長編

□彼女は勇者様!(序章)
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一時間後。カラ松と一松の二日酔いが良くなり、十四松も起きたことで城下の町で旅に使う買い物となった。王都ということもあり、珍しいものを取り寄せているのではと内心ワクワクしている彼女の機嫌はいい。

一緒に行くという王はコンディション最悪の宰相に掴まり、現在は執務室に缶詰めにされているだろう。



「あれがこの町一番の薬草や薬を売っているところだ!」


カラ松の案内により、四人は町一番の薬売り【アカツカ薬】前に来ていた。店自体大きく、中に入ればある魔物から取れる皮や角、見たことのない薬草が瓶に入って置かれている。種類も相当なものだ。

珍しいものも多く、店員にどんな効果があるのか聞きながら欲しいかどうかを決めていく。


「すまない。この虎杖根というのは…」
「そちらはドクダミと合わせて作る傷薬に使われるものです。それから薬草の中でも上級薬草の弟切草も取り揃えておりますよ」
「おお!弟切草もあるのか。じゃあ、弟切草を2束と…イタドリもあるか?」
「ございますよ」
「ならイタドリの葉と実も欲しい」
「かしこまりました」
「真澄は薬も作れるのか」
「祖母に教わった。生きていく為に必要なものは全て祖母から教えられている」

「一松兄さん!これスッゲー臭い!」
「ちょ、近づけないで…くさっ!?」
「でしょー?」


展示してある瓶の蓋を開けては臭いを嗅ぐ十四松に巻き込まれた一松。二日酔いが抜けたばかりなのに、薬草の臭いでまた顔色が悪くなっているように思える。

当初欲しかったものが手に入り、それらを麻袋に入れて店を出た。


「十四松…」
「ごめんね。兄さん…」
「一松の顔色が悪いし、昼も近いから何処かで休もうか」
「それがいいね」
「ウィンドを感じ、サンシャインを浴びながら外で至福の時を過ごさないか!いい場所を知っているぞ!」
「ふぐっ…!」
「あれ?一松兄さんの顔色がまた悪くなった」
「カラ松。至急そこに案内してくれ」


カラ松の痛さに追撃されて一松はまた具合悪そうに口を押さえた。
案内された場所は洋風の町並みから外れ、緩やかな川が流れる上を通る橋を渡ると、植えられた花達が美しい場所についた。

「綺麗なところだな」
「気に入ったか?」
「うん。ここは落ち着くな……人が少なくて静かだ」
「そうか!俺もここには心を鎮めにくるんだが、気に入ってくれたなら嬉しい」
「ケッ…よく言うよな。本当は逆ナン待ちの癖に」
「え?」
「い、一松!?そそんなわけないだろう!」
「え?でもカラ松兄さんは『まだ見ぬカラ松ガールと出会うなら、此処が一番感動的なシーンになるな!』て言ってたよね!」
「……そうなのか」
「へぇ!?いや…その………ごめんなさい」


非番の時は橋から川を見つめながらサングラス装着して女を待っている。それを一松と十四松から聞かされた真澄は、カラ松へ何の感情かも分からない仮面越しから視線を浴びせた。

今は違うんだ!という彼の主張に、彼女はため息を吐いて一言わかったと返した。


「場所は分かったし、何か買ってこよう。ちょうどあそこに出店が見えるからな。一松はそこのベンチにでも座ってなさい」
「歩いてたら気分良くなったし、俺も行くよ」
「(挽回のチャンス!)ここは俺が買ってこよう!ブラザーと真澄はここで待っててくれ!」
「一人じゃ大変─」
「いーよ真澄。クソ松にやらせておこうよ」
「カラ松兄さん!僕ね、たこ焼き食べたい!あとフランクフルトと焼きとうもろこしと焼きそばとうどんと牛丼とわたあめとアイス…」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!早すぎて覚えられない!」
「というか十四松、頼みすぎだ。三つくらいにしなさい」
「じゃあ、たこ焼きと牛丼と…あ!飲み物も欲しい!オレンジジュースがいいな」
「一松は?」
「ん……あれ」
「えーと……手羽先?」
「ん。あと米食べたいからオニギリで中身はツナ。それからブドウジュース」
「真澄は何がいい?」
「そうだな………やはり私も行こう。王都に来るのは初めてだし、いろんなものを見て回りたい…というのは建前で、食べたいものが思いつかないんだ」
「えっ…じゃあ俺も」
「一松達はベンチを確保しておいてくれ」
「(ということは!真澄と一時的に二人きり!)行こうか真澄!」
「あ、カラ松はこれをよろしくね」


彼女から手渡されたのは1枚の紙。カラ松は何だろうと受け取ったそこには、先ほど一松達の要望が書かれたメモであった。
ありがとう?と返せば、手分けして買おうと言われ、カラ松の淡い期待が消し飛んだ。その流れを見ていた一松は耐えきれず爆笑。十四松はドンマイとカラ松の肩を叩いた。

カラ松の食べたいものは肉。唐揚げと牛丼、飲み物は麦茶だ。それじゃあ一松の分は真澄が、十四松の分はカラ松が買うという事により決定され、それぞれの出店へと向かったのであった。


「手羽先10個」
「あいよー!おや?仮面の兄ちゃん随分細っこいねー。もっと食べなよ」
「食べても太らない体質なんだ。いくらだ?」
「100Gだよ」


袋から松の紋様が入った銀貨を1枚渡す。ここの通貨は銅貸が1G、銅板が10G、銀貨100G、銀板1000G、金貨1万Gの価値を持っている。一時期紙幣にしようかという話を聞いたが、それは魔法が得意なものなら複製が出来てしまうということでその話はなくなったらしい。安心なのはそういった生成出来ないもののほうなのだ。

確かにちょうど頂きました!という手羽先のおじさんにパックに入った手羽先をもらう。さて次はオニギリかと二軒先にある場所に移動しようとしたが、気になる店を発見した。


「おいらのおでんは世界一うめーぞ!」
「おでん?」
「お、いらっしゃい!おでん食ったことねーのか?」
「初めてみる…王都では定番なのか?」
「今じゃあ定番だが、何せこの俺が流行らしたからな。お前ここの生まれじゃねぇーのか?」
「南にあるカルナ村の者だ」
「成る程な。よく遠い所から来たなおめぇ。よし!1つのサービスするから食べてみろ!」
「いいのか?」


店主に渡された皿には黄金の汁で煮詰めた大根。箸で小さくカットして、おそるおそる口に運んぶと、大根の優しい甘味と出汁の効いた旨味が身体に優しく溶け込む。


「お、美味しい!」
「だろ〜?」
「身体中に旨さが広がっていって…ん。何個でも食べたくなる旨さだ!」
「褒めすぎだバーロー!よし、もう一個オマケしてやるよ」
「それは悪いよ。お金は払うからオススメのもの5個ほど包んでくれないか?」
「遠慮すんなって!」


気前のいい店主の名前はチビ太という。すっかりチビ太のおでんにハマった真澄はまた王都に来たら食べたいといい、1つオマケが入ったカップを受け取る。申し訳ない思いを持ちつつ、素直にありがとうと言って5個分の料金を払った。

そのあと一松のツナオニギリを2個買い、ブドウジュースと緑茶を購入して戻った。少々チビ太と話込んでしまったからか、カラ松の方が先に居たのが見え、少しだけ歩く速度を早める。


「ごめん。遅くなった」
「大丈夫だよ。クソ松もさっき買い終わったばかりだし。それよりソレ、頂戴」
「ああ」
「おでんの匂いがする!おでん屋さんもあったんだ」
「やはり此処では定番なのか…先ほどそこの店主に味見させてもらったんだが、あまりにも美味しくてね。つい買ってしまった」
「何という店なんだ」
「確か……ハイブリッドおでん、と書かれていた」
「チビ太の店だ!今日はこっちの方に来てたんだね」
「チビ太は俺達の幼馴染みたいな者だ。昔からおでんの研究しては俺達が味見してやったものさ」
「たまに暗黒界とも言えるものを作ってた時は必死に逃げたよね。嫌いじゃないけど、食べるとなったら旨い方がいい」
「そんな繋がりがあるとは…しかし、こんなに美味しいものがあるとは驚いたよ。エミリーの料理も美味しいけど、これも絶品だ」
「チビ太のおでんは僕らも保証するよ〜」
「まあ旨いよな。頭のネジがぶっ飛ばなければ」


四人座っても少し余裕のある長いベンチは食べるのに不自由がない。一松と十四松はその真ん中に座っていたので自然と十四松の方にカラ松が、一松の方に真澄が座る……と思われたが、一松が端に避けたことにより彼女は数字松に挟まれる形となった。

それぞれ買ってきたものを開けて食べ始める。

「一松兄さん!たこ焼き一個あげるから手羽先下さいな!」
「仕方あらへんなー」


お互いの空いてる蓋に交換したものを置いた。目の前でそのやり取りをしていたので、つい彼女はじっと見ていた。

「真澄もたこ焼きあげる」
「いいのか?」
「卵半分でどう!?」
「それが狙いか。いいよ」
「じゃあ、はい!」


爪楊枝に刺さったたこ焼きを口まで三センチの所まで突きつけられる。そのまま食べていいのか?というアイコンタクトを交わし、満面の笑みが返ってきたのでパクりと一口でいった。
少々熱かったが猫舌ではないようで、モゴモゴと口を動かして美味しいと口許に微笑みを浮かべた。
お返しとばかりに卵を器用に半分に割り、十四松の方に向ければ勢いよくかぶりついた。うんまー!と満足そうに笑う十四松にまた癒される。

(天使が!天使が二人もおるでぇ…!)
(ここが楽園だったのか!)

ただし、コレで終わらないのが二人だ。

「真澄…おにぎり一口あげるから、がんも一口欲しい」
「いいよ。ほら」
「ん……あざーす。……はい。このまま食べて」
「本当に口つけていいのか?何なら箸で…」
「いいから!俺にそんな気遣いいらないから!(むしろ間接キスになるで是非ともそのまま食べて下さい!)」
「わ、わかった……っ。んっ…ツナおにぎりも美味しいな」
(よっしゃぁあああ!目的達成したぞ、頑張ったよオレ!)
「な、なあ……俺とも何か交換しないか?」
「え、はんぺんしか残ってないけど。それも半分だけど、いいの?」
「勿論だとも!君からもらえる物なら全てスペシャルに早変わりさ」
「……そうか。じゃあどうぞ」
「……何故カップごと渡す?」
「だって、はんぺんしか入ってないし」
「この流れは食べさせてくれるんじゃないのか?」
「汁が垂れてしまうだろう?遠いから十四松に掛かったら可哀想だ」
「……」
「あー……真澄。逆にカラ松兄さんが可哀想ッス」
「(……そうだよな。仲間外れはいけないな)カラ松。唐揚げ2個残ってるか」
「あるが…」
「じゃあ此処に置いて」


おでんの蓋を差し出して、唐揚げを2個寄越せと示唆する。戸惑いつつも、カラ松は2個置いた。彼女はその内の1つを箸で持ち上げ、十四松の前に少し乗り出してカラ松へと向けた。
最初は意味がわからなかったが、早く食べろという言葉に背を押され、慌ててかぶりつく。

「これで文句ないだろう?」

ようやく意味が理解できて、いま口の中にある唐揚げが最高に美味であると身体が歓喜した。
デリシャスだ!と言うと、彼女は自分も唐揚げを食べて確かに美味しいなと言った。意味が少し違うが満足し、四人は仲良くベンチでご飯を食べたのだった。



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