Vampire

□望みを遺すために
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知っていた。
身体を重ねた時から何もかも――。

「矛盾だらけです。純血種なんて滅べばいいと言いながら――」

 そう言う愛しいひとの唇を塞いで、僕は何度も求めた。彼女の身体を、血を、魂までも何もかも――。
 気が狂いそうになるぐらい、長い年月を経て、やっと見つけた愛しいひと。妹のような存在でもあり、娘のようでもあり、妻のようでもある、何もかもすべてが空っぽだった僕の世界を満たす、愛しいひと。

「優姫、僕が矛盾だらけなのは知っているよ」
「なのに?」
「君にはわからないだろうね」
「またそれを言う」

 一丁前に言うようになった、と思いながら笑う。どうして笑うのですか、と拗ねたようにいう愛しいひとに、「ごめんね」と頭をなでる。僕がそうやって笑うのが嫌なのも、知っている。でもね、本当に今言っても分からないと思うから言ってしまうんだ。いや、今のは言えないから誤魔化しているんだろうな。それを君に悟られないようにと願っている僕は、恐ろしく罪深いのだろう。

「ずっと、こうしたかった?」

 横を見やると、愛しいひとが焦げ茶のつぶらな瞳で僕を見つめている。八方ふさがりな僕たちは、愛しさと切なさと哀しさのあまりに、身体を重ねたけれど、最初からずっとこうしたかった――。
 そうだ、ずっとこうしたかった。君が生まれた時から、多分、ずっと。僕は返事を待つ愛しいひとの白い頬をそっと撫でた。

「そうだよ」

 そう言うと、彼女は恥ずかしさや切なさやらで一杯になり、複雑そうな表情を浮かべた。そんな顔をしなくていい。僕が見たいのは、君の笑顔だから――。
 愛しいひとを自分の方に抱き寄せて、抱きしめた。離さないように。

「枢、?」

 「お兄様」でなく、僕の名を、ただ「枢」を呼んでくれるようになった愛しいひと。ごめんね、と心の中で詫びながら、強く強く抱きしめる。

「枢、いたい、」
「うん」
「……でも、これぐらいが丁度良い」
「……うん」

 ごめんね。僕には見えているんだ。
 この先どうなるのか、どうなっていくのかも。
 だから、置いていくよ。

 言葉でもなく、物でもなく、
 たった一つだけ、君に遺せるものを。

 言葉でもなく、物でもない、大切なものを――。







-fin-

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