短編

□私の兄がおかしい
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最近、私の兄達の様子がおかしい。
赤塚高校に上がってから妙に馴れ馴れしい……なんか違うな。まあ口煩いのとかスキンシップが多くなった感じがする。例えばチョロ松兄さん。

「真澄。スカート短くない?」
「ちゃんと校則通りの長さだよ?」
「んー……でもあと2センチ下げれない?」
「無理だよチョロ松兄さん。そうなるとスカートの裾直さなきゃ出来ない」
「そうだよねぇ……ちゃんと校則守って偉いなうちの妹は」

これが5日前の朝に交わされた会話。珍しく早く起きてきたのは面接があるとか言ってた企業に行く為だった。結果は惨敗だったらしくて、すごく落ち込んでいたのを慰めたのは昨日である。

「偉いねー」と私の頭を撫でるチョロ松兄さん。ここまでは通常運転。

「真澄は可愛いんだから気をつけろよな」
「チョロ松兄さんのそれは身内贔屓だよ」
「……でも他の悪い虫に隙を見せちゃ駄目だよ。油断してたらパクりと食べられるから」
「ないない。そんな魅力が私にないから」
「ほら直ぐに油断する!いいから気をつけて学校に行ってこい」

やけに最近は母よりも心配してくる兄。前も高校生になったから化粧に挑戦して、見せにいったら「まだ早い!」なんて言われてしまった。

じゃあ次は十四松兄さんの場合だ。

「真澄!一緒にお昼寝しよ!」
「え、眠くな─」
「ハイ!良い子はねんねだよ!」

部活も入ってない私は放課後真っ直ぐ家に帰る。ここ1ヶ月、十四松兄さんは家に居ることが多くなって、よく昼寝に私を誘う(強制)のだ。

「真澄は柔らかいね」

要は十四松兄さんの抱き枕なんだ、私は。

「ずっーーとぼくの傍にいてね。真澄の匂い大好きなんだぁー」
「……十四松兄さん。最近変態じみてない?」
「変態!?ぼく出来るよ変態!蝉になろっか!」
「そういう変態じゃなくて……あれだよ。変質者っていう意味」
「真澄。変質者っていうのは性犯罪をした人をいう言葉なんだよ。ぼく真澄にそんな事してない!」
「十四松兄さんは変な所で博識だよね。もう十四松兄さんは変でいいよ」
「……うん。ぼく変なのかも。でも真澄が好きな気持ちは変わらないよ」
「(自覚はあったんだ)ありがとう」

昔から抱き締める事が十四松兄さんの愛情表現だった。だけどなぜか最近は十四松兄さんらしくない気がして、緊張してしまうことが何回かあった。

次は一松兄さんの場合。

「真澄……高校で友達できた?」
「うん。むっちゃんとキーちゃんに鷹くん。今はその三人で行動すること多いけど、クラス全体仲良いよ」
「は?鷹くんて誰」
「むっちゃんの幼馴染でね、掃除当番とか実験で同じ班なんだ。いい人だよ」
「……ふーん。真澄はそいつ好きなの」
「うん?友達としてなら好きだよ。それに鷹くん、昔からむっちゃんの事好きなんだって。でも勇気なくて告白出来なくてさ……むっちゃんもむっちゃんで2次元の男にしか興味ないとかで、鷹くんの相談聞いたあと可哀想過ぎて泣けた」
「……そうなんだ。成就するように死ぬ気で祈ってくる」
「一松兄さんが祈ったら効き目抜群だね(祈りというか呪いの方かもだけど)」

普段家族以外に興味を持たない一松兄さんが、私の交遊関係を聞いてきた。あの時は気にしなかったけど、学校で何したかとか逐一聞いてくるようになった兄さんに、違和感を覚え始めている。

それじゃあ次はトド松兄さんだ。

一見この人は昔と変わらない。休日に一緒にお洒落なカフェに行ったり、買い物したりするのは普通の事だし、下が私しか居ないから甘やかしてもらってる自覚はある。
だけど…………やっぱり前と違う。

「はい、あーん♪」

軽快なカメラ音が連続的に鳴る。トド松兄さんはよくお菓子を買ってきては私に食べさせて、それを写メるようになった。頻度が多くなってきて最初はSNSの話題作りかなとか思ったけど、兄さんのを覗いたが写真は載せていなかった。

「え?だって真澄に変な虫が寄ってきて、ストーカーなんて事件になったら嫌だもん」
「じゃあ何で撮るの」
「思い出作りに決まってるでしょ」
「そうなんだ?」

兄さんが思い出作り……何とも似合わないワードだ。基本私には何かと報告してくれる兄だが、他の兄に何したか教えないドライモンスターと言われている。
しかも私はこの間見たのだ。つい2週間前に動物園に行ってきた一松兄さんと十四松兄さんが六つ子でお揃いのストラップ(北極熊)を買って来たのだが「もういいかな。捨てちゃっても」とゴミ箱にINしていたのを!十四松兄さんと一松兄さんが皆の為に買ったのに、それを2週間で捨てる?あ、ちなみに私にはパンダのストラップだった。熊繋がりである。
もしかしたら、私があげた今までの誕生日プレゼントも捨てられているかも……と思いきって聞いてみたら、段ボール持ってきて、一つ一つジップロックされて大切に保管されていた。

「真澄がくれたもの捨てるわけないでしょ?」
「だって、一松兄さんと十四松兄さんが買ってきたストラップ捨ててた……」
「あれはね。やっぱ男兄弟でお揃いは恥ずかしいからついね。真澄とのお揃いなら大歓迎だから!」

……らしい。男の人しか分からない感覚なのかもしれない。

次にカラ松兄さんの場合。

「ほら頑張れ。あと5回だ」
「…っ……、……し、……〜……ごーじゅっ!」
「お疲れ様マイシスター!コールドなドリンクをご所望だろ?」
「ありがとうカラ松兄さん」

トド松兄さんがよく食べさせ、十四松兄さんの昼寝のコンボが私を太らせようとしている。暇そうに鏡を見詰める事の多いカラ松兄さんに筋トレの補助を頼んだのが切欠で、定期的に足を押さえてもらったり、柔軟で背を押してもらったりしている。
そうしたら補助しながら鏡を見れるでしょ?まさに名案だ!と思ったけど、カラ松兄さんは鏡そっちのけで私を見たり話し掛ける結果になった。

「もうワンセットやるのか?」
「うん。補助お願いします」
「任せな!このカラ松がお前のパーフェクトボディをキープ・アンド・サポートしてみせるぜ!」

イタイのは通常運転。さっきみたいに足首を押さえてもらって、腹筋50回を始める。

すると……ね。

「……兄さん……近い」
「ん〜?気のせいじゃないか?」

身体を起こすと、カラ松兄さんが前のめりになっているから顔と顔との距離が近い。丁度私の膝の上くらい。支えてもらってるから当たり前なんだけど……なんか……なんか…………徐々に前に前にと来ている。

「ほら止まるな」
「も、もう少し下がってくれない?」
「そうしたら上手く力が入らなくて補助出来ないぞ。お前の身体が浮いてしまう」

カラ松兄さんなら余裕で出来ると思う。だけど好意でしてもらっているのにこれ以上言うのは気が引けて、間違ってキスしないように50回をやり遂げてお礼言って「宿題あるから!」と逃げたのも記憶に新しい。

最後におそ松兄さんの場合。

「真澄〜。結婚式するなら洋式?和式?」
「おそ松兄さん、彼女でも出来たの?」
「今のところはまだ。今のうちに意見は聞いておきたかったんだよね」
「……洋式かな。浴衣とか振り袖の着物は着れても、ウェディングドレスは結婚式くらいしか着れないから」
「ふんふん。ウェディングドレスね……似合うだろうなぁ」
「あ。トト子ちゃんのウェディングドレス姿想像したでしょ」
「さあ?ヒミツだよーん」

何気ない日常会話だったはずだった。でも、やっぱりおそ松兄さんも例に漏れずおかしいのだ。

「ハネムーンていうの?熱海でも良いものなのかな?」
「兄さん。そう言うのは彼女が出来てからその人に聞いたら?」
「じゃあ真澄。彼女になって!」
「……おそ松兄さん。馬鹿も休み休み言って」
「あ!馬鹿って言った!?馬鹿って言った奴が馬鹿なんだからな!」
「……」
「……ごめん。そんな冷めた目で見られたら俺死んじゃう」
「ハネムーンだけど」
「うん?」
「兄さんが一生懸命働いて、一所懸命考えて連れて行ってくれるなら、その人は嬉しいと思うよ」
「……!真澄愛してるぅうう!」

という感じの会話があった。


……なーんか皆して妙なんだよね。やけに私に構ってくるし、ほとんどがこの1ヶ月のうちに態度とか言動がおかしくなってる気がするのだ。

その真意がわかったのは今日、私の誕生日に明かされた。

「……ごめん。もう一回言って?」

いつもより豪華な夕飯食べて、兄妹仲良くケーキも食べて「誕生日おめでとう!」と笑顔でお祝いされた。
そうして私の誕生日会はお開きになって、お風呂入って、寝る頃に兄たちに「プレゼントを上げるから俺達の部屋においで」何て言われて行ったんだ。

「だからさ……お前が好きなの」
「マイシスター。いきなりで悪いが、本気で好きなんだ」
「何でこの日に言ったか分かる?」
「真澄は覚えて無いかもしれないけど、お前が8歳くらいの時に「結婚出来る歳になったら、お兄ちゃん達と結婚する!」て言ったんだよね」
「僕たち、真澄のその言葉嬉しかったんだよ!」
「ボクらも忘れると思ってたんだけど、中学生になってからどんどん可愛くなっていくんだもん。好きになっちゃうのも仕方ないよね」
「…………え。いやごめん。本当にごめんなさい。私達兄妹だよ?そこ分かってる?」

分かってる──六人の兄に見詰められて、私は泣きたい気持ちになった。
ずっと……ずっと……私だけが兄妹としてしか見ていなかった。私が小さい頃に言った些細な言葉で、兄達はおかしくなったんだ。

「泣かないでよ。お前はまだ学生なのも分かってるから、僕はちゃんと成人するまで待つから。でも知っていて欲しいし、選んでもらいたい」
「お兄ちゃんもまだ待ってあげられるよ。まあ働くのはイヤだけど、俺を選んでくれるなら働くつもり」
「シスター……お願いだ。選んでくれ」
「僕なら絶対に幸せに出来るよ!」
「お願い。ボク達気が合うでしょ。真澄の事なら大切にするのも分かってるでしょ?」
「ゴミ屑だけど、妹を好きになる気持ち悪い兄だって自覚してるけど、選んでほしい」

どうして。どうして?
怖くなって、考えたくなくて、兄さん達からどうにかして離れたくて……でもいつの間にか、かごめかごめ宜しく取り囲まれていて、耳を塞いでしゃがみこんだ。


兄がおかしくなったのは私のせい?


(それでも私に選べるはずもない)


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