Vampire

□ハッピーバースデー
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明日。
母の千年目の誕生日が迫ろうとしている。
いつも口癖のように、あるいは言い聞かせるように、私たちに言った。
「千度目の誕生日がきたら、お母さんはあの人のもとへ還ります」と。
それは何度も聞いてきたことだし、覚悟しているつもりだった。それに、いなくなるのではなく、見えなくなるだけで、常に、お父さんの中にいることも、分かっている。――つもりだった。それでも、居なくなるという現実が迫っていくにつれて、母との数え切れないほどの思い出が蘇り、決めていたはずの覚悟が揺らいでしまうこともあった。でも、誰よりも長く側で見てきた私は、知っている。どれだけ母が、父を想い、幸せを願っているか……。





明日。
母さんの千年目の誕生日が迫ろうとしている。
私と姉さんは、とにかくずっと母さんの側にいた。優しくて温かい母さんが、居なくなる――そう思うだけで、胸が張り裂ける想いだった。
母さんが、もうひとりの義父さんのことを、どんなに愛して、どんなに想っているかは、分かってはいるつもりだった。
――でも、日が近づいていくにつれて、”どうして”って心の中で叫ぶ幼い自分がいて、やっぱり分かってなどいなかったのだと気付かされることがある。けれど、我儘を言ったり、泣き顔を母さんに見せたら、辛い思いをさせてしまうから、母さんの前では、笑っているって姉さんと約束したんだ。そして、凛と微笑っている母さんが、生命を捧げてまで愛したひとの一生を、この目で見届けようって決めたんだ。







 
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