頭に響く」
「ほら十四松兄さん。落ち着いて食べて…米飛んでるから」
「一松、俺が食べさせてやろう。一人で食べるのはキツイだろ?」
「必要ないから。その代わり死んで」
「え、」


その夜は随分と賑やかなものとなった。
嫌がる一松に兄の愛情だと体が言うことを効かないことをいいことに、カラ松がフォークでモモを(突っ込んで)食べさせ、十四松はトド松といままでの旅の話を体で表現し、それを眺めながらエミリーと真澄は親のような気持ちで見守っていた。後に一松が泣きはじめ、火事場の馬鹿力でカラ松の額にフォークを刺す事件に発展し、また大きな騒ぎとなった。


「一松…泣かないでくれ」
「グスッ…泣いてない」
「カラ松兄さんもやり過ぎだよ」
「うぅ、すまない一松。調子に乗りすぎて、お前の食べるペースを考えてなかった」
「そこじゃねぇよバカ!」
「ほら一松。どうしたら機嫌を直すんだ」
「………………あ、…う……えっと…………………真澄が、食わせてくれるなら………機嫌直る…と、思う」
「そんなんでいいのか?」
「べ、別に嫌だったらいいし。こんな魔瘴でヘバっちまうようなゴミクズを相手にしなくても…ン!?」
「悪いことを言う口は塞いでしまおうね」
(カラ松兄さんが言ったらイタく感じるのに、なんで相手が違うだけでこんなにも胸をトキメかせられるんだろう)
(カッコいい!!今の言葉とやり方が最高にCOOLだ!)
(一松兄さんいいなー…僕もモモ食べたい)
(…一松様が羨ましい。そして憎いですわ)

モゴモゴと口の中の果実を消化した一松は、食べさせた人物を見て、その口元が一文字になっていることに気づき少し怒っているんだなと思った。

シュンとしてしまった一松に彼女は軽く頭を撫でて、次第に髪をグシャグシャにしてやった。やられた本人は言葉も出せず、呆けている。


「自分を卑下するのは簡単だ。だけどそれで悲しむ人もいるんだよ。わかるか?」
「……真澄は悲しかったの」
「そりゃあ大事な友人があんなこと言ったら悲しいさ。私は一松が好きだからね」
「〜…っ恥ずかしいこというなよ!」
「一松は照れ屋だな」


もう一個食べるか?という彼女に頷き、差し出された果実を口に運んだ。甘い匂いと甘い空気に触発されたカラ松達は自分も食べたいと言い、しかしエミリーが迅速に用意した事によりあっけなく目論見は終わった。ただ、十四松だけが隙を見て、一松がかぶり付く前に奪った為アーン成功。怒った一松は動くことが出来ずやはり歯噛みするだけであった。



そんなこんながあり、新しく来た客人に部屋を与えてそれぞれ就寝となった。真澄は一松の治癒があるため今日も椅子に腰掛けてかけ続ける。最初は冴えていた一松も、魔瘴のせいで体力を奪われすぐに寝ついてしまった。残る事といえば…


「ねぇねぇ真澄!僕眠くない!」
「あれだけ寝ればね。当然だよ」


十四松だ。たっぷり睡眠を取って、元気満点の十四松はなかなか眠れないのだった。


「十四松…聞きたいことがある」
「なぁにー?」
「お前達がここを出立したあと、何があった」
「…んー…あれかー。僕と一松兄さんがちょっと歩いた時に、すっげー嫌な匂いがしてそれ辿ったら、僕らが探してた盗賊団がいてからの真澄にリベンジ!て事でおきゅう?を据える為に戦ったんだ!そしたら魔物の団体様が襲ってきて、僕達逃げたんだよ。でも、間違って渓谷のある方向に逃げちゃって…そこでデッケェわんこと会って戦闘になってたら、一撃必殺みたいなのをブローチが光って防いでくれたけど、わんこ強くてもらったブローチ壊しちゃった。ごめんなさい」
「謝ることはない。元から守るための道具で、壊れた事でお前達の場所を特定できた」
「うん!ありがとうございマッスル!そんでね、ブローチ壊れたあと逃げようて事になったんだけど、ぼく油断しちゃって…一松兄さんが庇ってくれたんだぁ。僕もちょっと怪我しちゃったから、たぶん魔瘴のせいで上手く力入らなくて、なんとか撒いて木の根本掘って隠れたの。手当てして、しばらくは一松兄さんが血の匂いを消すために闇魔法使ってたんだけど、途中で思うように出来なくなった。2日間はなんとか食事出来てたんだけど、もうダメだぁーー!て、時に真澄が来た!」
「…よく2日間頑張ってくれたね。やはり十四松達は強いな」
「そう!?」
「うん。生きていてありがとう」
「わはーー…!!!!」

十四松の頭を撫でてやり、よく頑張ったと花丸な良い子に棒つきキャンディーをやる。すると舐めるのではなく、ガリガリと砕いて食べてしまうので毎度ながら歯が丈夫だなと不思議と見いってしまうのであった。


「真澄はこれからどうすんのー?トド松から魔王退治に行くんだよって言われた!!」
「その事なんだが…また明日に長と話してくる。やはり良い返事はもらえなくてね」
「そっか〜…真澄と旅が出来たら楽しいと思ったんだけどな」
「一松と十四松、カラ松とトド松の5人旅か……確かに面白そうだね」
「トド松は外交官のお仕事で忙しいから魔王退治には行けないって!それ聞いてガッカリー…からのマッスルマッスル!ハッスルハッスル!」
「なら四人旅か。それでも賑やかになりそうだね」
「……僕、真澄が行くって言うなら喜んで一緒に行くよ?ここに残るって言うなら、僕も残ってしばらくは真澄の手伝いする」


トド松が危惧した通りに、十四松は恩を感じて真澄の側に居ることを望んだ。そんな十四松を、彼女は額目掛けて強烈なデコピンをくらわせた。

うおぉぉー!とベッドでゴロゴロとのたうち回る十四松。何で!?と少し涙目だ。


「十四松。お前は強い」
「うん、さっき聞いた!」
「確かにここに残って手伝ってくれるなら、それは此方としても有り難い」
「だよね!?」
「だが私は必要に迫られてここに居る。お前の強さは…戦えない人達の為にあるんじゃないか?」
「…」
「その力を私に恩を返す為というのは一見良く聴こえるが、今でも苦しんでいる人達を思うと、とてもじゃないが頷き難い」
「……うん」
「だが魔王討伐に私も参加出来たのなら、仲間として私を歓迎してくれないか?」
「!。うん!絶対に守りまっする!」
「はは!…頼もしいな」


そうして夜も更けていき、十四松も何だかんだ言って寝てしまった。寝顔が何処か幼い一松と十四松を見て癒され、友人には失礼だが可愛いなと思ってしまった真澄。

月が沈み、代わりに空が白んでくる。


───朝が来た



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ