記念リクエスト

□愛のささやきゲーム
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あの一件から早くも2ヶ月。彼女の想い人は誰かと何気なく探りを入れたり、少しだけアピールしたりなど試みた彼らだったが……


「全っ然!わからねぇよ!」

おそ松が叫び、他の松も賛同するように頷いた。結局誰もが真澄の想い人が分からず、悶々とした日々を過ごしていた。

「……これって、トド松の勘違いじゃないの?」
「一松の言う通り、もう此処まで変化がなければ勘違いの可能性が高い」
「えー僕のせい?でもあの時、真澄の言い方からして間違えるはずないと思うんだけど」

あーだこーだ言ってても仕方ない。
よし!と言ってトド松はまた何処からかホワイトボードを引っ張り出して、兄達を横一列に座らせる。

「ならばゲーム続行だ。題して『あの子の本命見つけよう作戦!』」
「「おおお〜〜〜!!」」

トド松は前回のように彼等に意見を求める事なく、元から作戦を立てていたのかテキパキとゲームの内容を説明する。

「愛してるゲームの別バージョン。愛のささやきゲームをしようと思う」
「愛のささやき……今度こそ俺の真価が問われる相応しいゲームだな!」
「そこのクソは放って置いて説明続けるね」
「え?」
「これは簡単。相手の耳元で愛のこもった言葉を送るだけ。ただし周囲には聞こえない音量で話すこと。判定は照れたり笑ったりしたらと前回と一緒です」
「なるほど。この方法なら真澄も本命相手にボロを出すかも」


という事で、真澄も普通にゲームに誘うのは構わないと言っていたので、案外簡単に呼び出せた一行。
しかし居間に入ると違和感というか、変な空気である事を察した彼女は『またトト子関係かなぁ……』と思いつつ、ちゃぶ台の前に座った。

「今回は前回のリベンジゲームとして、愛のささやきゲームってのを企画したよ♡」
「はぁ……まあ良いけど」
「おいおいテンション低いなー」
「だって、どうせ罰ゲームとか言ってトト子に斡旋してとかでしょ」
「ないない!今回は純粋に楽しもうと思っただけ!」

胡散臭いなとは思いつつも、それ以上は突っ込まず、彼女はルールは?とトド松に聞く。兄弟に話した通りに説明すると、少しだけ顔をしかめるもゲームに参加することを渋々OKした。

「あ、でも何もないのも面白くないから、真澄が負けたら勝者の言うことを一つ聞いてね。逆に全勝したらケーキ奢るよ」
「(やっぱり何かあった)はいはい。わかりましたよ。その条件でオーケー」

投げやりな態度。本当に彼女の本命がこの中に居るのかと疑わしくなるが、トド松はトップバッターは?と聞くと誰も手をあげない。

「十四松兄さん、トップバッターはいいの?」
「前回トップバッターやって失敗したから、今回は四番!四番が良い!」
「うーん、そっか。じゃあ他の松でジャンケンして決めよっか」
「……はい」
「ん?」
「俺が……やる」
「トップバッターに一松兄さんが名乗り出た!」
「大丈夫かよ一松?」
「大丈夫。プレッシャーがあまりない内に終わらせる」
「カッコいいぜブラザー!」

何やら前回とは意気込みが違う一松。真澄の隣に座ると、やる気満々の目をして彼女を見つめる。殺る気……では無いことを願いたいほど、少し血走っている眼に真澄は少し引いた。

「先攻は珍しくヤル気になってる一松兄さんからで。ファイッ!」

口許に手を寄せてひそひそ話するように、本当にか細い声で彼女に伝える。

「……真澄の、俺を見捨てない所が好き」

これには内心驚いた真澄。思わず微笑ましいような、擽ったい気持ちになって笑いそうになるのを我慢して一松の耳元に口を寄せる。

「私も……兄弟が好きで、本当は思いやりのある優しい一松が好きだよ」
「んなっ!?別にアイツらなんて!」
「あ。一松兄さん負けた」
「早いよ一松。でも前回よりは成長したかな」
「〜〜〜クソっ(いろんな意味で反則だっつーの!)」

まあコレは多少健闘した方だと彼等も一松に何か言うこともなく、2番手に誰行くかと話し合う。
そうして、手を上げたのはチョロ松だった。

「前回はどうも」
「そういえば、にゃーちゃんのライブどうだった?」
「それはもう最高だった。マジ感謝してる」
「今回も負けてくれたら、にゃーちゃんのサイン入りポスターあげようかな」
「早速闇取引を持ちかけないの!」
「そしてチョロ松も握手しようとすんじゃねぇよ!なに取り引き成立させようとしてんだ!」
「うぅー……にゃーちゃんのポスター……」

やる前からチョロ松の戦意を削ぐのには十分だった。しかし、本来の目的をトド松がチョロ松に小声で吹き込むと、ポスターも惜しいは惜しいが、幼馴染の想い人を知りたい欲求により戦意復活。

急にやる気になったチョロ松を見て、そっちも闇取引してるじゃんと思った彼女だったが、トド松の開始宣言で意識をゲームに戻した。

先攻は真澄からだ。

「にゃーちゃんって何であんなに可愛いんだろうね。にゃーちゃんを応援してるチョロ松も好きだよ」
「ありがとう。ほんとにゃーちゃんって女神だよね。それに……僕がドルオタでも普通に接してくれる真澄も好きだよ」
「これからも仲良くしていきたいと思ってる。愛してるよチョロ松」
「本当に愛してるって思ってる?僕は結構好きですけど」
「愛してなかったら、にゃーちゃんの事も知らなかったし、チョロ松のドルオタも受け入れなかったよ」

そう囁くと、彼は真顔のまま、しばしば固まった。

「ギブアップする。ちょっと考えたい事があるから席外すね」
「「は?」」

そう宣言した彼はバッと立ち上がり、居間の襖を開け放ち、二階へとダッシュを決め込んだのだった。


(何を言われたんだか……)
(シコ松してないよな?あの三男)
「じゃあ次は……」
「おそ松、行っきまーす!」
「え、ラスボスしなくてもいいの?」
「ラスボスってww。いやね?ボソボソ喋ってるの見てるだけってさ、なに話してんのかも分かんないからさ」
「……飽きたんだね」
「いちまっちゃん、せいか〜い!」

宜しくと真澄の隣に座ると、何やら秘策でもあるのか企んでいるような感じである。それに彼女は警戒を強めた。

「真澄が先攻。レディ〜〜、ファイッ!」

カーン!とさっきまで無かったゴングを鳴らされて、一瞬驚いて肩を跳ねさせるも短く息を吐き、そっとおそ松の耳に口を寄せた。

「……好き」

たった2文字伝えただけで離れていき、おそ松は様子見かと真顔で彼女の顔を見つめる。今は相手も真顔で、まあそうだよなと思って、こっちのターンなので同じように耳に口を寄せる。

「俺さ、真澄とセックスしたい」
「……」
「正直○○○して、○○○○で、○○○○○○したい。めちゃくちゃしたい。ついでに○○○で…」

この男、下品極まりない言葉で照れさせる気のようだ。ある程度伝え終わり、これでどうだと真澄の顔を見たおそ松は後悔した。

そこには丸でゴミを見るように、冷たい目で自分を見ている顔があったからだ。そして失敗したのだと悟り、でも勝たなくてはいけないので余裕の表情を作ったまま、これからどんな言葉が帰ってくるのか覚悟して待った。

「おそ松のそういう所は嫌い」
(はうっ!)
「……でも、素直な所は好き」
(……え)
「あと何だかんだお兄ちゃんしてるおそ松を見てるのも好きだし、甘えてくるのも別に嫌じゃない」

おそ松は本当の意味で悟った。口でコイツに勝てるわけがない。そして、本命が分かった時に、彼女が自分以外を選んだらきっと……。


「……俺、えと、ちょっと外出てくる!」
「え!?おそ松兄さん!?」

チョロ松同様にダッシュで玄関に走り、靴をつっかけて外へと飛び出した長男に居間に居たものは唖然。

「……真澄。おそ松兄さんに何言ったの?」
「別に普通…」
「普通であんなにクソ長男照れないから」
「え。褒めれば結構な確率で嬉しそうに照れるよ、アイツ。まあそんな機会早々無いけど」
「フッ、流石は幼馴染。おそ松の弱点を知っていたってわけか」
「ハイハイハイ!つぎ四番、十四松行きやす!」
「あー、そうだね。よし十四松兄さん、頑張れ!(期待はしてないけど)」

次は四番、十四松。前回のリベンジって事でやる気は十分である。

「先攻は十四松兄さん。レディ、ファイト!」

ゴングは鳴らされた。

「あのね、真澄。好きだよ。いっぱい優しくしてくれるし、遊んでくれるし、大好き!」

彼女は真剣な表情のまま伝えてきた十四松に成長したなぁとのんびり考え、また一松と似た微笑ましさを感じる。

「うん。私も好きだよ。いつも十四松の元気に励まされてる」
「本当?じゃあ僕達の中で僕が一番好き?僕は真澄が一番大好き」

囁かれた言葉が脳に到達したのと同時に、真澄は誰が好きなのか、そして十四松はどういう意味で一番好きと言ったのかと二つの難題をぶつけられて、彼女は無表情のまま考えた。そして、意を決して十四松の耳に口を寄せた。

「…………──が好き」

それを聞いた十四松は小さく笑うと「参りました!」とゲームを降りた。

「ええ〜。十四松兄さんも降参なの?」
「うん!あ、野球してくんね!ハッスルハッスル、マッスルマッスル!」
「もう……十四松兄さんはマイペースだなぁ」


いつの間にか野球のユニフォームに着替えており、彼はバットを持って松野家をあとにした。

「じゃあ次はカラ松兄さん行く?」
「おそ松亡きいま、次男の俺がラストを飾るしかないだろう!」
「いや死んでないからね?わかった。じゃあ僕が相手だよ!一松兄さん開始合図お願い」
「はいよ〜」

可愛いらしく、語尾に♡マークが付きそうなくらいにはあざとい宜しくを言って座ったとたん、獲物を補足したようにギラついた目になった。これだから幼馴染の中で一番猫かぶりが凄い末っ子はとため息をついた彼女。しかし、油断できない相手で、強敵であると佇まいを直した。

「……じゃあトド松先攻で。レディ……ファイト」

やる気の無い声とは裏腹にゴングは甲高い音を響かせた。


「真澄、愛してるよ」
「愛してる」
「本当はトト子ちゃんより、真澄の方が好きなの知ってた?」
「そうなんだ。愛してる」
(チッ……やっぱり揺るがないか)

またもや淡々とした彼女からの『愛してる』だけ攻撃に、バリエーション豊かに囁くトド松はイライラし始める。そして、ある程度経って、もう聞いちゃえば良いや!となり、失敗したら降参するしかないと思った。

「聞きたいことあるんだけど、僕はすごーく真澄の事が好きなんだけど、真澄の本命って誰?」

彼女はピクリと眉を動かす。動揺してるのだとトド松は期待し、返答を待った。

「…………秘密。トド松、愛してるよ」

十四松には答えたのに、トド松には内緒にした。そのやり取りは十四松と真澄の二人しか知らないので、トド松は頑なだなと思いつつ、自分達の中に想い人がいるのは確信出来た。また今度にでも突き止めようと思い、降参と口にした。

「はい。最後カラ松兄さん。頑張ってー」
「何か急にやる気無くなってないか?トド松」
「気のせい気のせい。はい位置について」
「フッ。ともあれ俺の出番か!最高の舞台に立つ……俺!」
「いいから早く座れボケぇ!あとクソうざいポーズも腹立つ」
「いったぁ!?…………一松、酷いぞ」
「死ぬか?」
「何でもない。座ります」


涙目のラスボスが登場。
そんなカラ松に一言「大丈夫?」と一松に背中を蹴られた次男を労る彼女に、彼はパッと笑みを浮かべて直ぐに格好をつけた。

「先攻は真澄。はい、開始ー」

一松よりもやる気の無い声と共にゴングが鳴った。

愛してると手始めに伝えると、カラ松はそれだけで本当は嬉しいのだが顔には出さず、しっかり真顔を保ったまま自分のターンに入る。

「艶やかな髪は光を帯びてるように煌めき、君の微笑みを見るたびに私の胸を甘く締め付ける。この上なく幸福だと感じるほど、愛しています。私のプリンセス」


どこかのお伽噺にでも載ってそうな台詞。プリンセスという言葉には面食らったが、彼女は日頃の耐性があるために心を落ち着ける余裕もあった。

そして、やはり六つ子よりも上手である。

「私の王子様。貴方の優しさは皆に等しく、それでいて我慢をしてしまう事が多い。そんな貴方を見ると心が苦しく、でも愛しいと思っています」
「……、やはり俺はギルトガイ。大事なプリンセスを傷つけてしまうとは……君の笑みが見てみたいと思うのだが、どうしたら笑ってくれるかいハニー?愛してるんだ」
「さあ?でも、愛してるよカラ松。このゲームが終わったら笑うかもね」
「出来れば真澄が負けてくれたら嬉しいんだが。俺が負けたらロミオとジュリエットのような関係にでもなってくれるか?」
「ロミジュリだったら両親に反対されて駆け落ちみたいになるけど。働いてくれるんですか?」
「……働くのは……まあ、本当になってくれるなら頑張るが…………え、なってくれるのか?」
「愛があるならね」
「…………!!!?」

急にカラ松の顔がボンっと真っ赤になって、トド松の「結局、真澄の全勝かぁ」という呟きによって勝敗はついた。

「トド松。ケーキ食べたくなったから奢ってね」
「じゃあ駅前の所に出来たカフェ行ってみない?アップルパイが美味しいって有名みたい」
「良いね!あ、いつ空いてる?」
「ま、待った!真澄……さ、さっきの…」
「さっき?」
「愛があれば恋人になってくれるっていうやつだ!」
「え?むしろ愛がなければ恋人にはならないでしょ」

何を当然な事を聞いてるんだという風に言われ、カラ松は言葉に詰まった。

「え、いやまあ……それはそうなんだが……」
「あ、ごめん。お母さんからお使い頼まれちゃった。トド松あとで連絡よろしく」
「はいはーい(これはカラ松兄さんが何かを勘違いしたのか……それとも?)」

彼女は松野家を笑顔であとにして、少し松野家から離れた所でため息を吐いた。

「…………本当……心臓に悪いゲーム」


愛の囁きは心臓に悪い

((結局誰が好きか分かんなかった……))
(ハッスルハッスル!マッスルマッスル!)

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