短編

□白雪姫ではなく、魔女を頂こう
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哀れな小人達が白雪姫の奴隷となった翌日。今日は小人が家に来なかったのを疑問に思いながら日が落ちる前にバーの店主に挨拶し、店を出た若き魔女は薬を売った小金で小人達のお土産を買いに馴染みの菓子屋に行こうと思いました。
「……あの、」
「はい?」
後ろから遠慮がちに呼ばれて振り向いた魔女。そこにはローブのフードを深く被った人が居た。声からして男であり、怪しい見た目であるが気にした様子がない心優しい若き魔女は「どうしましたか?」と微笑んで対応しました。
「あんたが評判の良い薬売り?」
「評判は良いか分かりませんが、此処らにいる薬売りは私くらいでしょう」
「そう……えと、薬を売ってもらえない?」
「切らした薬もありますが……どういった症状にお悩みですか」
「俺じゃなくて……ねこ、なんだけど」
フードの男から猫というワードが飛び出て、若き魔女は少し驚いたような表情をした。
「そのネコ……鳥を追いかけて木に登ってたら落ちちゃって、前足怪我しちゃったんだ。幸い骨は折れてなかったけど、枝に引っ掛けたのか切り傷が出来て化膿しちゃってさ。……動物に効く薬ある?」
男には動物を愛しむ心があった。若き魔女は薬籠箱を開き、軟膏と飲み薬を取り出して彼に渡した。
「軟膏は小まめに付けて下さい。舐めても大丈夫なものですが、傷口が開くほど舐めるようなら使用を中止して、この飲み薬だけにして下さい。朝と夕方にミルク又は水に3滴垂らして飲ませてあげて下さいね」
「あ、ありがとう……いくら?」
「300パインです」
「……え、安くない?この薬大丈夫なの」
「効果は保証します。それから価格は私の労働力を抜かせばこんなものなんですよ」
(……見掛け通りのお人好しな薬売りだな)
男はきちんと代金を支払い、若き魔女はお大事にと言って菓子を買いに人の群れへと入っていった。それを彼は貰った薬を手に少しその背を見送っていると、若き魔女のポケットからハンカチが落ちたのを見て慌てて拾いに行き、声を掛けようとしたら案外早い歩みに追いかけるのを諦めました。
「……明日でいいか」
男が持つには少し可愛い白地に紫の花の刺繍が入ったそれを、無造作にポケットに仕舞ったのでした。

さて時は少し戻り若き魔女が薬を売ってる頃。白雪姫を葬ったと思い、女王はまた鏡に訪ねました。
「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは誰?」
『それは白雪姫と魔女に御座います』
「……白雪姫?あの子は死んだはずでしょう!?」
『いいえ。森に住む小人の家におります』
姫が生きていることを知った女王は再び殺そうと考えます。手下にさえ騙されて、他の者に頼れないと考えた女王は魔法を使って毒リンゴを作り、老婆の姿に化けて、リンゴを持って森へ出かけました。
小人の家に近づき、そぉっと様子を窺う物売りの老婆。
「オラオラオラァ!働けぇや下僕共がー!」
「「ヒィイイ〜〜!」」

「…………は?」
女王が目にしたもの。それはムチを振って小人を使役している白雪姫の姿だった。
一人は薪割りを、一人は家の床掃除を、一人は洗濯を、一人は繕い物を、一人は白雪姫の靴を磨いておりました。
白雪姫の噂くらい女王の耳にも入っていた。でも蓋を開ければなんとまあ醜い。こんな奴に負けたのかと自分の事を棚に上げて女王の怒りは頂点に来ました。
そのまま様子を見てると、桃色の小人が食料を探しに行ってくると言い出して、賢い緑色の小人は続けて白雪姫のお腹を満たすものを全員で探して行くと納得させて、小人達はすたこらと白雪姫から離れていった。
その機会を逃すまいと動いた老婆。小人の家の戸を叩きました。
「こんにちは。良い品物がありますので、お買いになりませんか?」
白雪姫はなにかと思って戸を堂々と開け、老婆に怪訝な顔を向けた。
「えー?お婆さんがどんな物用意したって言うのよ」
「リンゴをお持ちしました」
「リンゴかぁ……お腹空いてたし、一つ貰おうかしら。お代は国の城にいる陰険女王にでもツケといて」
「(こんのクソ女が!死ね!)……わかりました。ではどうぞ」
籠から一番綺麗で真っ赤に熟れたリンゴを差し出すと、可憐な笑みを見せた白雪姫は本当に外見だけは可愛いらしい。待ちきれずに、白雪姫は老婆が差し出したリンゴが毒とも知らずに一口囓り、苦しげなうめき声と共にバッタリとたおれ、そのまま息がたえてしまいました。
「あはははっ!これで邪魔者は居なくなった!さようなら白雪姫。誰もあんたを助けられる奴なんて居ないわ」
ご機嫌な女王様。お城へと帰り、明日には会える青年を想ってベッドで幸せな眠りに入るのだ。
******

「しばらく真澄ちゃんの家に住まわせて貰おうよ」
「そうしよう。というか俺たちのプリンセスと一生を共にするのはどうだ?」
「それいい!真澄ちゃんに永久就職するしかない!」
「小人と人間って結婚出来るのかな!?」
「真澄ちゃん魔女なんだし、人を大きくしたり小さくしたりするのもお手の物じゃね?」
「おそ松兄さん冴えてるね!」
「だっしょー!」
白雪姫から逃れた小人達は直ぐ様若き魔女の家へと向かいました。小さな足で一生懸命に歩き、日が落ちそうな夕暮れの中で黄色の小人はくるりと方向を変えました。鼻が効く小人は若き魔女の匂いを辿ってありったけの声量で彼女の名前を呼びました。元の姿に戻った薬籠箱を背負った少女はその声に気付き、小人達の前でしゃがみました。
「みんな此処で何をしてるの?」
「うわーん!真澄ちゃん聞いてよー!ボク達、家に帰れなくなっちゃった」
「迷子になってたの?」
「違う違う!昨日、白雪姫ってやつが勝手に俺達の家に侵入してて、しかも俺達の事をこき使うんだ!」
「だから真澄ちゃん、僕達を住まわせてくれないかな?もちろん出来るだけ僕達も家事を手伝うとかするから!」
「オレ達とハッピーなライフを送ろう!」
「待って。君達の家に白雪姫が?しかもこき使うなんて何かの間違いじゃ……白雪姫は心優しいお姫様だと聞き及んでいるのに」
「噂は所詮、噂だったんだよ」
桃色が吐き捨てるように言うと、顔に影を落とした小人達の様子に若き魔女も「……そうだったのか」と納得するしかありませんでした。
「じゃあ白雪姫はまだ君達の家にいるのね?」
「いるね!」
「でも会いに行くなんて止めた方が良いよ!絶対に!」
「あの様子じゃ真澄ちゃんも酷い事されるかもしれないから止めとけって!」
「でも白雪姫が何でこんな森の奥まで来てしまったのか聞かないと。お城に帰りたいのなら手助けしてあげなくちゃ。それに余程の事情があって、気丈に振る舞ってたのかもしれないし」
「「ないない。それはない」」
小人達の制止も虚しく、心優しい若き魔女は白雪姫の元に行く事にしました。渋々若き魔女と一緒に家に戻る小人達。
すると、どうでしょう。
なんと小人の家の前で倒れている白雪姫を発見するのでした。
「白雪姫!?」
(ラッキー!なんか知らねぇけど白雪姫倒れてる)
(死んでるのかな!?)
(だったら放置するのは不味いかも)
(確かに。埋葬してあげよう)
(一応彼女は本物のプリンセスだ。この前おそ松がどこからか見つけたガラスの棺でゴー・トゥ・ヘルさせてあげようじゃないか)
((いいねー!))
小人達同士でしか分からないテレパシーで会話している間にも、若き魔女は倒れ伏している彼女を抱き起こして呼吸を確かめました。
「……死んでいる」
((よし。埋めよう))
傍らに転がるリンゴに気づいた若き魔女は手に取った。それには一口囓った跡が残されている。
匂いを嗅いでも普通のリンゴ。黄色の小人も「リンゴだー!」と目をキラキラさせていて、匂いに変な所はなかったようです。
何を思ったのか若き魔女はそのリンゴを一口含みました。
「!……ゲホッ、ゴホゴホッ」
「「真澄ちゃん!?」」
「ツ…………はぁ……魔女特有の毒リンゴだ」
「毒!?真澄ちゃん大丈夫なの!?」
「耐性があるから……でも、これなら白雪姫は助かるかもしれない」
「「……え」」
「魔女の毒リンゴは呪いが主体なんだ。今の彼女は仮死状態でもって2日かな?呪いを解くには彼女の運命の人の口付け、もしくは私が解毒薬を作る事の二つなんだけど……今から作っても間に合うかどうか」
(ど、どうしよう!?このままだと白雪姫が生き返っちゃう!)
(いやだー!)
(トドメ刺す!?)
(刺すの!?ぼくは打つのが得意だよ!)
(野球の話じゃないよ十四松兄さん!)
(エイトシャットアウト!オレ達の未来が閉ざされてしまう!)
とりあえず此処で寝かせては置けないと薬籠箱は小人達の家に置かせて貰い、白雪姫をおんぶして自分の家に連れて行こうとする若き魔女に、桃色の小人は待ってを掛けます。
「もう暗くなるし、白雪姫は僕達の家に寝かせておこうよ!夜道で足を滑らして二人が怪我したら危ないよ、ね?」
「でも仮にも死んでいるから……死人が自分のベッドに居るのは嫌でしょう?私は平気だから大丈夫だけど」
「大丈夫だから!ボク達ちょうど良いもの持ってるんだ」
「そうなの?」
「うん。そうなの!」
そうして桃色の小人に案内されたのは、暗くて分からないが昼間は綺麗な花園の真ん中にポツリとあったガラスの棺。得意気に見つけたのは俺なんだとは赤の小人の声。
「いやいや。棺はやめようよ」
「でも雨風凌げて、尚且つ誰の迷惑にならない絶好の場所だよ!」
「というか何で此処にガラスの棺が?誰のものなのか分からないものを勝手に使っちゃダメでしょ」
「2日間だけ借りるだけだって!ちゃんとメモを残して置けばオーケーっしょ!」
「ううーん……」
「大丈夫だよ!その棺作ったの聖沢庄之助だから!」
「なら大丈夫だな!」
「そう!聖沢庄之助が作った……て誰だよ?」
「聖沢庄之助は聖沢庄之助だよ!家宝にすっぺぇー!」
「十四松くんの友達なら大丈夫……なのかな?」
うっかり若き魔女は小人の口車に乗せられて、白雪姫をガラスの棺桶に入れました。もし人が来て、この白雪姫を見られたら大変なので森の動物達に協力を仰ぎ、彼女は小人に土産の菓子を渡してさっさと解毒薬を作りに自宅に帰りました。

「…………真澄ちゃんの薬が間に合わないように願うしかないな」
「「おう……」」

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