Vampire

□君が為に生きる
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何もかも忘れて、泡沫のように消えてしまいたいと思う時がある。
胸をかきむしっても消えない憎しみをどうにかしたいと願う。けれど、どうしようにもできない苦しみが張り付いて離れない。そんな時、零はきまってあの儀式をする。


自室のベッドに腰かけて、銃を取り出す。
自分の髪と同じ、銀色に光るブラッディローズ。
それをじっと眺めたあと、自分のこめかみに充てる。
そしていつものように目をつむる。深呼吸をひとつ。
灰と化す自分の亡骸を想像しながら、
トリガーを引く――


“零”


その一歩前で、優姫の悲しむ顔が零の脳裏に浮かぶ。
優姫、と声にならない声で、彼女の名を叫ぶ。彼女の顔を思い出すと、あの子の赤い潮を求める獣が疼き出す。優姫、と彼女の血を求めれば求めるほど、自分のために流してくれた涙も、真っすぐに見つめてくる瞳も、明るい笑顔も、全部独り占めにしてしまいたいと思う自分がいた。
優姫、俺は――。


トリガーを引く指が止まる。
ゆっくりと目を開く。力なく降ろされる腕。
ブラッディローズが銀色に光りながら、零を見つめ返している。
――自分を嘲笑っているかのように。


思わず苦笑いしてしまう。
くしゃり、と銀色の髪を握りしめる。絞り出るように出たため息。
倒れるように、ベッドに横たわる。天井を仰ぐ。


“零”



何もかも忘れて、泡沫のように消えてしまいたいと思う時がある。
胸をかきむしっても消えない憎しみをどうにかしたいと願う。けれど、その指でトリガーを引けないのは、ただひとつ。優姫がいるから。その事実を、儀式の度に確認する。それが、零にとって生きる取っ掛かりになっているのも、また事実である。


優姫、俺は――。


色んな思いが交差する中で、一筋の希望のように零を照らす優姫の笑顔。少しだけ苦しみが和らいだような気がして、零はそっと瞳を閉じた。





-fin-

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