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「フン。あれのどこが楽しそうに……。って、見てたのか!?」
「はい。失礼ながら。」
「のぞき見なんて卑怯だな。」
「岸辺先生が言えないでしょ。」
「あれはのぞき見じゃない。聞き耳を立てていたというんだ。」
「悪趣味ですね。」
「君が言えることか?」
「それもそうですね。」
紅桜は愛想笑いの一つも立てず、ただ真顔で言葉を紡ぐ。
あの時も、大声を立てて笑えばいいのに、どうしてあんな笑っているのかどうかわかりにくい表情をしたのだろうか。
「なぁ」
「なんですか」
「どうして君は笑わないんだ?」
「さぁ。」
「ふざけているのか。」
「いえ。」
「じゃあ答えろよ。」
「答えたら、約束守ったことになりますよ。」
「あれはプライベート、今は仕事だ。」
「……はぁ。」
「早く答えろよ。」
彼女は運転しながら、少し目を伏せ気味にして、
「トラウマ、精神的外傷です。」
「へぇ。笑うことにか?」
「表情を出すことにです。」
「どうしてトラウマに感じるんだ?」
「それは言えません。」
「……そうか。」
僕はちらりと外を見る。
外は太陽がぎらぎらと光っていて、行く人行く人の表情は、怒っているように見えた。
「なぁ」
「なんでしょうか。」
「明日、僕の家に来いよ。」
「昼頃でいいですか?」
「あぁ。」
紅桜は「つきましたよ」と一言いう。
「体調、早く治せよ。」
「はい。……それでは、また明日、伺います。」
「あぁ。」
僕は車から降り、腕についた草を見る。
少し、しおれているような気がした。
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