Vampire

□孤独だけを連れて歩けたならば
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私にはあのひとが遺してくれた娘がいる。
それに、私の全てを受け止めてくれる優しいひとがいる。

だから、死ねない。
愛しいあのひとの後を追うことができない。
出来なくしてくれたのだろう。
だって、あのひとは全て見通した上で心臓を投げうったのだから。
憎みたくても、憎めない。憎みたくても、愛しさばかりが増してしまう。

頼ちゃん――。
私の理解者が老いていく姿を見て――時の流れに疎くなってしまったと本当に痛感する。人間だった頃は、一日の流れが早いようでゆっくりと流れていた。今よりも、時間の秒針が一秒一秒と刻むように、一日をちゃんと生きていたように思う。なのに、今はぼんやりするとあっという間に一カ月、気付けば一年が過ぎている――。

純血種、という立場がどんなものか身を持って味わった今。
純血種という重い重圧を感じながら、私はあのひとのことをいつも想う。
あのひとはこんなに苦しいものを抱えていたのかと。
あのひとはこんな時、どんなことを思っていたのだろうかと。

気の遠くなるぐらいに生きてきたあのひとは、絶望というものを何度も味わいながら生きてきた。その気持ちも、今となっては痛いほどわかる。

――枢。
貴方が遺してくれた娘は、立派に育っているよ。
私よりもちゃんとしているし、何年かしたら、仕事も任せられる。

――枢。
今、赦されるなら、貴方の元に行きたい。
今、許されるなら、貴方の後を追いたい。

私が今、孤独だったなら、と思う。
私が今、孤独で、寂しさに耐えられなくて、貴方の後を追えたら、と。
そうなれば、悔いもなく、後ろ髪ひかれることなく、死ねるのに、と。

でも、死ねない。
私には愛する存在がいて、支えてくれる優しいひとがいる。

だから、死ねない。
それは、貴方が出来なくしてくれたのね。
全てお見通しだった貴方。
その上で心臓を投げうった貴方。
憎みたくても、憎めない。憎みたくても、愛しさばかりが増してしまう。







-fin-

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