色松
□猫、ねこ、ネコ
3ページ/5ページ
「今帰ったぜ」
「たらーまぁー」
家の戸をガラ、と開けると中からおかえりーと幾つかの声が返ってきた。
一松のこの様子を何も説明していない兄弟がこの状況を見て騒がなければいいがと思いながら今の襖を開ける。
「カラ松兄さんおかえりー」
「おかえりー」
居間にいたのはトド松とチョロ松。
トド松はスマホから目を離すことなく声をかける。チョロ松も就活誌から目を離すことなく適当に声をかけてきた。
「とろまちゅ!ちょぉまちゅ!たらま!」
「「・・・え?」」
一松が俺の腕の中でバッと両腕を上げ満面の笑みになりながら声を発した。トド松とチョロ松はその声にバッとこちらを見遣り、目を見開いている。
「え、え、・・・ええええええ!?い、一松兄さん!?え!?ちっちゃい!耳!?え!?」
「な、何があったの一松!!!?」
「ふぇ・・・」
2人がいきなり大きな声を出したのに肩をビクッと震わせて吃驚して瞳に涙を溜める。
「お、おい二人とも・・・大きい声を出すな。一松が驚いてるじゃないか」
「ぁ・・・ご、ごめんね?一松兄さん」
「ごめん」
トド松が一松の頭を撫でてやるとにぱぁと笑顔になった。とりあえず胡坐をかいて座り真ん中に一松を座らせてやった。
「で?何がどうなってこうなったの?」
読んでいた本を置き、一松と俺を交互に見ながらチョロ松が問いかける。トド松は、可愛い!と言いながら一松を写真に収めていた。
「ざっと言えばデカパンの薬を飲んでこうなったんだ」
「ざっくりしすぎ!!?でもまぁそんな事だろうとは思ったよ。
いつ治るの?」
「それが分からないんだ・・・」
俺とチョロ松は、はぁーと深いため息をつく。すると一松が一生懸命に腕を伸ばして俺の頬に触れてきた。
「ん?どうした一松?」
「からまちゅ、げんき、ない?」
心配そうにこちらを見ながら首をこてんと傾げる。かと思えばぱっと表情が明るくなり俺の足の上に立って頬にちゅっとキスをした。
「!?ど、どうした一松!?」
「げんき、でるおまじない!」
にこにこと無邪気に笑う一松に3人して顔を真っ赤にした。
(((可愛すぎるーーーー!!!!!)))
「ただいまー・・・はぁ、やーっぱ出ねぇ・・・」
玄関の戸がガラガラと開いた音と同時におそ松の声がした。
居間の戸を開け、こちらの状況を見るとピタ、と固まった。
「おしょまちゅ!おかり!」
「・・・え?一松?え?え?」
「おそ松兄さん、大きい声出すなよ?一松がビビる」
戸惑いながらチョロ松の隣に座る。ジーッと一松をガン見してると一松がこてん?と首を傾げながらおそ松を見つめる。
「・・・何これクソ可愛い」
「おしょまちゅ!あそぶ!」
俺の中でジタバタと暴れ腕からスルリと抜けるとおそ松の方へトテトテと歩きがしっとしがみついた。
「あ、遊ぶ?何するかっ」
「んぅーたかいの!たかいたかいの!」
両手を上にぐーっと伸ばし抱っこを催促する一松。あいよ、とおそ松は一松を抱っこして立ち上がり、たかいたかーいと言いながら遊び始める。
「カラ松兄さん、顔怖いから。仕方ないよ知能同じくらいなんだもん」
トド松の言葉にハッとした。
そんな怖い顔してたか?
おそ松に遊んでもらいきゃっきゃと喜ぶ一松を見て、頬が綻んだ。
「ただいーまっするまっするぅー!!!!」
「ひっ!?・・・ふ、ぅえぇぇ・・・」
十四松が帰ってきた。そのいきなりの大声に先程までの笑顔が消えポロポロと涙を流す。
「え、えぇーっ!?あんの馬鹿・・・」
「もぉー十四松兄さんはー・・・」
おそ松はあたふたしながらも必死にあやそうとする。トド松は溜息を吐いて玄関に向かった。恐らく十四松に説明をしに行ったんだろう。
「うっぅ・・・からまちゅっがいぃ・・・っ」
時折しゃくり上げながらこちらに手を伸ばす一松。少し吃驚したが一松の体をこちらへ収めた。
「は〜吃驚した。やっぱ恋人がいいだね〜」
おそ松はチョロ松の隣に座り込み肩に頭を預けた。
「アンタも大概ね。」
「ん〜?俺はチョロちゃん大好きだし〜」
「一松、大丈夫だ俺がいるから」
「ひっく、うぅ・・・っ」
俺の服にしがみつき、顔を埋めながら泣き続ける一松。頭を撫で背中をトントンとしてやりながら声をかける。
「一松兄さん〜・・・ごめんなさいぃ・・・」
居間の戸が開けられ十四松とトド松が戻ってきた。十四松はしょぼんと申し訳なさそうな顔をして一松に謝る。
「っう、?・・・じゅうちまちゅ?」
俺の肩越しに目だけ覗かせちらりと十四松を見遣る。
十四松がにこっと笑うと瞳に涙を浮かべながらもにこっと笑い返した。