少年が泣いていた

(一条×純血種夢主)






――少年が泣いていた。

綺麗なアカシアはちみつ色の髪の毛をした、少年が泣いていた。
きらきらと金の輪を頂きに乗せ、爽やかな新緑色の瞳は、涙で濡れていた。
あの子だと思った。綺麗な綺麗な人の皮を被った、優しくて獰猛な獣。
どうして子どもの姿で、わたしの前に現れたのだろうと思いながら、小さな背中を眺めていた。
少年は泣いていた。わんわんと泣いていた。あんまりにも泣くものだから、「どうしたの」と声をかけようかかけまいか迷った。拾っても、仕方がないことだと――知らないふりをしようと思った。
それなのに、どうしてわたしは。

「……どうしたの」

気がつけば、泣いている少年の元に歩み寄って、尋ねていた。
少年は弾けたように顔を上げて、涙で濡れたまん丸い瞳でわたしをじぃっと捉えた。それから、また溢れ出すように顔をぐしゃぐしゃにして。
「――嫌なんだ」
「……何が嫌なの?」
そう尋ねると、彼は両手で拭って。
「この辺りがざわざわってするんだ。ざわざわざわざわって……すごく、嫌なんだ」
少年はそう言って、自分自身の胸の辺りに手を当てた。彼の瞳からぽろぽろと溢れていく涙は、まるで真珠みたいに綺麗だった。この子は、その感情の名前を知らないのだろう。
「……寂しいのね」
そうっと教えてあげると、彼は僅かに瞠目して、あどけない顔のまま首をかしげた。
「……さみしい?」
「ええ、その感情はね、“さみしい”というの」
わたしは可哀想になって、その子の胸に当てた手の上に、自身の手をそっと乗せた。まん丸い瞳は不思議そうな眼差しでわたしを見つめた。しばらくして、彼はわたしの手の上に、もう一方の手を重ねた。うつむいていた少年は嬉しそうに微笑って、わたしの方を見上げて言った。
「ねえ、不思議だ。ざわざわって、しなくなったよ」
「……それなら、良かった」
ほほえみ返すと、少年はきらきらと瞳を輝かせて。
「あなたが、治してくれたんだよ」
「…………そうかしら」
「うん。あなたがいたらね、ぼくはきっと……さみしくないと思うんだ」
あまりにも純粋すぎる言葉。思わず困ってしまって、曖昧に笑い返した。
「だからね……側にいて? ぼくがこれ以上、さみしくて泣いてしまわないように……」
少年は小さな手のひらでわたしの手を包み、まっすぐな眼差しを向けた。
綺麗な綺麗な人の皮を被った、優しくて獰猛な獣。
その子は、“さみしい”という病に冒されていた。
ふいに思った。
寂しいのは、どちらだろうかと――。










 






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