短編

□白雪姫ではなく、魔女を頂こう
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「鏡よ鏡よ鏡さん。世界で一番美しいのは誰?」
『それは貴女です女王様』
「うふふ。そうでしょうとも」
女王と呼ばれた、それはそれは美しい女は鏡の言葉に機嫌を良くした。

──むかし。
ある城に白雪姫という姫が住んでいた。その新たな母親として来たのが冒頭の女王様だ。一人きりの部屋で毎日鏡に「世界で一番美しいのは誰?」と聞くのが習慣だった。しかもその鏡は不思議な鏡で、彼女の問いに答えを言う。
彼女の裏の顔は恐ろしい悪い魔女であった。

ある日も女王様は鏡に問いかけました。
「世界で一番美しいのは誰?」と。
鏡は答えました。
『世界で一番美しいのは白雪姫です』
もう一度問うが同じ事。激怒した女王は手下の狩人に白雪姫を殺し、その心臓を持ち帰るよう命じようとしましたが、鏡はもう一つ気になる事を言ったのです。
『嗚呼お待ち下さい女王様。白雪姫も美しいが、魔女も美しいのです』
「……魔女、ですって?」
魔女といえば自分。しかしそれならば遠回しに言う必要もないだろう。その魔女とは誰かと聞けば最近森の奥に住み始めた若き魔女、名を『真澄』と言った。
「……なるほど。どういった魔女かは知らないが、きっと綺麗になる秘薬を作ったに違いない。でないと私に勝てる筈がないもの!」
しかし白雪姫の存在も忘れてはならない。ならば両方始末するよりも、その魔女から秘薬を頂けば自分が一番美しくなるはずと考えた女王は手下の狩人にその魔女を探しに行かせたのだった。

ところ変わって森の奥。
そこには一人暮らしに丁度いいログハウスがあり、中では綺麗な長い黒髪を適当にまとめ、額の汗を拭いながら全神経を集中させて火に掛けている鍋の中身を掻き回す魔女が居た。
「………………出来た」
寝ずに鍋をかき混ぜて2日間。鍋の中身が緑から綺麗な蜂蜜色に変わった所で火を止めて、あら熱をとったら二十数個の小瓶に詰めていく。
「熱冷ましの秘薬はこれくらいで良いかしら。街では高熱の出る厄介な病気が流行ってて困るわ」
若き魔女は良い魔女であった。魔女にも色んなタイプが居るが彼女の得意としたのは薬学であり、魔女とは公言出来ないため薬売りとして街に出て人々の為に尽くしていた。街に出る時は魔女らしく姿を変えて、優しそうな男になる。男なら魔女に直結しないから怪しまれる事が少ないのだ。
「真澄ちゃーん!俺と今からデートしようよ」
「いやオレとだ!オレが最高にいいロケーションに連れていってやるぜ」
「良ければ僕と一緒に昼食を!」
「真澄ちゃん一緒に遊ぼう!ぼく野球がいいな!」
「兄さん達止めなよ。真澄ちゃんゴメンね。目の下に隈が出来てるし疲れてるでしょ。添い寝しよっか?」
「今から街に行くの。高熱が出る病が流行ってるから急がなきゃ」
若き魔女の所にやって来たのは五人の小人。小人は魔女の答えに残念だと一様に不満の声を上げた。
若き魔女は出来た薬を薬籠箱(やくろうばこ)に入れていき、その他に腰痛や傷薬等を詰め、それを背負って目眩ましの呪いを唱える。
青年の姿になった魔女に本当に今日は相手してくれないんだと小人達は悟り、また明日来ると街に出る彼女に手を振り見送った。
ログハウスから青年が出てきたのを狩人は見つけたが、果して彼は『魔女』なのか?と疑問を抱く。しかしこんな森の奥にあの小人以外に彼しか居なかった。それを女王に伝えると彼女は驚き、直接見るために街に忍びで出て行くのでした。

「真澄さんや。私は腰をやってしまったようでねぇ」
「腰痛ですね。他に何か困ってる症状ありますか?」
「それくらいだねぇ。真澄さんの薬はよく効くから、こんなもんさ」
「そうですか。ではこれを1日1袋湯に溶かしてお飲みください」
知り合いのバーの一角で彼(彼女)は応診して薬を売っていた。バーは夜しか開かないので昼間借りており、裏通りに面していて人が少ないそこは彼の薬を求めてそれなりの列が出来ている。
「──美しい」
そして女王はなんと、若き魔女の仮の姿に一目惚れしてしまったのです。
女王は薬売りの彼を手に入れたいが為に、まずは彼へのアプローチを考えました。しかしそこで邪魔な存在が一人居る事を思い出すのです。
そう白雪姫です。
彼をここに連れて来た時、自分以上に美しいと言われた白雪姫が居れば取られてしまうのではと思ったのです。
当初の通りに白雪姫を殺す事に決めた女王は狩人に命じました。
次の日、白雪姫は狩人に連れられ美しい花畑へとやってきます。女王から白雪姫の心臓を捧げるよう命じられていた狩人ですが、白雪姫を哀れに思い森に逃がしました。そして、狩人は猪の心臓を女王に捧げ、女王はこれで心置きなく彼にアプローチ出来ると浮かれていました。

一方、森に逃げた白雪姫ですが暗い森の中、泣き出してしまいます。
「あーん!もう最悪!私が綺麗だからって嫉妬するなんて、元庶民ってなんて心が乏しいのかしら」
実はこの白雪姫。女王同様に見た目だけのお姫様でした。彼女は素直のようでいて、腹黒な金とイケメンをこよなく愛するクズだったのです。しかし外面は取り繕うのが上手かった彼女は人々に愛されていました。
森の動物達もその噂を聞いていたから、まさか、彼女が白雪姫なんて思えず恐れ戦(おのの)きました。しかし放って置けなかった心優しい動物達は手頃な小人達の元に案内することにしました。
何となく、同類だと思ったのです。

「へぇー……ミニチュアハウスみたい。でも汚ないわね、誰も住んでないのかしら?」
彼女は見目が良い。可愛い子が好きな小人は世話をするだろうと、体よく押し付けた動物達は森に散らばったのであった。
そうして姫は5つに並べられたベッドだけは綺麗だったので、疲れたからとそこに横になって眠ったのです。
夕方になり、今日も若き魔女が街に出て暇だった小人達は森で思い思い遊んでついでに食料を調達したところで帰ってきました。
「今日も真澄ちゃんとまともに会話出来なかったなぁ〜」
「人間ばっかり構ってて妬けちゃうよね」
「でもそこが彼女の良い所でしょ。それに僕らにも優しいし、昨日だって帰って来たらお菓子をくれた」
「チョロ松の言う通りさ。噂では白雪姫というのが居るが、彼女こそエターナルプリンセス……オレ達の唯一の姫はあの人だ」
「あれー?知らない匂いがする」
黄色の服を着た十四松という小人は鼻が効く。家の中から知らない匂いがした事により警戒を強くするが、それが若き魔女と同じ女の子の匂いに気付いて先導するように一番に家へと入っていったのだ。
そこにはベッドで丸まって眠る可愛らしいお姫様の姿。彼らはこぞってその顔を覗き見ました。
「なにこれチョー可愛い!」
「エンジェルが降ってきた!」
「でも誰なんだろうこの人……」
「白い肌に綺麗な黒髪……もしかして噂の白雪姫?」
「本物のお姫様きた!」
眠る白雪姫の美貌にメロメロになった小人はデレデレとその顔を眺めておりました。
すると、家の中が騒がしくなった事により白雪姫は目を覚ますのです。
「うっさい!気持ちよく寝てたのに邪魔すんなよア゛ンコラァア!」
「「ボウゥエ!」」
白雪姫は起こされた原因である小人をぶっ飛ばし、またベッドに横になって眠り始めたのだった。
気を失ってしまった小人達は数分を経て起き上がれるようになり、白雪姫から離れてひそひそ話を始めました。
「ねぇ。あれ本当に白雪姫なの?噂と違いすぎない?」
「すっげー可愛いけど、すっげー可愛いけど!俺は真澄ちゃんに優しくされてたいー!」
「オレもあのプリンセスはちょっとな……」
「性格が魔女の方が良いってどうなの。白雪姫が魔女で真澄ちゃんが姫だったら納得するくらいなんだけど」
「「それな」」
小人でさえも美しいとはいえ、暴力を振るわれた初対面の相手に好意は持てなかった。でもあの腕力は小人の自分達じゃ太刀打ち出来なかった。
結果。
「あんた達、暫く私は此処に住むからこの汚い部屋を掃除なさい」
「ハァー?なんぐえっ!」
「絞め殺されなかったら聞けるわね?」
「「は……はい」」
再び目覚めた白雪姫の脅迫により、奴隷が決定したのであった。

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