Vampire

□砂鉄
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 更に囚われれば囚われるほど、自分は枢にも囚われていたのだと気付く。
 そんな自分に嘲笑しつつ、その事実をどこかで気付いていながら、目を反らし続けてきたのではないだろうか、と自問自答する。そんなことをしたって、無駄なのはもうとっくに知っていた。知っていたけれども――考えずには居られなかった。


 そして、目の前の友人は、対吸血鬼の剣を握り、僕を見つめている。
 僅かな友情を滲ませたその哀しそうな瞳が、突き刺さるように痛い。無言で突き立てられる剣に、死への恐怖で背に冷たいものが奔る。
 同時に冷えていく心。
 あの16年間は僕らにとって一体何だったのだろう。
 君にとっては、ただ偽りで塗り固められた時間だったんだろうか。
 否、その通りなのだろう。君は今まで計算の上で生きてきたのだから。

 でも、僕は――。


「……更さん、一度退いた方がいいですよ。対吸血鬼用の剣を持ち込まれました」


 ああ、自分は一体何を言っているんだろう。
 君に対して言いたいことはたくさんあるのに。
 でも、僕の細胞が、僕の肉体を流れる更の血が、本能的にそうさせる。
 操られた騎士として、後ろにいる女王様を、守らなければ――と。


「一条さん!」

「更様!」


 勢い良く扉が開いた。千里と更の”小鳥たち”がやってきた。その声がした途端、枢の姿は蝙蝠となって一目散に散っていく。
 影。本体ではなかったのか。
 君は本気で僕を殺すつもりだったのか。いや、違うだろ。君は……。


 最後の蝙蝠が窓から去ってゆくのを見届けた途端――。
 ぎゅ……と後ろから抱きしめられる。
 その腕の主が、更だと気付いたのは数秒後。信じられない思いで後ろを振り向くと。



 いつもの、女王様のように自信満々な姿はどこに行ったのか――。
 伏せられた瞳は、恐怖で打ち震えた兎のように頼りなげで。崖っぷちに咲く一輪の花のように、儚げで。



 ――ああ。
 僕は今この女を守らなければならないんだ。どうしても。
 それが彼女の血によって操られたのだとしても。
 どうしても守らなければならない。
 それが僕の役目なのだから。







 それはまるで、磁力につかまった砂鉄のような――。









-fin-







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